◆企業だからこそできる「強制力」のある支援

「地域の掲示板を見て、『認知症講座があるから家族で行こう』となる家庭はありません。でも、会社が『働くために必須のスキル』として発信すれば、最初はいやいやでも参加してくださるのです」
実際に、2024年5月に改正された「育児・介護休業法」では、法人に対し、社内規程の見直しや従業員への周知、両立支援制度の整備に関する義務が追加・拡大された。事前周知の機会を活用し、全従業員に介護の動画を見せる企業では、相談件数が大幅に増加した。
「『動画を見てびっくりしました。自分が思っていた介護と全然違うんですね。今のうちに考えを整理したいから相談に来ました』という30代、40代の相談者が増えています」
◆部下に相談されたときに絶対にやってはいけないこととは?
部下から介護の相談を受けた管理職が陥りがちな失敗もある。「『実家でテレワークしたらいい』 『親のそばにいることが親孝行』『大変だから少し休んで』。親思いの上司ほど、こうした『善意のアドバイス』をしてしまいます。でも、これらの言葉が、かえって部下を追い詰めるんです」
仕事と介護の両立の施策として、テレワークが有効だと、安易に考えられがちだ。しかし、コロナ禍の際は、テレワークで、親の見守りをしようとし、うつになる人が増えたという。親が弱っていく姿を間近で見ることで、不安になる。見て知ったところで専門職でない限り、解決策はないと川内氏は断言する。
また、休むことを勧められることを「戦力外通告」と受け止める社員もいる。
正しい対応は、まず話を聞くこと。そして、地域包括支援センターへの相談を勧めることだという。
「課題解決志向で的確なアドバイスをしようとしがちですが、介護は人によって状況が全く違います。話を聞く役に徹して、『よく言ってくれた、ありがとう』と伝えることが大切です」

