「ばあちゃん亡くなったんだけど、家にあったはずの高級食器セットや宝石類が全く見つからない
生前、友達?のKさんが自転車で来て、ごっそり荷物持って行ってたと近所の人が教えてくれたんだけど、どうにもならんのこれ??」
先日、上記のような内容がXに投稿され、多くの反響が集まった。
投稿者は「ばあちゃんが良いよって言って持って行ってたとしても、脳梗塞後のことだったから、判断能力に疑問もあり」と続けている。また、祖母の友人を名乗る人物は葬儀に姿を見せていなかったという。
Xでは「非常によくあることです」「これあるあるなんだよね」「うちの婆さんもそんな感じだったな」と、同様のケースが少なくないとの声が多数寄せられた。また投稿者に「警察に相談した方がよい」と助言するコメントも複数みられた。
これらの反応を見ると、知人や親族、介護士などが本人の同意を得ずに物品を持ち出す事例が多くある一方で、亡くなった人がカメラコレクションなどの高級品を相続人以外の相手に譲渡していたケースもあるようだ。
はたして、亡くなった人が生前に無償で譲渡した高級品について、相続人が返還を求めることはできるのだろうか。そして、このようなケースが刑事事件に発展する可能性はあるのだろうか。相続問題に詳しい荻野晶太弁護士に聞いた。
原則として「譲渡」は本人の自由だが…
そもそも、「だれに何をどのように譲渡するか」は基本的に被相続人(亡くなった人)の自由であり、家族であっても譲渡を取り消すことは、原則としてできない。
しかし、荻野弁護士によると、被相続人が高級品を無償で譲渡(生前贈与)した当時、重度の認知症であるなどの理由から「自分が何をしているのか自分でもわかっていない」という状況であった場合には、「意思能力」(※)がなかったとして譲渡が無効とされる可能性がある。
※自己の行為の結果を理解し判断する精神的な能力
このような場合には、相続人(亡くなった人の家族など)は高級品を受け取った者に返還を求めることができる。具体的には、裁判を起こし所有権に基づく返還請求を行うのが一般的だ。
さらに、生前の譲渡自体は有効だったとしても、譲渡された知人に相続人が一定の金額を請求できるケースもある。民法では、配偶者や子どもなど一定の相続人には「遺留分」(最低限保障される遺産の取り分)が認められているためだ。
たとえば、高級品が生前贈与によって相続財産から除外されると、相続人が受け取れる遺産の総額も減ってしまうことになる。
その結果、法律で保障された最低限の取り分(遺留分)まで下回ってしまうのであれば、「遺留分侵害額請求」によって、不足した取り分に相当する金銭の支払いを求められる可能性がある、ということだ。
「詐欺罪」が成立する可能性?
では、被相続人が生前に高級品を知人に渡していたケースが、刑事事件に発展する可能性はあるのだろうか。
荻野弁護士は「正直、刑事責任の追及は厳しいと思われます」としつつ、以下のように説明する。
「第三者が被相続人に対し、高級品をだまし取る目的で『虚偽』を述べて、その虚偽によって実際に被相続人が騙されて、高級品を渡してしまった……という事情があるなら、詐欺罪(刑法246条1項)が成立します。このような場合には、刑事告訴を検討すべきでしょう。
ただし、生前に被相続人の判断能力(※)が低下していたような場合には、『虚偽』があったとしても、それが『普通の人間であれば騙されないくらい、レベルが低い虚偽』である可能性があります。
※物事の真偽を見極めて状況を理解し、適切な判断を下す能力
虚偽のレベルが低い場合に詐欺罪が成立するためには、『被相続人の判断能力が著しく低下していたこと』、および『そのことを第三者も知っていた』という事情の存在が必要になります」(荻野弁護士)
なお、知人が被相続人にも無断で高級品を持ち出していた場合には窃盗罪(235条)が、被相続人から預かっていたものをそのまま着服したという場合には横領罪(252条1項)が成立する可能性もある。
被相続人の死後に立証を行うのは難しい
今回のようなケースで問題となってくるのは、民事で返還請求や遺留分侵害額請求を行う場合は「被相続人には意思能力(判断能力)がなかったこと」と「実際にどのような物品が知人の手に渡ったのか」の2点を立証しなければならないことだ。
前者については、認知症などであった場合には、それに関するカルテや診療記録など、譲渡当時に意思能力(判断能力)が著しく低下していたことを示す証拠が必要になる。
後者については「どのような物品を、どれくらい持ち出されたのか」といった被害の内容を示す、購入時の領収書や財産目録、査定書などの資料が証拠として必要になってくる。
加えて、刑事告訴しようとする場合にも、これらのことを示す資料を用意しておかないと、警察に取り合ってもらえない可能性が高い。
つまり、被相続人が生前に高級品を譲渡していたことが死後に判明すると、後から事実関係の確認や証拠を収集することは困難であり、解決が容易ではなくなってしまうのだ。
家族に高齢者がいる場合には死後のトラブルを未然に防ぐため、普段からこまめにコミュニケーションを取り、「最近どんな人が家に来ているのか」「高価な物を誰かに譲る予定はないか」といったことを家族間で共有しておくことが大切だろう。

