業務委託契約で働く人は残業代をもらえないのか?
ある会社と業務委託契約(請負契約)を結んでいたAさんが、その働き方の実態から「自分は労働者であり、残業代が支払われるべきだ」と主張し、会社を相手に約370万円の残業代を求めて訴訟を提起した。
裁判所はAさんの主張を全面的に認め、「業務委託契約という名前であっても実質は労働契約である」と判断。会社に対し、残業代の支払いを命じた。
以下、事件の詳細について、実際の裁判例をもとに解説する。(弁護士・林 孝匡)
事件の経緯
占いサイトを運営するX社で、Aさんは鑑定士として、サイトに登録した会員に占いの結果を伝える仕事をしていた。サイト運営全般を担っていたYさんは、Aさんの上司的存在であった。
■ 占いサイトの仕組み
占いサイトには、下記の記載があった。
- オフラインでの暮らしに寄り添う占い、鑑定をオンライン上にて提供する占いサービスです。24時間いつでも好きな時に相談でき、プロの占い師、鑑定士による占い・鑑定を気軽に受けることができます
- ご相談には24時間以内に鑑定結果が届き、万一鑑定士が多忙で対応できない場合はポイントは返却
会員への返信は、X社の従業員や、鑑定士であるAさんが行っていた。
■ 会社とAさんとの契約
Aさんは、このX社で約2年3か月働いた。契約書の締結状況は、以下のとおりだ。
2020年12月3日〜:契約書なし
2021年6月1日〜10月31日:業務委託契約書
2021年11月1日〜:再び契約書なし
2022年3月1日〜8月31日:業務委託契約書
2022年9月1日〜2023年2月28日:業務委託契約書
業務委託契約書には、「会社はAに対し、本業務の対価として、月額金30万円及び会社の定めるインセンティブを支払う」との記載があった。
■ 提訴
退社後、AさんはX社を訴えた。「残業代約370万円を支払ってほしい」という請求である。Aさんの主張は、「業務委託契約という名前だが、実態は労働契約である。私は労働者なので残業代が支払われるべきである」というものだ。
裁判所の判断
Aさんの完全勝訴である。裁判所はAさんの請求をそのまま認め、X社に対して残業代約370万円の支払いを命じた。
ポイントは、裁判所がAさんを「労働者」と認定した点にある。労働者であれば残業代の請求は可能となる。
労働基準法には、「労働者」の定義規定がある。
【労働基準法9条】
この法律で「労働者」とは、職業の種類を問わず、事業又は事務所に使用される者で、賃金を支払われる者をいう。
労働者の定義をさらに具体化するため、労働基準法研究会報告(労働基準法の「労働者」の判断基準について)(1985年12月19日)が判断基準を示している。その基準は、以下のとおりだ。
【使用従属性に関する判断要素】
1. 指揮監督下の労働
a.仕事の依頼、業務従事の指示等に対する諾否の自由の有無
b.業務遂行上の指揮監督の有無
c.拘束性の有無
d.代替性の有無(指揮監督関係を補強する要素)
2.報酬の労務対償性
支払われる報酬の性格が、発注者等の指揮監督の下で一定時間労務を提供した対価といえるか
【労働者性を補強する要素】
1.事業性の有無
2.専属性の程度
今回の事件でも、裁判所は上記要素を総合考慮して「労働者」かどうかを判断している。その具体的な内容を見ていこう。
■「指示を断る自由」があったとはいえない
裁判所は下記の事実を認定して、「Aさんは業務の依頼、業務従事の指示等に対し諾否の自由があったとはいえない」と判断した。
- Aさんは、毎月Yに対し、翌月の休日希望を伝えていたが、希望どおりにならないことがあった
- 勤務開始日の午前9時ころに、Yから、Aさんら従業員に対して新規の会員の割り当てが行われていた
- Aさんは、2年余りに渡ってその割り当てを断ったことがなかった
- 新規の会員に対しやり取りを開始して以降は、その者の鑑定士として継続して担当しなければならなかった
■ 指揮監督を受けていた
また、その日の業務を終了する際には、会社から会員とのやり取りの状況や業務の方向性を報告するよう求められていた。さらに、売上目標額が定められ、その達成状況も把握されており、Aさんは達成状況に応じてYから指示を受けるなどしていた。
裁判所は、これらの事情から、「Aさんは、本件業務を遂行するにあたり、X社から指揮監督を受けていた」と認定した。
■ 拘束性について
Aさんが特定のアパートから通勤するよう指示されていたほか、勤務時間の開始・終了についてもメールでの報告を求められていた。加えて、第三者によって業務を行うこと(再委託)も禁止されていた。
これらを踏まえ、裁判所は「X社による管理が及んでいた」と認定した。
■ 報酬の労務対償性
裁判所は「X社からの金員の支払いに関し、一部、インセンティブ分はあるものの、その大部分を毎月30万円の固定額が占めており、これがAさんによる売り上げの多寡にかかわらず支払われていたものであることからすれば、上記支払いはAさんの労務の提供に対する対価としてされていたというべきである」と認定した。
■ 結論
裁判所は上記の事情を総合考慮して、「Aさんは、X社による指揮監督下によって労務を提供し、これに対する対価を支払われていた者であり(=労働者)、両者間の契約は労働契約である」と判断して、X社に対して、残業代約370万円の支払いを命じた。
最後に
契約書に「業務委託契約」と書かれていても、それだけでフリーランス扱いになるわけではない。働き方の実態が、会社の指揮監督下で、時間や場所に拘束されて労務を提供するものであれば、労働者と判断される可能性がある。
本件では特に、①業務指示に対する諾否の自由がなかったこと、②業務の遂行方法や売上目標について具体的な指揮監督があったこと、③勤務時間などが管理されていたこと、④報酬が固定給中心であったことなどが、労働者性を基礎づける重要な要素と評価された。
会社側は、契約書のタイトルだけで労務管理を判断してはならない。一方でフリーランスとして働く側も、「業務委託だから残業代は請求できない」と諦める必要はない。大切なのは契約書の名前ではなく、働き方の実態である。
自身の働き方が労働者に該当するのではないかと考える場合は、弁護士に相談することをおすすめする。本件が参考になれば幸いだ。

