元「男の娘女優」大島薫はなぜ出演作品の販売差し止め裁判を起こしたのか?「一生作品が売られ続ける」業界の問題点とは

元「男の娘女優」大島薫はなぜ出演作品の販売差し止め裁判を起こしたのか?「一生作品が売られ続ける」業界の問題点とは

今年2月26日、かつて「男の娘AV女優」として人気を集めた大島薫さんが、東京・霞が関の司法記者クラブで記者会見をおこなった。

大島さんは、引退後に作品の販売停止を申請したにもかかわらず販売を継続したメーカーを、2023年11月に提訴。

記者会見はこの裁判の「和解」を伝えるものであり、大島さんの出演作品について今後の製造・販売・譲渡をおこなわないことや和解金の支払い、大島さんへ「通常実施権」の付与などが和解の条件として伝えられた。

しかし、そもそもなぜ出演者本人が求めたにもかかわらず、裁判までしなければ出演作品の販売差し止めができないのか?

2016年の「出演強要問題」以来、AV業界の健全化を目指してさまざまな対策が取られてきた。

2022年の「AV新法」制定もあり、多くの業界人が「AV業界はクリアになった」と語っている。

その状況でもこのような裁判がおこなわれるのでは、業界が健全になったとはとても言えないのではないだろうか。

今回は裁判の当事者である大島さんに、裁判に至った経緯やいまだにAV業界が抱える問題点などを語ってもらった。(ライター・蒼樹リュウスケ)

出演者が販売停止を求めてもメーカーが応じる義務はない

まず、この裁判がおこなわれた原因は、大島さんがメーカーに作品の販売停止を申請したにもかかわらず、販売が継続されたことだ。

そもそも「AV女優による作品の販売停止申請」とは、どのような仕組みなのか。

「私は2020年で、当時存在したAV人権倫理機構の枠組みを利用して、全作品の販売停止申請をおこないました。その時点でほとんどのメーカーが販売停止してくれたんですが、一部のメーカーは応じてくれなかったんです」(大島さん)

AV人権倫理機構による販売停止申請はあくまでも業界内の自主規制的なシステムであり、法的な強制力があるわけではない。

そのため、メーカー側が応じなくても、罰則などは存在しないのだ。

「でも私にとっては、自分を助けてくれると信じた機関に頼ったのに『アナタの作品は完全には消せませんでした、はい終わり』と言われたようなもので。そこで『ああ、ダメなんだ』って、もうその現実に向き合うのもイヤになってしまったんです」(大島さん)

消えなかった作品はそのままに、作家・タレントとして活動を続けてきた大島さんだが、AV新法成立時の業界の動きに違和感を覚えた。

「大勢の業界関係者が『AV業界はクリーンです』ってアピールしていましたよね。でも自分の作品は申請したのに消えていない、どこがクリーンなんだって。それに、後輩のなかには『大島さんに憧れてデビューしました』って子もいたんです」(大島さん)

後輩たちのためにも言うべきことは言う、そう決意した大島さんは、神原元(はじめ)弁護士や伊藤和子弁護士の助力を得て作品の販売差し止め裁判に踏み切ったのだ。

配信メインになることでAVが引退後も永遠に残り続ける状況に

AV女優が作品の販売停止申請をおこなうことに対しては、批判的な声もある。

代表的なのが「販売停止するくらいなら、最初から出演するな」というものだ。

ただし、この点に関しては販売停止申請が必要だ、と言える時代の変化が存在している。

「私はVHSの時代を子どもの頃に経験しているので、作品は年月が経てばだんだん作られなくなって、自然に消えていくと考えていたんですよ。だから引退すれば、自分が出演したAVのことは次第に忘れられていく、と思っていたんです」(大島さん)

しかし現在のAVの販売は、ポータルサイトによる動画配信が主体である。

つまり、女優が販売停止申請をしない限り、永遠に作品が残り続ける時代となってしまったのだ。

さらに引退した女優に対する影響が大きいのが「総集編」や「オムニバス」といった、過去の作品を再編集して新作として販売する手法だ。

すでに撮影済みの素材を二次利用して制作できるこれらの作品は、メーカーにとって低コストで利益を上げられるありがたい存在であり、知名度のある女優の作品は本人の引退後も延々と素材として利用され続ける。

「私は2015年に引退しています。でもオムニバスは2019年まで新作として販売され続けていたんですね。それを知ったとき、もう『一生売られ続けるじゃないか』と」(大島さん)

本人が引退していても、新作が発売し続けられる限り「現役のAV女優」というイメージが付きまとう。

それは、引退後に作家・タレントとして活動していた大島さんにも大きな影響があった。

「本を出版した際に『この本は扱えない』と書店さんや通販サイトさんに言われました。もう引退済みだし、内容も一般書籍なんですけど『AV女優の本はNG』と。テレビ出演の話があっても『やっぱり現役のAV女優は……』と言われてダメになることも多くて。引退していても、総集編やオムニバスが新作として発売されている以上、現役と見られてしまうんですよ」(大島さん)

このように、引退後のセカンドキャリアに悪影響が出るケースがある以上、対策が必要なのは間違いない。

販売停止申請の制度は、引退したAV女優の人生を守る役割を担う重要な存在なのだ。

AV業界の真の健全化には「出演者の権利を確実に守る仕組み作り」が必要

大島さんの裁判ではメーカーとの和解が成立し、作品の製造・販売・譲渡をおこなわないことが約束された。

この和解は2022年に施行されたAV新法の「出演者が制作側に作品の販売差し止め請求ができる」という趣旨に沿う内容となっており、法律施行前の出演作がAV新法の趣旨に沿って販売差し止め可能なケースもある、という点で注目すべきと言える。

「私の裁判のことや記者会見が報道されて、同じように作品の販売停止がされずに悩んでいた女優さんがAV新法による差し止め請求を考えるきっかけになったと聞いています」(大島さん)

ただし、相手方が販売停止に応じない場合、裁判までしなければ販売停止ができないこと自体は、大きな問題だ。

「私のように世の中に顔を出して裁判ができる元女優ばかりではありません。引退して結婚して家族がいて、過去のことは周囲に内緒にしている元女優さんには、裁判は難しいでしょう。そういう人は、バレないようにと祈るしかない。ずっとおびえ続けなければならないんです」(大島さん)

裁判などせずとも、出演者が希望すれば作品の販売停止ができる仕組み作りが必要なのだ。

AV女優による作品の販売停止申請の受付など、業界の改善に取り組んでいたAV人権倫理機構はすでに活動を終了している。

販売停止申請に関しては現在、NPO法人「適正映像事業者連合会」が引き継いでいるが、以前と同じく申請に応じないメーカーへの販売停止の強制は不可能だ。

また、違法アップロードなどによってネットの海に漂う海賊版の存在も、出演者だけでなく業界全体を悩ませる大きな問題となっている。

和解の記者会見で大島さんは「自分の権利を取り戻したような裁判だった」と語った。

出演者が安心して活動できる業界にするためには、引退後の生活で不安を感じるようなことがないような「出演者の権利を守る」仕組み作りや対策が求められる。

それらの対策が整えられなければ「AV業界はクリーンになった」とはとても言えないのではないだろうか。

<蒼樹リュウスケ>
単純に「本が好きだから」との理由で出版社に入社。雑誌制作をメインに仕事を続け、なんとなくフリーライターとして独立。「なんか面白ければ、それで良し」をモットーに、興味を持ったことを取材して記事にしながら人生を楽しむタイプのおじさんライター。

配信元: 弁護士JP

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