予算は常にギリギリ。助成金がなければ、緊急保護は難しかった
●助成金を受けるまでの課題
――経営や活動を進めるなかで、資金面で苦労されたことはありますか。
古家:1982年の設立当初は法人格がなく、いわゆる「無認可」の状態で13年間活動を続けていました。その当時は法人格がないと運営は非常に困難で、本当に資金繰りに苦労しました。
年に2回の新聞回収をしたり、教会をお借りして活動していましたので、全国の教会関係者にお願いして講演会を開いていただいたりして、運営資金をなんとか確保していました。それでも足りず、北川理事長の給料のほとんどが子どもたちの保育料に消えてしまうような状況で、持ち出しに近い形で運営していた時期もあります。
現在は事業の幅も広がりましたが、資金面の厳しさは変わっていません。運営費は2割を法人が負担していますので、社会貢献として取り組んでいる側面が大きいのです。繰越金もほとんどなく、常に余裕のない状態で運営しています。
――日本財団の助成金制度はどのようにして知ったのでしょうか。
古家:最初のきっかけは福祉車両(※)の助成事業でした。その後も、「子ども第三の居場所」(別タブで開く)事業をはじめ、麦の子会のさまざまな活動に共感していただき、助成をしていただく機会がありました。
日本財団が里親事業に力を入れ、乳幼児期の愛着形成の重要性を深く理解し、重視されていた点に共感し、申請を決めました。
- ※ 「福祉車両」とは、障害者や高齢者の地域生活を応援するための車両のこと。参考:日本財団「福祉車両配備」(別タブで開く)
●助成金の申請から採択されるまで
――申請までにどれくらいの時間を要しましたか。
船木:だいたい3カ月くらいでした。申請手続きの過程で困った時には、日本財団の担当者と細かく連絡を取り合いながら進められました。足りない点があればその都度教えてくださり、サポート体制が整っていたおかげで、スムーズに進めることができたと思います。
●助成金活用後の対応
――助成金を使用した後に必要な処理や、報告書の作成で意識した点などがありましたら教えてください。
船木:報告書を作成する上で「なぜ乳幼児緊急里親事業が必要なのか」について、できるだけ具体例や数字を交えて伝えるように意識しました。
また、乳幼児の視点を中心に、里親家庭で過ごした子どもたちの変化やエピソードを盛り込み、子どもたちの笑顔につながっていたことをしっかり伝えることを心がけました。
里親支援センター(※)として認可され、より充実したサービスの提供へ
――助成金を活用して良かった点について教えてください。
船木:家庭的な養育の機会を増やせたことです。緊急で保護が必要になった乳幼児が、家庭で過ごせる場を提供できました。
また、緊急受け入れ体制の充実にもつなげられました。研修会の実施や、緊急里親さんへの待機料、受け入れに必要な物品の準備に助成金を充てることができたおかげで、支援体制が整い、緊急時に乳幼児を受け入れられる里親を増やすことができました。
- ※ 「里親支援センター」とは、里親及び小規模住居型児童養育事業に従事する者、その養育される児童並びに里親になろうとする者について相談その他の援助を行うことを目的とする施設

――これからの展望や目標、目指す社会の在り方について教えてください。
古家:まずは里親支援センターの増設です。現在、札幌市内には市から委託された里親支援センターと、麦の子会を含めた民間の里親支援機関が2カ所あります。私たちは3カ所全てが市から委託されたセンターとなることを目指しています。
認定されれば、予算も確保され、里親の募集や支援といった責任ある役割を、より本格的に担うことができるようになります。
さらに、実親さんが里親制度について十分に認知しておらず、施設での養育を希望するケースもあります。子どもの愛着形成にとって家庭的な養育がいかに大切かを社会全体で伝え、将来的には、実親と里親で協力して子どもを育てる「共同養育」が当たり前の社会につながってほしいと願っています。
もう1つは、「にんしんSOSほっかいどうサポートセンター」の窓口の強化です。2020年の開設当初から望まない妊娠をされた方からの相談が増えていて、相談者のための宿泊施設も2カ所から4カ所に増設しました。
相談者の中には、出産を選んだものの、子どもを育てることが難しい方もいらっしゃいます。そうした子どもたちのために、特別養子縁組につなげることも検討しています。
