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子どもの育ちを支える——社会福祉法人麦の子会

日本財団では、国内外の社会課題の解決に取り組む公益活動団体に対し、助成金を通じた支援を行っています。

支援先の1つである社会福祉法人麦の子会(外部リンク)は、児童発達支援センター(※1)や放課後デイサービス(※2)をはじめ、発達に困難のある子どもの包括的支援を目的とした多様な事業を展開しています。

今回は、同団体統括部長の古家好恵(ふるや・よしえ)さん、里親支援事業担当の船木香(ふなき・かおり)さんに、活動目標や、助成金を活用して取り組みたい課題、さらに申請時に意識したポイントについて伺いました。

  • 1.「児童発達支援センター」とは、児童発達支援を行う他、施設の有する専門性を活かし、地域の障害児やその家族への相談、障害児を預かる家族への援助・助言を合わせて行う地域の中核的な療育支援施設
  • 2.「放課後等デイサービス」とは、学校(幼稚園及び大学を除く)に就学している障害児に、授業の終了後または休業日に、生活能力向上のために必要な訓練、社会との交流促進、その他の便宜を供与すること
オンラインで取材に応じてくれた麦の子会の船木さん、古家さん
オンラインで取材に応じてくれた麦の子会の船木さん(左)、古家さん

「障害のある子どもたちに幼児期からの支援を」と理念に設立

――「麦の子会」はどのような経緯で設立されたのでしょうか。

古家さん(以下、敬称略):理事長の北川聡子(きたがわ・さとこ)が学生時代に出会った、障害がある一人の青年がきっかけです。その青年には強い自傷・他害行為(※)があり、当時施設の職員が骨折してしまうほどでした。

北川はその激しさに驚く一方、彼の目の奥に純粋さや賢さを強く感じたといいます。そして、そのまなざしはまるで「あなたは信頼できる人間なのか、どうなんだ」と問いかけているようだったと言います。

麦の子会の理事長・北川聡子さん
麦の子会の理事長・北川聡子さんは、40年以上にわたって発達に心配のある就学前の子どもを支援する活動に取り組んでいる。画像提供:社会福祉法人麦の子会
  • 「自傷行為」とは自分を傷つける行動、「他害行為」とは他の人を傷つける行動のこと

古家:その日以来、北川は「重い障害があり、言葉を持たない人にも確かな意思や感情がある。それをどうにか感じ取りたい」と思うようになり、「幼児期からの支援が必要ではないか」と考えるようになったのです。

当時、札幌市には通園施設が一カ所しかなく、十分な支援の場がありませんでした。ならば自分たちでつくろうと、1983年に北川を含む学生4人で通園施設「麦の子学園」を立ち上げたのが麦の子会の始まりです。

――現在は、どのような活動をされていますか。

古家:まず 1つ目は発達支援・療育(※)事業です。麦の子会では、創立当初から「遊びの中で子どもが発達する」という考え方を大切にしてきました。特別な訓練を重ねるというより、人との関わり合いの中で成長していくことを重視しています。

1997年に札幌市が発達に心配がある子どもを支援する「さっぽ・こども広場」(外部リンク)を立ち上げたことをきっかけに、1歳半からの健診が始まりました。

これにより、麦の子会が運営する「むぎのこ児童発達支援センター」への紹介が増え、早期からの療育を受けられる体制が整いました。当初の定員は30名でしたが、希望者が年々増え、現在は47名を受け入れています。

  • 「療育」とは、発達に課題のある子どもに対して提供される、子ども一人一人の発達の状態や特性に応じて、できることを増やしたり、本来持っている力を引き出すための支援を行ったりしながら、社会的に自立するための発達を促す取り組みのこと
麦の子会が掲げる、療育の基本方針:
1.子どもの最善の利益を大切にし、子どもの命を守り、健やかに育てます。
2.子どもの現在の発達・心の状況を知って、チームみんなでで支援します。
3.子どもの気持ちを受け止め、SCALE(サポート・ケア・受容・ラブ・勇気づけ)。
4.子どもが自分のより高い課題に対して、葛藤をしながら乗り越えていこうとする気持ちを丁寧に励まします。
5.発達支援の在り方を常に学び、人権・適正な倫理観に基づく支援を行います。
6.将来を見据え社会スキルを身につけることを大切にします。
7.社会モデルを基本とした家族に対する支援を行います。……どんな時も守ってくれる先生。
麦の子会が掲げる、療育の基本方針

