「黙認されてきたのに、なぜ今」全国でソープランド摘発相次ぐ…“裏事情”と見落とされがちな“最大の被害者”とは【弁護士解説】

「黙認されてきたのに、なぜ今」全国でソープランド摘発相次ぐ…“裏事情”と見落とされがちな“最大の被害者”とは【弁護士解説】

各地でソープランドの摘発が相次いでいる。43年続く老舗もその例外ではなかった。

ネット上でも「これまで事実上黙認されてきたのに、なぜ今になって」と疑問や困惑の声が広がる。

和歌山市のソープランド「SK」で売春行為を知りながら個室を提供したとして会社役員の男が逮捕され、仙台市青葉区のMでは運営会社役員ら3人が逮捕、新潟市のZでは代表と従業員の男ら3人が摘発された。

東京・吉原では43年続く老舗Rもターゲットになった。いずれも容疑は売春防止法違反(場所の提供)だ。

仙台のMでは、2026年1月1日から28日までの間だけで4000万円程度の売上があったとみられ、当時の在籍女性従業員は200人程度に上っていた。吉原の店舗は年間数億円の売り上げがあったともいわれている。

なぜ今、これほどのペースで摘発が続いているのか。

スカウト問題を「入口」にした包囲網戦略

摘発の大きな背景の一つとして指摘されるのが、近年社会問題化している違法スカウトグループの存在だ。

2025年4月、大規模スカウトグループ「アクセス」が警視庁に摘発された。同グループのネットワークは全国46都道府県を網羅し、約350店舗におよぶとされ、スカウトバック(紹介料)として店側から支払われた金額は約70億円にのぼるともいわれる。

また、東京・吉原地区のソープランドに女性2人を紹介したとして、歌舞伎町で20年以上スカウトを続け「歌舞伎町の伝説のスカウト」と呼ばれたS容疑者も、職業安定法違反の疑いで逮捕されている。

こうしたスカウトの摘発が、今度は紹介を受けていた店舗側へと捜査が波及するケースが相次ぐ。新潟のZについても、捜査の発端は、2025年4月に警視庁が摘発したスカウトグループが同店に女性を紹介していたとの情報提供が新潟県警にもたらされたことだった。

目的は店舗より資金源の断絶

ナイトビジネスに詳しい若林翔弁護士(グラディアトル法律事務所代表)は、この手法の狙いをこう分析する。

「どちらかといえば、店舗を叩きたいのではなく、スカウトを弱体化させるためにスカウトの資金源を断つことが目的であると感じます。スカウトを使っているソープランドを売春防止法違反で摘発することにより、スカウトとの関係を切らないと摘発対象になるよという見せしめの効果もあると思います」

実際、こうした状況を察知し、すでにスカウトとの関係を切る動きをみせるソープランドも出始めているという。

ソープランドの「宙吊り」の法的位置づけ

そもそも、なぜこのような摘発が可能なのか。その一端は、ソープランドの法的位置づけの構造的な矛盾にある。

風俗営業等の規制及び業務の適正化等に関する法律(風営法)上、ソープランドは「店舗型性風俗特殊営業」の1号に分類される。定義は「浴場業の施設として個室を設け、当該個室において異性の客に接触する役務を提供する営業」だ。

「届出」だけで営業を開始できる一方で、警察庁の資料には「性を売り物にする本質的に不健全な営業であり、届出制でその実態を把握し、規制を課して取り締まる対象」と明記されている。

つまり、ソープランドはお墨付きを与えられた許可制でもなく、かといって全面禁止でもない。実態として売春が行われていることは公然の事実でありながら、法的には「本番行為をしないことを前提とした浴場業」として扱われる。まさにグレーゾーンに置かれた存在だ。

一方、売春防止法は売春の場所を提供した者に対し、3年以下の拘禁刑または10万円以下の罰金を規定し、業として行った者には7年以下の拘禁刑または30万円以下の罰金を科す(同法11条)。今回の一連の摘発はすべてこの規定を根拠としている。

では、場所を提供した側の「知らなかった」という弁解はどこまで通るのか。新潟の事件では逮捕された従業員の一人が「売春が行われているとは知らなかった」と容疑を否認したが、若林弁護士は厳しい見方を示す。

