専門家の助言で「任意後見契約」を締結し、「公正証書遺言」を作成
父親は、初めは口を開こうとしなかったが、三浦さんが、「認知症になったら、後見人を立てないと金融機関から預金の引き出しが難しくなる場合がある」「晩年には第三者が金銭管理を行うケースが多い」と話したところ、資産状況を明かしてくれた。
結果、父親名義の預金や国債、株式、不動産で、総資産は約9000万円あることが判明。父親が先に亡くなり、母親と2人の娘が相続する場合は配偶者控除があり、課税される可能性は低いが、母親が先に亡くなった場合は、父親が亡くなるときの法定相続人は娘2人となるため、配偶者控除が使えない。基礎控除は、3000万円+(600万円×法定相続人の数)で、4200万円の控除があるが、相続税を支払う可能性が出てくる。
そこで三浦さんは、税理士を入れて相続対策を行うことを提案。
さらに、父親が認知症になり、金銭管理が難しくなった時に、相川さんが両親の支援の中心となれるよう、弁護士に依頼して、任意後見契約と金銭管理契約を父母と締結。「娘たちを相続で泣かせたくない」との思いから、公正証書遺言の作成も同時に行った。
これで、
1.両親の介護のこと
2.両親の金銭管理のこと
5.相続税のこと
の方向性が決定した。
「生前整理」の方向性もスムーズに決定
残る3.両親の荷物のこと、4.祖父母が眠る墓のことについては、父親から話があった。
3.については、半分を占める祖父母の遺品はいくつか残してあとは処分し、自分たちの荷物も不要な物は処分するつもりだという。父親は、以前テレビで遺品整理の特集を見て、子どもが苦労している様子が目に焼き付いており、いつか片付けようと考えていたようだ。
4.については、「今は自分が管理しているが、亡くなった後は墓じまいをしてほしい」と言った。娘2人が嫁いだ時から心に決めており、既に寺の住職には意向を伝えてあるという。その費用も相続財産から出してほしいとのことだった。
自分が亡くなった後のことを考えていた父親に、母親も娘2人も驚き、「聞けて良かった」と喜んだ。
親の生前整理は“いいことづくめ”
この話し合いの後、相川さんたちは、両親と相川さん家族、妹家族全員で、温泉旅行に出かけた。娘2人が嫁いでから、一度も揃って旅行に行ったことがなく、今まで口にはしなかったが、孫も含めて旅行に行くことが父親の夢だったという。
家族だけでお金の話をしようとすると、感情的になりやすく、うまくいかないケースは少なくない。そんな時は、間に専門家に入ってもらうのも一つの手だ。
親が元気なうちに親の資産状況を把握し、親が老後をどんなふうに考えているかを把握しておくことは、子ども世代にとっては大きな安心につながる。結果、親子の信頼関係が良くなるだけでなく、親は助けを求めやすくなり、子はサポートをしやすくなる。親の生前整理を促すことは、子ども世代にとってメリットしかないと言っても過言ではない。
旦木 瑞穂
ノンフィクションライター/グラフィックデザイナー
