「ブレーキ異音」劣悪バイク“炎上”…排気量250cc以下「軽二輪」にも「車検義務化」の声も、“現実的に不可能”なワケ

「ブレーキ異音」劣悪バイク“炎上”…排気量250cc以下「軽二輪」にも「車検義務化」の声も、“現実的に不可能”なワケ

7月12日にSNSに投稿された画像にライダーの目が点になった。「ブレーキの利きが悪くて変な音がする」と修理店に持ち込まれたバイク画像が、見た目にも調子が悪いレベルを超える劣悪な状態だったのだ。

このバイクが車検のない「軽二輪」だったことから、にわかに「車検必要論」が盛り上がった。自動車コラムニストの山本晋也氏が、この問題を歴史も交え、検証、展望する。(本文・山本晋也)

自動二輪の保有実態

原付を除くバイク(自動二輪)の2026年3月末時点での保有台数全体を見ると、排気量250cc超の「小型二輪」は197万6311台、 同126cc~250ccの「軽二輪」は214万5079台となり、排気量の小さな軽二輪のほうが過半数を占めている。                                                                          

一般に、軽二輪のアドバンテージとして挙げられるのは 、ランニングコスト・維持費を抑えられるということであり、その最大の要因が、軽二輪には「車検がないこと」である。

車検がないからといって整備を手抜きできるというわけではないが、車両の傷み具合を自分で把握できるオーナーからは、法律によって定期的(1~3年)に検査を行う仕組みは、維持コストがアップする要因として忌み嫌われている面もある。その意味では、車検の対象外となっている軽二輪は、それだけで維持費を抑えることができ、所有するインセンティブになり得る。

なぜ250cc以下のバイクに車検がないのか?

現在の車検制度が生まれたのは1951年、道路運送車両法が制定されたときだ。

その目的は、戦後の自動車普及期において安全性を確保することだった。そのため対象は、四輪の登録車だけであり、1951年の段階ではいったん軽自動車も車検の対象外となっていた。もちろん、自動二輪の検査優先度も低かった。

その後、1973年には軽自動車が車検の対象となったが、軽二輪は車検の対象にはならなかった。その背景には、モビリティの普及期にあり、庶民の足となる軽二輪の維持コストが上がることに配慮したといわれている。

また、日本にはホンダ・ヤマハ・スズキ・カワサキと世界的なバイクメーカーが4社もあり、市場の冷え込みを考慮したという面もあるだろう。

なぜ今、「車検義務化」の議論が再燃しているのか?

そうした軽二輪に対して、車検対象とすべきという議論が盛り上がっている。最大の要因は自動車保安基準のグローバル化と、欧州における二輪の検査制度拡大のトレンドにある。

2025年にEU(欧州委員会)が発表した車検制度への改正案によれば、EU全体として125㏄超の二輪車(日本でいうところの軽二輪以上)に車検を義務付けることが提言されている。

現状は、各国により二輪の車検制度は異なっているが、二輪全般が車検対象外だったフランスでも2024年からは二輪の車検が始まるなどEU全体として二輪も一定の検査制度が必要という流れが生まれている。

EUによる126cc以上の二輪に対する車検義務化には、技術進化による高性能化とコンピューター制御による不透明化への対応、そして環境性能の担保といった狙いがある。

もっとも、電動化が進むと排ガス規制への対応は不要となるから、基本的な保安基準を満たしていること、またリコールなどの対策をしていることの確認が必要となるくらいだろう。

車検の義務化は「いつから」始まるのか?

これに対し、日本では現時点で軽二輪が車検対象になるという動きはない。国土交通省や警察庁から「250cc以下への車検導入」に関する具体的なアクションは起きていない。

そもそも、現実的に軽二輪の車検は不可能といえる。

前述したように軽二輪の保有台数は約214万台だ。これを半分にわけて2年車検(毎年約107万台が対象)と仮定して、年間営業日250日で計算すると、「1日あたり約4280台」の検査が発生することになる。いまの日本に、それだけの検査設備を新規で設け、なおかつ検査官を確保することができるだろうか。

自動車整備士でさえ不足しているというのに、新たな検査設備と検査官を公的に用意しなくてはならない。そんなパンク確実な計画を、監督官庁が考えるとは、とうてい思えない。さらにいえば、巷のバイクショップでも整備士に余裕がある店舗は少数だろう。

一部には、まずは新型車から段階的に車検対象とすれば検査環境の整備との整合性が取れるという意見もあるようだが、保安基準のチェックをすべきは長らく放置されてきた古い個体であって、新型車の保安基準チェックを優先するというのは机上の空論にすぎないといえる。

「車検がない=メンテナンス不要」ではない

道路運送車両法では、定期点検をユーザーが実施することが義務付けられている。自動二輪においては1年ごとに35項目、2年ごとに54項目の検査項目が定められており、この定期点検については軽二輪であっても対象だ。

なにより、自動二輪というのはライダーがむき出しで運転する乗り物であり、自分自身の安全を守るためにはタイヤやブレーキといった重要な部品については日常的な点検が欠かせない。

車検制度の議論とは関係なく、「維持費の安さ」が「命の安さ」につながってしまわないよう、まさに自己責任の意識を持って、ライダー一人ひとりが整備に、より安全を確保する意識を高めることは重要なのである。

<山本 晋也>
1969年生まれ。編集者を経て、2000年頃よりフリーランスとして活動開始。過去と未来をつなぐ視点から自動車業界を俯瞰することをモットーに自動車コラムニストとして執筆活動を継続中。二輪と四輪のいずれも愛車とする視点から次世代モビリティを考察するのもライフワークのひとつ。

配信元: 弁護士JP

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