「ソープランドは、一般的に本番行為を伴う営業形態であると認識されているため、『知らなかった』という弁解は認められにくいと思います」

「もう一つの背景」に売春防止法改正議論

摘発ラッシュのもう一つの背景として見逃せないのが、現在、進められている売春防止法の見直し議論だ。

法務省は2026年春、売春の「買う側」への罰則導入を検討する有識体検討会を設置。現行の売春防止法は、「売る側」の勧誘行為などに罰則規定がある一方、「買う側」を罰する規定がなく、成人同士の合意に基づく売買春そのものも処罰対象にはなっていない。新宿の大久保公園周辺での勧誘行為や客待ちが社会問題として指摘されるなか、こうした法的構造に疑問を呈する声が高まっていた。

6月10日に開催された検討会では、「買う側」も罰するべきという意見が上がった一方で、「売る側」は支援の対象であり犯罪者として扱うのは適当ではないとの意見も出た。法定刑については、議論に参加した有識者からの意見がすべて「引き上げるべき」というものだったという。

若林弁護士は、摘発強化とこの改正議論の関係を次のように読み解く。

「ここ数年のスカウト会社の問題によるソープランド摘発強化という側面と、売春防止法改正議論にあたり、そもそも売春の場所提供者は現行法においても処罰対象であることを示すという側面もあるのかなと感じます」

なお、現状の売春防止法の見直し議論について、憲法上の問題を指摘する専門家もいる。憲法訴訟の専門家である平裕介弁護士(帝京大学法学部准教授)は、買春者処罰を含む改正案はいずれも性生活という極めて私的な領域への国家介入であり、個人の自己決定権を侵害しかねないと説明する。

摘発の「恣意性」が生む法的リスクと人権問題

加えて、若林弁護士が強く問題視するのが、摘発の「恣意(しい)性」だ。

ソープランドは風営法上の届出を済ませながら、実態として売春防止法に抵触する行為が行われているという二重構造の中に置かれている。このグレーゾーンに多くの経営者と従業員が存在し、長年にわたって営業を続けてきた。

「このような状況下で、スカウト会社の収入源を断つなどの別の目的で売春防止法を利用して摘発をするということは、逮捕・摘発という権力の行使が、その都合で恣意的になされているとも考えられます。

極端なことを言えば、権力に従順な経営者は逮捕せず、気に入らない経営者を逮捕することができるわけで、国家権力を制限し国民の権利・自由を確保するという憲法の趣旨からしてもよろしくないと考えます」(若林弁護士)

同弁護士がかねて主張してきた「売春合法化」論の根底にも、こうした認識がある。「ソープランドでの本番行為など、周知の事実にもかかわらず、摘発が恣意的に行われる」現状が、そこで働く女性や経営者に対して不安定な法的地位をもたらし続けているというのだ。

そこで働く人々が最大の「被害者」になりかねない

影響を受けるのは経営者だけではない。仙台のMグループ21店舗の突然の一斉閉店に象徴されるように、摘発や社会的圧力による店舗閉鎖は、現場で働く女性たちにもしわ寄せをもたらす。

多くのキャスト(女性従業員)たちには労働基準法が適用されないため、突然の閉店に際し、法的に守られる手段が極めて限られている。売春防止法改正によって「買う側」が犯罪化されれば、この問題はさらに深刻化しかねない。

若林弁護士は、その矛盾をこう指摘する。

「売春防止法が改正されて買う側が犯罪化すれば、ソープランドの存続は難しいでしょう。客が犯罪者になってしまうので、安全に遊びたいと考える人の客足は遠のくと考えられるからです。

そうなれば、ソープランドで働いている多くの女性たちが職を失うことになります。売春防止法を改正して女性を守りたいという理想が、かえって、守るべき女性から職や収入を奪うことになってしまいます」

女性を保護するための法改正が、女性の生計を直撃するという構造等矛盾。これこそが、売春防止法をめぐる議論を単純に「賛否」では語れない所以でもある。

若林弁護士は、問題の本質は現行の曖昧な法的枠組みにあるとし、次のように提言する。

「売春が頻発している現状を認め、そのうえで従事者の安全、透明性の高い経営、客の安心の向上などのために売春を合法化する。警察の管理監督下で許可制として運用する。それが合理的ではないでしょうか」

スカウト問題の摘発強化、売春防止法改正議論の進展、そして業界への包囲網の強化。これらが同時進行するなか、ソープランドというビジネスモデルは歴史的な転換点を迎えようとしている。そこで働く女性たちの生活と権利をいかに守るか――法整備の議論はいま、まさにその問いの核心に踏み込むことを求められている。

配信元: 弁護士JP

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