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年金月19万円の60代夫婦、移住先「北海道の新居」で年賀状用写真を記念撮影。仲良くピース!満面の笑みも…「誰にも送れなかった」切なすぎる理由【FPが解説】

年金月19万円の60代夫婦、移住先「北海道の新居」で年賀状用写真を記念撮影。仲良くピース!満面の笑みも…「誰にも送れなかった」切なすぎる理由【FPが解説】

「地方は生活費が安いから、年金だけでも豊かに暮らせる」——。それは、移住を考える人が抱く、最も危険な幻想かもしれません。本記事では、波多FP事務所の代表ファイナンシャルプランナー・波多勇気氏が、北海道移住の経験がある60代の斎藤さん(仮名)夫妻の実体験をもとに、地方移住の落とし穴を解説します。※プライバシー保護の観点から、相談者の個人情報および相談内容を一部変更しています。

胸を膨らませた移住だったが…直面した「北海道の思わぬ現実」

「ここでなら、年金だけで十分やっていけるはずだ」

斎藤誠一さん(仮名/66歳)は、妻の佳代さん(仮名/64歳)とそう語り合いながら、東京都内の賃貸マンションを引き払いました。夫婦の年金は合計で月19万円ほど。都内で暮らしていたころは、家賃だけで8万円が消え、さらに光熱費や食費を合わせると毎月赤字ギリギリ。家計は苦しく、地方移住を常に視野に入れていました。

移住先に選んだのは、北海道の道央にある人口5万人ほどの地方都市。スーパーのチラシには「大根1本78円」「鮭1切れ100円」という驚きの文字が並び、野菜も魚も東京より明らかに安い。住まいは2LDKの間取りでも家賃が4万円台でした。

「これなら年金暮らしでも安泰だ」と、都内との物価の違いを実感した二人。2025年用の年賀状には新居の前で仲良くピースして写る写真に、「北海道に移住しました!」と誇らしげに新生活の喜びを書き添えました。

最初の数週間は、のどかな風景に心を奪われ、散歩やドライブに出かける日々。佳代さんは「毎日が新婚旅行みたい」と笑っていました。

しかし、北の大地の冬はそんなに甘くありません。11月時点で気温が氷点下を下回るようになると、状況は一変します。

「こんなに灯油が必要なのか……。東京ではエアコンで済んでいたのに」

暖房を止めれば室内の水道管が凍結するため、24時間ストーブを稼働させざるを得ませんでした。灯油代は、実に月3万円超。加えて電気代も跳ね上がりました。さらには、積雪が始まると車の必需性が増し、タイヤ交換や除雪道具などの費用がのしかかります。

「買い物や病院も車がないと不便で……。燃料代や維持費まで考えていなかったな。北海道の本格的な冬は厳しく、雪かきは思った以上に重労働。腰を痛めそうだ……」

誠一さんはため息をつきました。年金だけで余裕ある生活を送るはずが、気づけば毎月2万円以上の赤字という都内暮らしよりも厳しい状況。憧れの移住生活では、わずか半年で苦しい現実を突き付けられてしまったのです。

都会では知る由もない、地方暮らしの“3大コスト”

斎藤夫妻が直面したのは、都会から移住する人が見落としがちなコストでした。

第一に、光熱費です。北海道の冬は長く厳しく、灯油代や電気代は都市部に比べて格段に高額になります。東京時代の光熱費は月1万5,000円程度だったのに対し、移住後は4万円近くと2.5倍ほどに膨れ上がりました。

続いて交通費。都市部では電車やバスなどの公共交通機関が発達していますが、地方では車が生活の必需品です。車を保有するとなると、車検代や任意保険、ガソリン代を含めて年間で50万円以上の出費となります。

佳代さんは「近所のスーパーまで車で片道20分。雪が降れば自分たちが運転するのも危ないので、結局タクシーを使うこともあった。自家用車だけで完結できず、かえってお金がかかってしまうことも……」とこぼしました。

最後に、医療機関へのアクセスです。高血圧の薬をもらうための通院費一つとっても、バスは1時間に1本。冬は雪で遅れることもあり、やむを得ずタクシーを利用する日も増えました。

「東京では歩いて5分のところにクリニックがあったので便利だった。でも、ここでは通院に半日つぶれてしまう。交通費だけで数千円かかることもあった」

生活費の安さを期待して移住したのに、実際には東京での生活以上に出費がかさむ……。これは斎藤夫妻に限らず、ほかの移住者にも共通する悩みです。

総務省が発表した「家計調査報告[家計収支編]2024年(令和6年)平均結果の概要」によると、60代夫婦の平均消費支出は月25万6,521円。年金収入だけで平均的な暮らしを維持できる世帯は少なく、地方に移ってもその状況は変わりません。それどころか、むしろインフラの整備不足が、暮らしを不便で高コストにしているという現実があるのです。

「せっかく移住したけど、もう戻るしかないね……」

年末、斎藤夫妻はついに東京へ戻る決断をしました。理想と現実のギャップに直面した結果ですが、後悔ばかりではありません。誠一さんは「移住そのものは貴重な経験だった。ただ、想定コストの見積もりを甘く見てはいけなかった」と振り返ります。

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