2023年4月、神奈川県相模原市緑区の「新戸キャンプ場」で、就寝中の夫婦が倒木の直撃を受けた。高さ約18メートル、太さ約0.7メートルの木が根元から折れてテントを押しつぶし、東京都武蔵野市に住む当時29歳の女性が窒息死、30代の夫がろっ骨骨折の重傷を負った。
あれから3年余りが経過した2026年7月13日、神奈川県警津久井署はキャンプ場関係者の男性を業務上過失致死傷罪の疑いで書類送検した。
報道によれば、書類送検までに時間を要したのは、木が枯れていた可能性も視野に、樹木医の診断などを踏まえ、慎重に捜査していたことなどが理由という。
生きた自然に必要最小限の整備をしたキャンプ場での悲劇。こうしたケースでの施設側の責任はどこまで、どのように問われるのか。
「自然物だから免責」にはならない
「料金を取って利用者を受け入れる施設の管理者は、利用者の生命・身体の安全に配慮する義務(安全配慮義務・注意義務)を負います。これは『相手が自然物だから免除される』というものではありません。人を立ち入らせる以上、その区域内の危険は、できる限り把握し、除去することが求められます」
こう説明するのは事故やトラブル対応に詳しい雨宮知希弁護士だ。木々や川に囲まれた自然豊かな同キャンプ場。捜査時には、「毎朝木を確認していた」と従業員の一人は話していたという。
どの程度確認していたのかはともかく、周辺に多数の木が生えている環境下で、特定の木が倒れることの予測は簡単とは思えない。
「『自然物』ゆえの限界もあることは否めません。山中の樹木や地形をすべて完全に管理することは不可能です。法律が問うのは『結果として事故が起きたかどうか』ではなく、『通常期待される点検・管理を尽くしていたかどうか』です」
そのうえで雨宮弁護士は求められる水準として以下の3点を挙げた。
- 過去に同種の危険や前兆があったか
- 外見や簡易な点検で危険に気づけたか
- その施設の規模・立地に照らして通常行うべき点検を行っていたか
具体的には次のようなレベルの点検を行っていたかが、ポイントになり得るという。
「法律が『年に何回、樹木医の診断を受けなさい』と一律に定めているわけではありません。もっとも、根腐れのように、幹の傾き・キノコの発生・空洞・葉の枯れなど、外見や打診である程度の兆候をつかめる場合があります。こうした危険の兆候があったのに漫然と放置していたと評価されれば、注意義務違反(過失)が認められやすくなります。
逆に、定期的に専門家の点検を受けて記録を残し、危険な木を伐採したり立入りを制限したりしていたのに、外見上まったく判別できない異常で倒木したような場合には、義務を尽くしていたと評価される余地があります。
ポイントは『点検の頻度そのもの』よりも、『危険を予見できたか』『予見できたのなら対応したか』にあります」
警察は慎重な捜査のプロセスで、こうした点もチェックしていたと考えられる。
「自己責任」は利用者にどこまで問えるか
ネット上の反応では、「キャンプは自然相手だから自己責任ではないか」という声もみられた。この点について、雨宮弁護士は民事と刑事ではやや角度が異なると説明する。
「民事(損害賠償)の場面では、利用者側に落ち度がある場合、過失相殺(民法722条2項)により賠償額が減額されることがあります。たとえば、強風注意の呼びかけや立入禁止の表示があるのに、あえて危険な木の下にテントを張ったような事情があれば、利用者側の過失として一定割合が考慮される可能性はあります。
もっとも、『自然の中の活動だから利用者が危険をすべて引き受けている』とはいえません。素人には判別できない倒木のリスクまで利用者に負わせるのは酷であり、過失相殺は限定的になりやすいという見方が法律上の基本的な立場です。
刑事上は、利用者側の落ち度は管理者の過失を評価する一事情にはなり得ますが、『利用者が自己責任で来ていたのだから施設は責任なし』と単純に結論づけられるわけではありません。中心はあくまで、管理者が求められる注意を尽くしていたかどうかです」
「木をすべて切れ」では解決しない
今回の書類送検を受け、「キャンプ場の木は全部伐採すべきだ」という意見も散見される。しかし、そうした発想は正しい方向性ではないと雨宮弁護士は指摘する。
「安全対策は『木をすべて伐採すること』ではありません。危険な兆候のある木を見極めて対処する、テントサイトの配置を工夫する、といった管理で足りるのが通常です。『責任を問われる=全部伐採』ではない点は押さえておきたいところです」
とはいえ、夏のキャンプシーズンに入り、これから計画する利用者は施設の安全面をどう見極めればいいのか。自然と共存するレジャーであり、どこでも起こり得るだけに不安はぬぐえないだろう。雨宮弁護士が助言するのは次の3点だ。
- 1. 現地の管理状況を見る
- 2. 規約・案内の書き方を見る
- 3. 情報発信・口コミを確認する
1と3のように公式サイトや現地およびネット上の評判をくまなくチェックし、危険が潜んでいそうなら、少なくともそうした場所でのテント設営は回避する。そして、意外と盲点になりがちな2について、雨宮弁護士はこう補足する。
「『一切責任を負わない』といった全面的な免責をうたう規約は、消費者契約法により無効となることがあります(事業者の損害賠償責任を全部免除する条項などは無効。消費者契約法8条)。むしろ、悪天候・危険時の対応方針が具体的に書かれている方が、管理意識の高さの目安になります。予約時に、強風・大雨のときの中止・返金ルールが明確かどうかも確認しましょう」

