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孤立する親子を支える「子どもショートステイ」とは?

定期的なショートステイの利用で、親子関係が改善されることも

――「子どもショートステイ」のメリットについて、もう少し詳しく教えてください。

橋本:一番のメリットは親に余裕ができることですが、送迎があることも、大きなメリットだと思います。施設は交通の便が悪いところにある場合が多く、保護者が自力で連れて行かなければならないので、利用したくてもできない人が多いんです。

「子どもショートステイ」なら、預かり開始の際に自宅まで迎えに来てもらえます。さらに、幼稚園や学校への送迎もしてもらえるので、普段どおりに通うことができ、子どもの生活のペースを守ることにもつながります。

また、子どもの発育・発達にプラスになることもあります。利用家庭には、小学校低学年くらいで乳幼児のきょうだいの面倒を見たり、ヤングケアラー(※1)のような状態になったりしている子どもいます。そうした子は、年齢不相応に大人びていることが多いのですが、里親さんのところで伸び伸びと振る舞えることで、心のバランスが取れ、保護者との関係が良くなることもあります。

特に、定期的に同じ里親さんに預かってもらえると、保護者との愛着形成(※2)を補完でき、精神的に安定していく傾向にあります。里親さんの家では「今日は何を食べたい?」「どこに遊びに行きたい?」と要望を聞いてもらえるので、子どもの満足度がすごく高いですね。

「楽しかった」と帰っていく子が多いので、保護者も安心して預けることができます。ショートステイを繰り返すことで、ご家庭にとって里親さんの存在が頼れる親戚のようになっていくんです。

  • ※ 1.「ヤングケアラー」とは、本来大人が担うと想定される家事や家族の世話などを日常的に行っている子どもや若者のこと
  • ※ 2.「愛着形成」とは、子どもが保護者や保育者などの養育者との間に形成する心理的な絆のこと。子どもの安心感や信頼感の基盤となり、将来的に対人関係や自己肯定感を育む上でも影響を与えるとされる

――里親さんも、子どもに愛着が湧きそうですね。

橋本:そうですね。皆さん、親戚の子どもの成長を見守るようにお世話をしてくれています。里親さんって、本当に普通の一般市民なんですよ。そういう人たちが、預かりを通して「自分の周りにも、子育てに困難を抱えた家庭があるんだ」と気づくことで、地域の人々の子育て家庭へのまなざしが温かくなっていくのを実感しています。

隠れたニーズをくみ取り、受け皿を確保することが大切

――「子どもショートステイ」に取り組む中で、壁にぶつかることはありますか。

橋本:「子ども本人の声をあまり聞けていないのではないか」と感じることはありますね。サービスの利用は保護者の要望で決まりますが、実際に預けられるのは子どもです。その子ども自身が、「預けられることをどう捉えているのか」というところまでは、十分に目を向けられてきませんでした。

頻繁に利用する子どもの中には、自分の家庭と里親家庭を比べることで、自分への扱いに違和感を感じたり、自分の家が十分に機能していないと気づいたりし始める子もいますね。

例えば、「自分の親に大事にされていないのかもしれない」「自分の家は普通じゃないのかな」と複雑な気持ちになる子もいます。ですが、子どもの思いよりも、余裕が無くて苦しんでいる保護者の希望優先になっていたところがありました。

そうした反省から、「SOS子どもの村JAPAN」ではショートステイについて理解しやすくなる絵カードのようなツールを作り、子ども自身の納得感を高めるサポートに取り組んでいるところです。

――子育て支援は親の支援になりがちですが、子どもの目線に立つことも大事なんですね。

橋本:一方で、子どもが中高生くらいになると、本人自らショートステイを希望することもあります。ショートステイは0歳から18歳未満まで使えるんですよ。

希望する理由はさまざまで、「家族に精神疾患があり、症状が悪化していて家では休めないので離れたい」という子もいます。幼い頃からショートステイに慣れていると、家庭から一時的に避難したいときに自然と選択肢として浮かぶので、やはり子どもにとってのメリットも大きい制度だと思います。

ただ、年齢が高い子どもが利用を希望した場合も、手続きは保護者が行う必要があります。

取材に応じる橋本さん
制度の利用が広まることによって、子ども本人からのニーズも広がっているという

――「子どもショートステイ」という制度があることはどの程度知られているのでしょうか。

橋本:福岡市は全国でも利用率が高い自治体ですが、それでも「福岡市にこんな制度があるなら、もっと早く知りたかった」という人に出会うことがあります。なので、全国的な認知度はさらに低いのではないかと思います。

2020年度に私たちが実施した「里親ショートステイ全国調査」では、里親ショートステイを実施している自治体が全国でたったの4.8パーセントしかありませんでした。近年は少しずつ増えてきていますが、もっと広まっていってほしいですね。

――なぜ、実施している自治体が少ないのでしょうか。

橋本:受け入れ先となる里親家庭が依然として少ないからです。福岡市は里親普及に非常に力を入れているため、全国的に見ると受け入れ先が多い方ですが、それでも毎月、利用希望者の一部はお断りせざるを得ない状況です。他の自治体はさらに厳しい状況にあるのではないでしょうか。

また、ニーズが掘り起こされていない、つまり「必要としている人がたくさんいることが、行政側から見えていない」という可能性も高いです。「うちにはそんなニーズはない」という自治体もありますが、そもそも制度化されてないから希望が上がってこないだけだと感じています。

まずは自治体関係者にも、市民の皆さんにも、「子どもショートステイ」という制度があること、そして子育ての強力なサポートになり得ることを知ってもらって、全国で実施されるようになってほしいです。

こういった制度を使って、今よりも楽に子育てをすることが当たり前の世の中になり、追い詰められて苦しむご家庭が減っていくことを願っています。

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