いつまでも輝く女性に ranune

孤立する親子を支える「子どもショートステイ」とは?

取材:日本財団ジャーナル

育児疲れや病気、仕事の都合などで子どもを一時的に預けることができる「子どもショートステイ」事業。その中でも、里親家庭に子どもを預けることができる「里親ショートステイ」を知っていますか? 自治体が地域の里親と子育て家庭をマッチングし、里親が数日間子どもを預かる制度です。

近年、児童虐待が増加している背景には、核家族化や地域のつながりが薄れていることによる、子育て家庭の孤立化があると考えられています。周囲に頼れる人がおらず、心身ともに追い詰められることで、なかには虐待に至ってしまう保護者もいるのです。

そんな中、一時的に子どもとの距離を取って落ち着くことができる「子どもショートステイ」は、虐待防止の切り札として注目を集めつつあります。

今回お話を伺ったのは、福岡市内の「子どもの村福岡」で、里親による家庭養育を支援するとともに、福岡市と協働して子育て短期支援事業「子どもショートステイ」で地域の子育て家庭を支援する認定NPO法人SOS子どもの村JAPAN(外部リンク)。統括相談支援員を務める臨床心理士・公認心理師の橋本愛美(はしもと・あいみ)さんに、「子どもショートステイ」の詳しい仕組みや利用者が抱える問題を教えてもらいました。

オンラインで取材に応じていただいた橋本さん
「SOS子どもの村JAPAN」立ち上げメンバーの橋本さん

里親普及・里親支援のために発足

――「SOS子どもの村JAPAN」はどのような団体ですか。

橋本さん(以下、敬称略):2006年に福岡市で発足した、里親家庭や子育て家庭、子ども若者を支援するNPO法人です。活動開始当時、福岡市には、虐待をはじめとする家庭環境の理由で保護された子どもたちの行き場がないという深刻な課題がありました。

市内の児童養護施設や乳児院が満員で、一時保護所(※1)でも子どもを寝かせる場所が足りず、県外の施設に預けなければいけないような状況でした。

一方で、里親制度(※2)はほとんど活用されていませんでした。そこに着目した有志のメンバーが集まり、福岡市と協働して里親普及に取り組んでいったのが始まりです。

活動を続けるうちに見えてきたのが、里親を増やすには、里親への支援が欠かせないということ。そんな中、家庭支援や里親支援のノウハウを豊富に持ち、幅広い子育て支援を世界中で展開する国際NGO団体「SOS子どもの村インターナショナル (SOS Children’s Villages)」の存在を知ったんです。

同団体のノウハウを学びに行き、日本にあった里親支援のプログラムを構築するとともに、同じ敷地内で数軒の里親家庭で子育てを行う「子どもの村福岡」をつくりました。

  • ※ 1.「一時保護所」とは、児童相談所に付設もしくは児童相談所と密接な連携が保てる範囲内に設置され、虐待、置去り、非行などの理由により子どもを一時的に保護するための施設
  • ※ 2.「里親制度」とは、さまざまな事情で育てられない親の代わりに家庭で子どもを預かり養育する制度。里親と子どもに法的な親子関係はなく、実親が親権者。里親には、里親手当てや養育費が自治体から支給される
2010年4月に福岡市西区今津に開村した「子どもの村福岡」の外観。茶色と白の建物が広々とした芝生の庭に建っている
2010年4月、福岡市西区今津に「子どもの村福岡」を開村。画像提供:認定NPO法人SOS子どもの村JAPAN

――現在はどのような活動を行っていますか。

橋本:代表的な活動は2つあります。1つが、「子どもの村福岡」の運営です。福岡市で里親登録(※1)をしている人に移り住んでもらい、3つの里親家庭でそれぞれ子どもを育てています。

里親さんの子育ては、ファミリーソーシャルワーカー(※2)、臨床心理士・公認心理師、社会福祉士や、社会的養護(※3)に詳しい小児科医や精神科医、保健師などからなる「子どもの村サポート部会」がバックアップし、福岡市の児童相談所と連携して里親家庭を支えています。

2つ目が、福岡市から委託を受けて行っている、児童家庭支援センターです。地域で困難を抱えた子どもや家族を支援しています。そのセンターが窓口となって行っているのが「子どもショートステイ」です。

「子どもの村福岡」にある2棟の短期預かり専用棟で受け入れる場合と、地域の里親さんが受け入れる場合があります。里親家庭でショートステイを受ける方を「ショートステイ里親」と呼びます。

  • ※ 1.「里親登録」は、一定の要件を満たした人が、相談・面接、研修の受講、自宅調査や審議を経て、登録することができる。参考:福岡市こども総合相談センター えがお館「里親のこと」
  • ※ 2.「ファミリーソーシャルワーカー」とは、家庭環境上の理由で施設に入所している児童の保護者に対し、相談や援助を行う相談員のこと。児童養護施設や乳児院などに配置される場合は家庭支援専門相談員とも呼ばれる。子どもの家庭復帰や里親委託などをサポートし、施設を早期退所して、親子関係の再構築を図るための支援も行う
  • ※ 3.「社会的養護」とは、保護者の無い子どもや、保護者に監護させることが適当でない子どもを、公的責任で社会的に養育し、保護すると共に、養育に大きな困難を抱える家庭への支援を行うこと
「子どもショートステイ」専用の家の内観。木を基調としたリビングダイニングルーム。木製のダイニングテーブルと椅子、テレビなどが置かれている
「子どもショートステイ」専用の家。画像提供:認定NPO法人SOS子どもの村JAPAN

