『孤独のグルメ』原作者で、弁当大好きな久住昌之が「人生最後に食べたい弁当」を追い求めるグルメエッセイ。今回『孤独のファイナル弁当』として取り上げるのは「冷やしきしめん」。果たして、お味はいかに?

◆孤独のファイナル弁当 vol.37「冷やしきしめんを弁当にしてみた」
この「紀州南高梅を使った冷やしきしめん」、一つのスーパーでなく、いろいろな店に置いてあるという。ということは「売れてる」ということだろう。「3種の出汁香る自家製つゆ」とも書いてある。「自家製」が気になる。そんなにいろいろなところで売っているなら「自社製」ではないのか。まあいいか。
蓋を開け、具材を一旦外し、麺につゆをかけ、麺をほぐして具をのせたら完成。これなら仕事場に持っていっても好きな時に食べられる。麺弁当。暑いし、楽しい。
今日も午前中からすでに夏日だ。絶好の冷やし麺日和だ。
ひと仕事終えた。食べるぞ。
蓋を開けてみると、かなり麺が固まっている。というか麺同士がくっついている。これは焦ってはいけない。
つゆを麺全体にかけまわし、箸でゆっくりほぐす。
己の空腹をなだめ、落ち着いて。少しずつ、周りから攻めよ。麺を切るな。やさしく、ソフトに混ぜよ。きしめんは薄く、ナーバスだ。麺を驚かせるな、質問攻めにするな、追い詰めるな。麺の話をゆっくり引き出してあげる気持ちで。笑顔を忘れないで。
よーし、よし。ほぐれてきた。いい感じ。そしたら次に鰹節をかける。これきしめんに必須。まあまあ量ある。よし。次、揚げ玉だ。これは天ぷらのコロモの天かすではない。インチキ揚げ玉。妙に丸い。でもこれはこれで好き。サクサクして。
そして刻みネギ。若干乾いてるが、本体価格398円だ、文句は言いますまい。
そして自慢の紀州梅。単独でちょっとかじってみた。まぁ、悪くない。塩っぱすぎたら、冷蔵庫に常備してある若狭の紅さし梅の梅干しを出そうと思っていた。
さて、ちょっと混ぜて啜る。
お。まあまあうまい。つゆが悪くない。塩っぱくない。
丁寧にほぐしたかいあって、麺がおいしい。インチキ揚げ玉がサクサクして麺と一緒に噛むとうまいね。うん、鰹節も利いてる。
あぁ、俺ってきしめん好きだなぁ。
名古屋駅の新幹線のホームのきしめん食べたいなぁ。って、きしめん食べながら別のきしめんの話するな。今食べてるきしめんに失礼だ。
梅をちょいとかじってきしめんを食べるのもいいが、ネギはやっぱりちと硬い。もっと新鮮な白ネギ(東京だから)を自分で刻んで入れたい。
と、ここで冷蔵庫にミョウガがあるのを思い出した。ナイス。1個、縦に二つに切ってから、やや斜めの千切り。これをどさっと入れる。混ぜる。食う。うまい! やっぱミョウガ最強。夏はこれだ。ぐーんとおいしくなった。ひと手間の勝利。うーん、自分を褒めるぞ。
【後日談】この冷やしきしめんが呼び水となって、翌日寒かったから蕎麦屋であったかいきしめんを食べた。やっぱ店のほうがうまい。麺弁当負けた。

―[連載『孤独のファイナル弁当』]―
【久住昌之】
1958年、東京都出身。漫画家・音楽家。代表作に『孤独のグルメ』(作画・谷口ジロー)、『花のズボラ飯』(作画・水沢悦子)など。Xアカウント:@qusumi

