6月30日、国会議員に期末手当、いわゆる「ボーナス」が支給された。野党が事実上、審議拒否の状態にある中で支給されたことに、一部メディアや与党政治家などから疑問の声が上がり、SNSなどでも物議を醸している。
期末手当の支給額は一般の国会議員で約319万円、議長は535万円にのぼり、以前から「高すぎる」との批判も根強い。
国会議員の「ボーナス」は、なぜこのような制度になっているのか。審議を欠席した状態でも満額が受け取れる仕組みは正当といえるのか。また、そもそも金額は適正か。
国会議員秘書を10年間務め、政治資金規正法や公職選挙法など「議員法務」に詳しい三葛敦志弁護士は、制度の背景にある理念や歴史を理解する必要があると説明する。
報酬は「成果」ではなく「地位」・「職務」に対して支払われる
国会議員の期末手当は、そもそも、どのような性質を持つものなのか。まず押さえるべきは、国会議員の報酬が「歳費」と呼ばれ、労働の対価である「給料」とは根本的に異なる点である。
憲法49条は、国会議員が「相当額の報酬を受ける」と定めている。これに基づき、「国会議員の歳費、旅費及び手当等に関する法律」で具体的な金額や支給方法が定められており、期末手当は6月と12月に支給される旨が規定されている(11条の2)。
三葛弁護士によると、月々の歳費と別に6月と12月に期末手当が支給されるしくみ自体には深い理由はないという。
三葛弁護士:「歳費の支給のタイミングについて、毎月均等に支給する方法ではなく、期末にまとまった額を支払う方法を採用しただけのことです。
単に一般の国家公務員の給与の支給形態に倣ったものにすぎません。少し調べてみましたが、確たる理由は見当たりませんでした」
三葛弁護士は、大前提として、議員の歳費が仕事の成果に対する「成果給」ではない点を指摘する。
歳費は国会議員という「地位」や「身分」、「職務」に対して支払われるものである。この考え方は、かつて国会議員が無給であり(イギリスの下院議員はかつて無給だった)、資産家や実業家等しか政治家になれなかったことへの対応策として生まれたと説明する。
三葛弁護士:「歳費制度の原点は、資産のない人でも誰もが政治に参加できるよう、職務に専念するための生活を保障することにあります。歳費は、特定の行為ではなく、民主主義を支えるという職務・地位全体に対して支払われるものだということです。
成果給にするという考え方は、議員の『成果』を客観的に測る物差しがない以上、とり得ません。
そもそも、議員の成果や職務は、法案を何本通したか、質問に何回立ったか、地元の人々と何回会ったか、などでは測れません。むしろ、そうした数値的な指標に報酬を連動させると、数合わせのための質の低い法案が乱立したり、パフォーマンス目的の質問が増えたりと、かえって政治の本質が歪められてしまう危険性があります」
審議拒否も「政治活動の一環」で「職務」
一部メディア等による「野党が審議を拒否しているのになぜボーナスが満額出るのか」という批判に対し、三葛弁護士は、その「審議拒否」も国会議員の重要な政治活動、つまり「職務」の一つと捉える視点が必要だと指摘する。
三葛弁護士:「議員の仕事は議場に出席して質問したり議決したりすることだけではありません。民主主義の基礎は、議論が行われることにあります。
多数意見が必ず正しいわけではないし、少数意見が必ず間違っているわけでもありません。どちらも望ましい価値を含んでいる可能性があり、だからこそ、議論して、欠陥のある法制度が作られるリスクを少しでも減らし、より時代と国民のニーズにあう法律となるようにする必要があります。
したがって、政府・与党が強引な議会運営を行おうとした場合には、抗議の意思を示すため、あえて審議のテーブルにつかないという戦術を採ることもあります。それは、政府・与党に与野党間の協議を促し国会運営の見直しを求める交渉手段の一つであり、国会議員が職務として行う政治的な対抗手段です。
現与党の自民党も、野党のときに、与党(民主党)の国会運営に反発して審議拒否したことがあります。
審議拒否だからといって、家で寝ていたり遊んでいたりするわけではありません。むしろ緊張感をもって国会内で待機しつつ、臨機応変に対応できるようにしているケースがほとんどです。『禁足』といって、政党会派が原則国会内待機を所属議員に課すものです。
一般企業でも、経営方針に反対する取締役が取締役会をボイコットすることがあります。それと同じで、会議に出ないこと自体が強いメッセージを持つことがありうるのです。
『審議を拒否したから報酬を減らすべき』という批判は、制度の趣旨を見誤っているものです」
「お手盛り」は本当か? データが示す意外な実態
国会議員の歳費をめぐるもう一つの根強い批判が、「お手盛り」、つまり議員自身が自分たちの報酬を決めているため不当に高額になっているのではないか、というものだ。
しかし、データを見ると、この批判も実態を踏まえていない可能性が浮かび上がる。
国会議員の年収と、国税庁の統計による民間サラリーマンの平均給与を比較すると、その倍率は長期的に減少傾向にある。つまり、民間サラリーマンの平均給与が物価上昇等で上がっても、国会議員の年収はそこまで上がってはいない(平成29年(2017年)4.4倍→令和6年(2024年)4.0倍。内閣官房資料、国税庁「民間給与実態統計調査」より)。
物価上昇局面の中で議員歳費が据え置きのため、この傾向は続くものと考えられる。
三葛弁護士は、この背景に国会議員ら自身の「お手盛り」批判への配慮があると分析する。
三葛弁護士:「一般の国家公務員の給与については、第三者機関が客観的に決定する仕組みとして人事院勧告がありますが、国会議員の歳費にはそれがありません。
したがって、物価上昇等を加味して歳費を増額するにも、国会議員が自分たちで決めなければなりません。
しかし、増額すれば『お手盛り』と非難され、ネガティブな評価を受けるリスクがあります。実態として、国民からの批判を恐れ、むしろ給与水準が抑制され続けてきたといえます」
そもそも、歳費の額面がそのまま議員の収入になるわけではない。
三葛弁護士:「歳費の中から、私設秘書の給料や事務所の維持経費、WEB動画やチラシ等の広報経費、地元と東京の往復交通費(※)など、膨大な政治活動関連経費を支出しなければなりません。
真面目に、活発に活動すればするほど、経費はかさみ、持ち出しになっている議員も珍しくありません。額面だけで『もらいすぎ』と判断するのは早計です」
※JRの運賃についての「パス」、東京・選挙区間の飛行機代についての「航空券引換証」の制度はあるが、全額を賄えるわけではない。
第三者機関の導入は解決策か?
「お手盛り」批判を避けつつ、歳費の適正化を図るため、第三者機関を設置して客観的なデータに基づいて報酬額を決定するべきだ、という意見もある。
三葛弁護士:「それは有力な選択肢ですが、もし人事院勧告のような客観的な仕組みを導入すれば、どうなるか。おそらく、国民感情とは裏腹に、歳費は今より引き上げられることになるでしょう。
皮肉な話ですが、『お手盛り』と言われながら自分たちで決めている今の状況が、結果的に歳費を抑制している側面もあるのです」
結局のところ、国会議員の報酬をどう決めるかという問題に、唯一絶対の正解はない。国民の厳しい監視と批判にさらされながら、国会議員が自らの手で報酬を決定するという現在の仕組みもまた、民主主義国家における一つの合理的な姿と考えることもできるだろう。
審議拒否と「ボーナス」を結びつけて感情的に批判する前に、なぜそのような制度が設けられているのか、その背景にある理念や歴史、そして議員が直面する実態について、一度立ち止まって考えてみることが求められている。

