奇跡のかき氷に出合える、街の小さな喫茶店。『喫茶ベレー』。

奇跡のかき氷に出合える、街の小さな喫茶店。『喫茶ベレー』。

見たこともない、食べたこともないものに出合うってこと、なかなかないですよね? たいていのことでは驚かない。ところが、『喫茶ベレー』のかき氷にはびっくりさせられることばかり。おもしろくておいしい、かき氷の新世界へ。

A定食¥1,900。かき氷に杏シロップをたらり、杏仁豆腐はつるり、楽しい。
氷クリームソーダ¥1,700。メロンシロップと炭酸を合わせ、追い炭酸を。食べながらチューチュー吸う。マンゴー入り。

氷の楽しさが凝縮。 天才の技に酔う。

 暑い、暑い、毎日暑い。ひんやり涼しくなりたいとき、あなたならどうする? やっぱり、かき氷?
 ゴーラーではないので、最新のかき氷事情にはついていけていないのだが、ある日突然、とんでもないかき氷というか、天才かき氷クリエイターと出会ってしまった。『喫茶ベレー』店主の秋山さんがその人。そもそもは、わらび餅「でろん」が始まりだった。1本流しの大胆さもさることながら、きなこが濃厚でおいしすぎた。
 お取り寄せだったので、お店を調べたところ、お客さまからの投稿にぶっ飛んだ。え、髷(まげ)ミルク? 何ですと。おかっぱサンデー? もう、名前だけで食べてみたくなるが、写真を見てさらに驚いた。ここにも、でろ〜んとようかん状のものがのっている。確かに髷にもおかっぱにも見える。楽しすぎるんですけど。ただ、これらは冬メニューなんだとか。かき氷は夏だけのものではないのだ。
 『喫茶ベレー』は、戸越銀座の住宅街の中にポツンとあった。駅から近くはない。猛暑の中、日陰がない道を汗だくで歩く。ありがたいことに、2024年から予約制(ひとり1杯のみ)になっているのだが、それでも歩く。大きなガラス窓の白い愛らしい建物がゴールだ。ワクワク。期待度マックス。そして、その期待以上のかき氷との出合いが待っている。

これが、わらび餅「でろん」。冷凍テイクアウト1350円。きなこは二度焙煎しているので、香り高く、味わい深い。通販あり。

 待ちに待った「冷や玉ぜんざい」がやってきた。何と木製の2段重。玉手箱を開ける気持ちで一番上の蓋を開ける。おーっ、小さな白玉がたっくさん生姜蜜の中に浮いている。そして、それをそっと蓋の上にのせて2段目を見ると、ぴたっと平らに整えられたこしあんが。あれ、氷は?と思ったら、そのあんこの下が真っ白なかき氷だった。まずはあんことかき氷をすくってパクリ。うほーっ、何ておいしいの。あんこのおいしさが際立っている。氷のほうには何の味もついていない。食べ方は自由で、あんこと氷をすくったままで、そっと白玉の入っているシロップに浸してパクリ、もいい。白玉をあんこにのっけて、上からきなこをふってあんこ、白玉、きなこのハーモニーも楽しめる。氷は1回お代わり可能で、生姜蜜かミルクシロップがつく。ともかく、至れり尽くせり。食べ手の心情をよくおわかりで。

冷や玉ぜんざい¥1,815。生姜蜜は素焚糖と氷砂糖のやさしい甘味。佃煮はかつお節入り辛口。
あんこの下にはかき氷。ふわふわのお代わり氷用に、あんこを残しておく上級者も。生姜蜜やミルクシロップをかけて。

 店主は日光出身。日光の天然氷の蔵元とのご縁で、天然氷を使った氷喫茶を東京・笹塚で始め、行列のできる大人気店に。ところが暖冬の影響で氷が高騰。子育て期間と重なったこともあって、1年ほどで閉店。6年前に武蔵小山に引っ越し、この物件を見つけた。それも、携帯電話の充電がなくなり、大崎から武蔵小山のタワーを目標に、ひたすら歩いているときだった。大きな窓が特徴の建物に心惹かれた。長く続く理容室だったそうだが、「見つけた感があった」、と店主。建物の温かい雰囲気に合わせて、’70年代のアンティークガラスをはめ込んだ。そして、2019年新たなスタートを切った(あ、ここで用いる氷は純氷である)。
 ところが、すぐにコロナ禍に。テントを立てて、テイクアウトを始める。ソフトクリーム、甘すい(水ようかんと寒天、杏、豆などに蜜をかけたもの)、かき氷……。水ようかんは工夫を重ね、大人気の髷やおかっぱ(笑)にのっかっている。「水ようかんに合う小豆を探すところから始まり、極限まで寒天を減らして、とろけるような食感に仕立てています。それをミルクだけの氷にのせてみたら、髷にしか見えなくなって(笑)」、髷ミルクの誕生となった。
 「A定食」も素晴らしい。こちらは店主が日本一おいしいと太鼓判の、長野の『相澤農園』の杏が主役。杏のシロップ、杏のコンポート、杏仁から作る杏仁豆腐、杏仁ミルク。ほら、頭文字は全部A。だから、A定食。氷は押さえず、ふわっふわの削り立てそのまま。もう、箸じゃなかった、スプーンが止まりません。サクサク食べてしまう。
 店主の氷愛が炸裂しているのがよくわかる。おいしいかき氷のためならば、何ひとつ努力を惜しまない。器貧乏になりそうなほど、器好きでもある。器も要チェックね。そして、どうしても冬に行かねば。髷もおかっぱも「焼き林檎リング」も、制覇したいかき氷が多々。形状も組み合わせも味も唯一無二。まいりました。冬はベレー帽かぶって行こうっと。

右/テイクアウトのあんことエスプレッソのソフト630円。左/ラズベリー&ブルーベリーソフト700円。あんことエスプレッソの相性のいいこと。
何でもない顔して、いちいち素敵な店内。店主の趣味全開。白で統一された壁面は氷が映える。トッピングをあれこれプラスしつつ、ゆっくり食べよう。

喫茶ベレー

メニューは日によって変更あり。トッピングもいろいろ。
DATA 東京都品川区荏原1-7-12コーポサンフラワ102 12:00~16:00LO(テイクアウト〜16:30) 日休予約&キャンセルの方法はインスタグラムのピンポストで要確認。

photo : Atsushi Kondo text : P

ライター 渡辺 紀子

皆からの呼び名は、P(ぴい)。「食べるものなら、おいしくてもおいしくなくても愛おしい」を口上に、『&Premium』創刊時から食の連載「&food」を担当。

TIME FOR READING / あの人の読書の時間と、本棚。&Premium No. 142

ネットやSNSで、知りたい情報にすぐ辿り着ける昨今。それは確かに便利で魅力的でもあるのですが、ときに、目まぐるしく流れる情報にのみ込まれるような気分になることもあります。そんな慌ただしい時代だからこそ、本を開く時間の特別さがあらためて心にしみるのかもしれません。ページをめくる静かなひとときは、誰にも急かされることなく、自分のペースで思いを巡らせる時間。朝の一冊、“聴く読書”など、本を愛する人々の読書習慣と、個性豊かな本棚をずらりと紹介。読書家たちの手放せない本と忘れられないフレーズ、生き方を教えてくれるマンガ案内……。いまこそ大切にしていきたい、「読書の時間」の見つけ方、そして素敵な本との出合いについて。読書家のみなさんの、本とともにある暮らしを訪ねます。

andpremium.jp/book/premium-no-142

配信元: & Premium.jp

あなたにおすすめ