古家:2つ目は家族への支援です。私たちは子どもの養育(※1)だけでなく、保護者の心理的なサポートをとても重要だと考えています。

北川は、障害のある子どもを育てる保護者の気持ちを理解し、寄り添うことが必要だという考えから大学院で心理学を学びました。

お母さんのピアカウンセリング(※2)やペアレントトレーニング(※3)など、心理・相談支援を行っているほか、障害福祉サービス(※4)を活用した生活支援も行っています。

  • 1.「養育」とは、子どもの生活について社会通念上必要とされる監督・保護を行っている状態のこと
  • 2.「ピアカウンセリング」とは、同じような立場や悩みを抱えた人たちが集まって、同じ仲間として相談し合い、仲間同士で支え合うことを目的としたカウンセリングのこと。
  • 3. 「ペアレントトレーニング」とは、知的障害(知的発達症)やASD(自閉スペクトラム症)などの子どもを持つ家族を対象に、1960年代にアメリカで開発されたプログラム
  • 4. 「障害福祉サービス」とは、個々の障害のある人々の障害程度や勘案すべき事項(社会活動や介護者、居住等の状況)を踏まえ、生活や就労をサポートするための公的支援サービスのこと
パパミーティングの様子。月2回土曜日に開催されている
障害のある子どもへの子育ての悩みや自分の悩みを相談できない保護者に対するトレーニングを行っている様子
パパミーティングの様子。月2回土曜日に開催されている
障害のある子どもを持つパパの会の様子。画像提供:麦の子会

古家:3つ目は、近年特に力を入れている新しい事業、里親事業です。日本財団の助成を受け「乳幼児緊急里親事業」に取り組んでいます。虐待や親の病気などで緊急に保護が必要になった0から2歳の子どもを、できるだけ早く家庭的な環境で受け入れるためのものです。

また、2020年からは予期しない妊娠や望まない妊娠などにより悩みや不安を抱えた妊産婦の方々が相談できる窓口として「にんしんSOSほっかいどうサポートセンター」(外部リンク)を運営しています。

「にんしんSOSほっかいどうサポートセンター」相談窓口のリーフレット。画像提供:社会福祉法人麦の子会

さまざまな事情で緊急保護が必要になる子どもたち

――改めて、「里親事業」を始めた経緯を教えてください。

古家:きっかけは、2002年のことです。当時、「むぎのこ児童発達支援センター」に通っていた5歳の双子がいました。その子たちの担当ヘルパーさんが、母親からの虐待を発見し、通報しました。

結果として、双子は遠く離れた児童養護施設に入所することになったのですが、それを知ったセンターの子どもたちはとても悲しみました。職員が児童相談所に「なんとか地域に戻れる方法はありませんか」と相談したところ、「里親になって里子として受け入れる方法がある」と教えてもらいました。

そこで、北川理事長と私が実際に里親登録(※)をして、双子を受け入れたのです。この経験が、後に別の子どもを里子として受け入れることにつながりました。

  • 「里親登録」とは、一定の要件を満たした人が、相談・面接、研修の受講、自宅調査や審議を経て、登録することができる
麦の子会が運営する「むぎのこ児童発達支援センター」の外観
麦の子会が運営する「むぎのこ児童発達支援センター」の外観。画像提供:社会福祉法人麦の子会

――「乳幼児緊急里親事業」の必要性について、具体的な事例も踏まえて教えていただけますか。

船木さん(以下、敬称略):一番大きな理由は、0から2歳の乳幼児期が愛着形成(※)にとても大切な時期だということです。

幼い子どもにとって、家庭的な環境で特定の大人から抱っこや声かけを受けることが、安心感や発達に直結します。日々の積み重ねが愛着を育むので、この時期は特に家庭的な環境で過ごすことが望ましいとされています。