「子どもショートステイ」を利用する親の多くが育児疲れを経験

――「子どもショートステイ」について、詳しく教えてください。

橋本:実は、「子どもショートステイ」自体は全国の自治体で運用されている子育て支援サービスなんです。保護者が子どもの世話をできないときに、里親家庭や児童養護施設・乳児院といった施設で最大7日間預かってもらうことができます。

冠婚葬祭、仕事や入院、下の子の出産など、どんなときでも利用できますが、実際には、育児疲れで休息したいときに利用する人が多いですね

もともとは、施設での預かりが中心でしたが、ニーズの急増に加えて、国が家庭的な環境での養育を重視するようになり施設が小規模化したことも影響し、ショートステイの受け皿が足りない状況がありました。

そこで、2014年から里親による短期預かりの仕組みづくりを始め、2022年頃から福岡市では里親ショートステイの利用が増えてきました。

ショートステイ里親に子どもを預ける流れを示したイラスト入りのフローチャート。保護者が申し込み、西区役所子育て支援課を経て「SOS子どもの村」に依頼。里親に連絡後、子どもを預かり、スタッフが訪問や電話で確認。終了時には保護者と再会し、アンケートに協力する。各ステップに保護者や里親のイラストが描かれている。
「SOS子どもの村」が実施する「子どもショートステイ」利用の流れ。画像提供:認定NPO法人SOS子どもの村JAPAN

――ショートステイ里親はどんな方がなるのですか。

橋本:長期の里親と同じように、里親登録の条件をクリアし、研修を受けて里親登録をした人です。福岡市で一番多いのは、子育てが少し落ち着いた40代から50代の人ですね。60代、70代の元気なシニアの方もいますし、「子育て真っ最中だけど、もう一人くらいならお世話できます」という若い人もいます。

その他、子どもがいない夫婦、子育て経験のない単身者、同性カップル、外国籍の人など、本当に多様な人たちがショートステイ里親になってくれているんですよ。

「長期の里親になるのは難しいけれど、短期の預かりなら比較的負担が少ないからできる」という人もいます。また、将来的に長期の里親になりたい人が、ショートステイの受け入れから始めて、子どもと関わる経験を積むこともあります。

いずれにせよ、利用を希望するご家庭はとても多いので、受け入れてもらえるのは助かりますね。受け入れをしていただいた場合には、福岡市の規定に基づきショートステイの委託費が支払われます。日額で2歳未満が1万1,260円、2歳以上が5,960円(2025年8月時点)で、SOS子どもの村を通じて里親さんに振り込まれる仕組みです。

「ショートステイ里親の年齢」では50代34.4%、60代30.9%、40代28%、30代6.5%、20代以下0.3%。「ショートステイ里親の家族構成」では、夫婦共働きで子どもがいる32.3%、夫婦どちらかが働いており子どもがいる18%、夫婦共働きで子どもがいない19.6%、夫婦のどちらかが働いており子どもがいない14.2%、夫婦どちらも働いていない8.6%、単身7.3%。
「子どもショートステイ」を実施する全国7カ所の自治体を対象にした調査結果。出典:令和6年度子ども・子育て支援調査研究事業「子育て短期支援事業の運営状況及び在り方の検討に関する調査研究調査報告書」

――育児疲れでショートステイを利用する人が多いとのことですが、割合はどのくらいですか。

橋本:福岡市の統計では5割から6割となっていますが、私たちの体感では、利用する8割から9割くらいが育児疲れの状態ですね。統計上は「疾病」に分類されるものの、実際には「育児疲れで精神疾患が悪化し、子どもの世話ができない」という人も少なくありません。また、ひとり親で常に限界ギリギリの状態の人もたくさんいます。

子どもを預かる期間は原則7日間以内(最長で2週間まで)ですが、必要があれば何度でも利用できます。対象は18歳未満のお子さんで、家庭の状況に応じて柔軟に活用していただける仕組みになっています。

そんな人も、数日間利用すると少し疲れがとれた様子を見せることが多いんですよ。私たちが「子どもショートステイ」を引き受けるときは、里親さんと一緒にご家庭への送迎を行うのですが、迎えに行ったときは部屋着で疲れ切った表情だったお母さんが、帰りにはきちんとお化粧をして笑顔で子どもを迎えるといったことがあります。

「以前は全て投げ出したいと思っていたけれど、月に1回利用するようになってから、子育てが楽しくなってきました」と言ってくれた人もいました。

「里親ショートステイの利用理由(2024年度)」は育児疲れ60%、仕事20%、疾病12%、出産等4%、公的行事など4%。「利用家庭の状況(2024年度)」はひとり親67%、生活保護20%、その他(減免)8%、非課税4%、一般1%。
ショートステイの利用理由と利用家庭の状況。出典:認定NPO法人SOS子どもの村JAPAN

あなたにおすすめ