
孫と過ごす時間を楽しみにしている祖父母は多いもの。遊び相手になったり、成長を間近で見守ったりすることに喜びを感じる人も多いでしょう。一方で、子育てを支える存在として期待されるなか、世話が日常化すると体力や家計への負担が積み重なり、気づかないうちに生活が孫中心になってしまうこともあります。
「孫はかわいい。でも…」少しずつ積み重なった負担
和夫さん(仮名・70歳)は、妻と二人暮らしをしています。夫婦の年金は月25万円ほど。住宅ローンはありませんが、固定資産税や医療費、車の維持費を考えると、余裕があるとは言い切れません。
長男夫婦は車で20分ほどの場所に住んでおり、小学生の孫が2人います。和夫さんにとって孫は何よりかわいい存在でした。退職後、時間に余裕ができたこともあり、最初は週末に少し遊び相手をする程度でした。
「じいじ、サッカーしよう」
そう言われると、和夫さんはうれしくなりました。公園でボールを蹴り、帰りにアイスを買ってあげる。そんな時間は、退職後の生活に張り合いを与えてくれました。
孫との時間は少しずつ増えていきました。長男夫婦が共働きで忙しく、土曜日の習い事の送迎や、日曜日の昼食づくりを頼まれるようになったのです。最初は月に1、2回でしたが、気づけば毎週末の予定になっていました。
「悪いけど、今週もお願いできる?」
長男からそう連絡が来ると、和夫さんは断れませんでした。自分が暇だと思われていることに少し引っかかりながらも、孫に会えるうれしさの方が勝っていたからです。
しかし70歳の体には負担が残るようになりました。朝から車で迎えに行き、習い事へ送って、昼食を食べさせ、公園で遊ぶ。帰宅する頃には足腰が重く、翌日まで疲れが残ります。
ある日、妻が心配そうに言いました。
「最近、日曜の夜になると顔色が悪いわよ」
和夫さんは苦笑しました。
「孫はかわいい。でも正直疲れた……」
そう口にした瞬間、自分でも驚きました。孫を嫌になったわけではありません。ただ、“じいじ”として期待される役割に、少しずつ限界を感じていたのです。
負担がかかっていたのは、体力面だけではありません。孫を預かる日は食費や外食費、ガソリン代が増えます。おもちゃやお菓子をねだられれば、つい買ってしまいます。1回ごとの支出は小さくても、毎週続けば家計簿にははっきり表れました。
総務省『家計調査(2025年)』によると、65歳以上の夫婦のみ無職世帯では、可処分所得約22.2万円に対し、消費支出は約26.4万円で、平均では毎月約4.2万円の不足が生じています。
和夫さんは、孫に会う予定が入るたびに、楽しみよりも「今週も休めないのか」という気持ちが先に来るようになってしまいました。
「頼られる喜び」と「限界」の間で出した答え
転機になったのは、孫の運動会の翌週でした。朝から場所取りを手伝い、弁当を運び、下の孫の相手をしながら一日を過ごした和夫さんは、帰宅後に腰の痛みで動けなくなりました。数日たっても痛みが引かず、整形外科を受診すると、医師から「無理はしないように」と言われました。
それでも長男からは、週末の送迎を頼む連絡が来ました。和夫さんはスマートフォンを見つめ、初めてすぐに返信できませんでした。
「断ったら、孫に会えなくなるんじゃないか」
そんな不安もありました。しかし妻に促され、和夫さんは長男夫婦に話すことにしました。
「孫たちはかわいい。でも、毎週末預かるのは体力的にきつくなってきた」
孫に会えるのはうれしいこと、ただ、毎週の送迎や外遊びを当然のように任されると、休む時間がなくなること。食費やガソリン代も重なっていること。長男夫婦は黙って聞いていました。
話し合いの結果、和夫さんが孫を預かるのは月2回を基本にし、送迎が必要な日は事前に相談することになりました。外食や遊びの費用も、長男夫婦が一定額を渡すことにしました。
線引きをしたことで、和夫さんの気持ちは少し軽くなりました。孫に会う日を「また大変だ」と身構えるのではなく、心から楽しみに待てるようになったのです。
体力にも家計にも限りがあり、無理を重ねれば、本来はかけがえのない時間まで負担に変わってしまいます。これからも笑顔で孫と向き合い続けるためには、それぞれが無理なく支え合える距離感を家族で話し合い、共有することが大切なのかもしれません。