  • 「愛着形成」とは、子どもが保護者や保育者などの養育者との間に形成する心理的な絆のこと。子どもの安心感や信頼感の基盤となり、将来的に対人関係や自己肯定感を育む上でも影響を与えるとされる
リビングに、夫婦(男女)と乳児、幼児がいる。父親と見られる男性が乳児を「たかいたかい」している
幼少期に家庭的な環境で育つことが、心身の健やかな成長に大切だとされている

船木:一方で、残念ながら緊急保護が必要になるケースもあります。2024年度も、病院から「やけどを負っている子どもに虐待の疑いがある」と通報があり、夜間に緊急保護した事例がありました。

また、母親が夜中にオーバードーズ(※)で倒れ、赤ちゃんが行き場を失ったケースもあります。こうした事態は昼夜を問わず突然起こるため、すぐに対応できる受け皿が欠かせません。

  • 「オーバードーズ」とは、医薬品を、決められた量を超えてたくさん飲んでしまうこと
緊急里親さんがベビーカーをおす後ろ姿
麦の子会の緊急里親さんの様子。画像提供:社会福祉法人麦の子会

船木:そのために「24時間体制で待機できる里親」、いわゆる緊急里親を確保することがとても重要です。現在いる里親さんはお仕事をしていない方が中心で、いつでも子どもを受け入れられるよう、日本財団の助成で待機料をお支払いしています。

さらに、どんな年齢の子が来てもいいように物品をあらかじめ揃え、病院へのお迎えや健診への同行、夜間に体調を崩したときの対応などは麦の子会が全面的にサポートをしています。

「乳幼児緊急里親事業」の広報用に制作したクリアファイルの画像
「乳幼児緊急里親事業」の広報用に制作したクリアファイル。助成金の一部でデザインされ、研修会などで配布され、里親に預ける選択肢を知るきっかけとなった。画像提供:社会福祉法人麦の子会


――緊急保護の対象になった子どもたちに、どのような変化が見られますか。

船木:保護された直後は表情が硬く、笑顔も少ないのですが、家庭的な環境で過ごすうちに人懐っこくなり、笑顔がどんどん増えていく様子を目にしてきました。

また、家庭だからこそ体験できることもあります。ある子は年末年始を里親さんの実家で過ごし、おじいちゃんやおばあちゃん、親戚と一緒に、温かい家族だんらんを経験しました。クリスマスやお正月、誕生日といった行事を祝ってもらえた子もいました。

――日本の里親制度(※)が抱える課題はありますか。

古家:里親の社会的地位の向上と役割の明確化だと思います。いまの日本では、里親家庭が、子どもが里子であることを周囲に公表しにくく、ひっそり養育せざるを得ない状況があります。

欧米では、里親は「社会的な養育の担当者」としてしっかり地位が確立されていますが、日本ではまだ「一般家庭の延長」というイメージが強い。これからは、福祉や児童相談所とパートナーシップを組む専門チームの一員として、里親を社会全体で尊重する文化を育てることが必要だと思います。

  • 「里親制度」とは、さまざまな事情で育てられない親の代わりに家庭で子どもを預かり養育する制度。里親と子どもに法的な親子関係はなく、実親が親権者。里親には、里親手当てや養育費が自治体から支給される

――里親を含めた子育て家庭に対して、社会で必要な取り組みについて教えてください。

古家:保護者が専門機関に「助けを求めること」への理解の促進です。日本では「子育ては家庭の中でするもの」という意識が根強く、助けを求めることがネガティブに捉えられる風潮があります。

でも、困ったときに専門機関に相談するのは弱さではありません。子育てで難しさを感じたら、里親だって「助けを求めてもいい」という社会的認識を広げていくことが必要だと思います。

子どもにとっては、親と離れて暮らすこと自体が大きなトラウマになり得ます。ですから、発達や愛着、トラウマの理解なしに養育を担うのは難しい。里親になる方には、基礎研修としてそうした学びを必須にすること、また里親同士がつながってサポートし合える場を整えることも、とても大切だと思います。

麦の子会では、「札幌市障がい児フォスタリング事業」(外部リンク)を受託。発達に心配のある子どもを養育する里親のサポートもしている。画像提供:社会福祉法人麦の子会

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