「チャーハンにホタテは入っていますか」――。飲食店で客からそう聞かれた従業員が「入っていませんよ」と案内して注文を受けた。しかし、店側がアレルギーの可能性に気付き、念のため確認したところ、調味料にはホタテエキスが含まれていることが分かった。
客に伝えたところ「アレルギーですけど」と言われ、結局キャンセルになったが、客の友人が「あなたさっき入っていないって言いましたよね?」と怒り、従業員は何度も謝る羽目に…。
過去にX(旧Twitter)に投稿された上記のエピソードが先日改めて話題となり、「食物アレルギーがある場合は店側にそのことを明確に伝えるべきだ」といった意見も相次いだ。
もっとも、法的には、客側の配慮だけを求めれば済む問題ではない。アレルギー食材を誤って提供すれば、店側は民事・刑事の法的責任を問われる可能性、行政処分を受ける可能性があるからだ。
自身も飲食店を経営した経験を持つ石﨑冬貴弁護士(法律事務所フードロイヤーズ)は、「お客様の『ホタテは入っていますか』という言葉の裏にある『命に関わるリスク』をどれだけ真剣に捉えられるか」が重要だと指摘する。
100万円以下の罰金や営業停止処分の可能性も
食物アレルギーを持つ客が来店した際に、もし飲食店がアレルギー食材を誤って提供し、その結果として客が健康被害を受けた場合には、店側はさまざまな法的責任を問われる可能性がある。
まず民事上は、店側は債務不履行責任(民法415条)や不法行為責任(709条)を問われ、客に治療費や慰謝料、休業損害などの損害賠償金を支払う必要が生じ得る。なお、ミスを実際にしたのが現場の従業員であっても、店の経営者や運営会社も使用者として責任を負うことになる。
また、飲食店における調理・提供行為は「業務」に該当するため、過失により健康被害を生じさせた場合には、「業務上過失致死傷罪」にも該当し、5年以下の拘禁刑または100万円以下の罰金に処される可能性がある。
さらに、食品衛生法に基づき、営業停止処分や営業許可の取り消し等の行政処分を受けるケースも考えられる。
飲食店にアレルギー食材の「表示義務」はないが…
このように、飲食店がアレルギー食材を誤って提供して健康被害を生じさせた場合、民事・刑事・行政の各面で法的責任を問われる可能性がある。では、店側はどこまでアレルギーへの配慮義務を負うのだろうか。
食品表示法に基づく食品表示基準では「容器包装された加工食品」について、えび・カシューナッツ・かに・くるみ・小麦・そば・卵・乳・落花生という「特定原材料」が、原材料やその由来の添加物として含まれる場合、表示を義務付けている。
しかし、飲食店には基本的にアレルギー原因物質を含め食品表示の義務はない。石﨑弁護士はその理由について「客が店やスタッフに、対面で食品の詳細を確認することができるから」と説明する。
「仮に客が食物アレルギーによって健康被害を発症したとしても、注文の際などにアレルギーがあることを客が伝えていなければ、現行法上、店側に責任が生じる可能性は低いと言えます。
他方、客からアレルギーの告知があったにもかかわらず、何らかの事情によりアレルギーの原因となる食材を提供してしまえば、それがたとえメインの食材ではなく、調味料やエキスなどに含まれていた場合であっても、店側は責任を負う可能性が高いでしょう」(石﨑弁護士)
そして、冒頭で紹介したチャーハンとホタテアレルギーのケースについては、客は「食材の有無」のみを確認しているため、法的にも判断がかなり難しい部分があるという。
「『ホタテは入っていますか』という質問のみでは、単なる好みの問題かアレルギーの問題かが判然としません。
しかし、客側は店が提供する食材について十分な情報を持っていないため、店側は自身が提供する食材についてしっかりと把握しておく義務があります。
店側は『ホタテは入っていますか』という質問に対して、『アレルギーかなにかですか?』と確認することもできるはずですから、通常、アレルギーの原因となることが想定されにくい食材(水や米など)以外は、店側には過失が認められ、一定の責任を負うことになるでしょう。
ただし、お客様側にも落ち度があったとして、過失相殺(※)が認められる可能性もあります」(石﨑弁護士)
(※)被害者側にも不注意があった場合、その程度に応じて損害賠償額が減額されること
店側は「飲食物の専門家」という意識を持つべき
石﨑弁護士は「昨今、アレルギーを持つ方が非常に増えています」と指摘しつつ、店側は飲食物についての専門家として、食の安全に関する意識を持つことが必要だと訴える。
「もちろん、すべてのアレルギーについて客に注意喚起することは困難です。しかし、えび・かにや卵などの特定原材料(前述)については、可能であれば、メニューでの表記をする、またはメニューの名前で明示することが、アレルギー事故の予防になります。
前述のとおり、店側に、アレルギー表示の義務はありません。それは、客がスタッフに対面で確認できるからです。
だからこそ、アレルギー食材の表示が難しくとも、少なくとも客に問われた場合は、店側は誠実に回答する必要があります。
なお、中規模以上の店舗では、食材をセントラルキッチンで加工している場合がありますから、調理スタッフを含め、店舗の従業員であっても原材料を把握していないケースはあるでしょう。
そのように店舗で確認が取れない場合、または微量混入のリスクが排除できない場合には、曖昧な回答をせず、正直に『分かりかねるため、安全を優先して提供を控えさせていただきます』と断る勇気が必要です。
飲食店にとって、お客様の『ホタテは入っていますか』という言葉の裏にある『命に関わるリスク』をどれだけ真剣に捉えられるかが、信頼される店舗運営の鍵となります」(石﨑弁護士)

