国会議員への“FAX送り付け”は「迷惑行為」か? “国民の声”を床にバラまいたSNS投稿にみる“政治参加”のあり方【弁護士解説】

国会議員への“FAX送り付け”は「迷惑行為」か? “国民の声”を床にバラまいたSNS投稿にみる“政治参加”のあり方【弁護士解説】

国民民主党の岡野純子衆議院議員(比例南関東ブロック選出(小選挙区は千葉県第5区))が6月11日、自身のX(旧Twitter)アカウントに投稿した内容が波紋を呼んだ。

投稿には、議員会館の事務所に届いた数百枚のFAXを床にばらまいたと思われる写真が添えられ、「紙やインクトナーを枯渇させ、通常業務を妨げるほど同じ内容のファックスを送り続けることは、意見表明の域を超えています」「これでは対話は生まれません」などと綴られていた。

これらのFAXは、国民投票法改正案(衆議院で6月19日、参議院で7月15日に可決)に反対する一般国民から送られたものとみられる。

この投稿に対し、「パッと見ただけでも同じ内容の物が何枚も見受けられるから組織的にやってるだけ。本当に下らない連中ですね。」「メールで送れば済む」など、賛意を示す声も見られるものの、「国民の懸念や不安を届けるために、他にどのような方法があるのでしょうか。」「今どき、データファックスを利用していないことに驚いた。わざわざ床に並べて見せる画像と、皮肉交じりの文章からは抗議する人々にレッテルを貼る意図が滲む。」といった批判的なコメントが数多く寄せられていた。

議会制民主主義・代表民主制が採用されているわが国において、国民が「全国民の代表」(憲法43条1項)である国会議員に自身の声を届けるには、どのような方法が有効適切なのか。多数の国民が大量のFAXを送るという手段は、「意見表明の域を超え」た行為なのか。また、国民からの意見表明に対し、国会議員はどのように向き合うべきなのか。国会議員秘書を10年間務めた経歴を持ち、憲法、政治家に関する法制度に詳しい三葛敦志弁護士に話を聞いた。

FAXでの意見表明は正当な権利行使

まず、国会議員に対してFAXで意見を送るという行為は、法的にどのように評価されるのだろうか。三葛弁護士は、業務妨害のような極端なケースを除き、憲法で保障された正当な権利行使だと指摘する。

三葛弁護士:「国会議員に意見を伝える行為は、憲法で保障された『政治的表現の自由』(憲法21条)や、『請願権』(同16条)の行使と位置づけられます。

国会議員の法的地位は『全国民の代表』(同43条)であり、その重要な業務はあらゆる国民の声を受けることです。したがって、国民一人ひとりが自分の声を届けることを目的として行う行為は、業務妨害に該当しない限り、それは正当な権利行使と言えます」

業務妨害に該当するか否かの線引きは、その目的や態様によって判断される。

三葛弁護士:「たとえば、特定の事務所の機能を麻痺させる目的で、一人が何百通も同じ内容のFAXを送ったり、トナーを消費させるために真っ黒な紙を送り続けたりするような場合は、業務妨害と評価される余地があります。

しかし、今回のように、法案に反対する人々が『我々の声を届けましょう』という趣旨で、一人ひとり個別に送る行為は、業務妨害にはあたらないでしょう。そもそも各議員事務所は、意見を寄せられることを前提に、FAX番号を外部に公表しているところがほとんどです。また、何かしらの雛形を使うことも、文章が得意ではない人がいることや、長い文章を一から組み立てることの大変さを考えれば、正当な手段といえます」

意見表明の手段としてFAXが選択されることには、一定の合理性が認められると指摘する。

三葛弁護士:「メールは大量のメッセージに埋もれて見過ごされる可能性がある一方、FAXは受け手の目に留まりやすいのです。

他に考えられる手段としては、電話や事務所への直接訪問がありますが、議員側の手間をより多く取らせることになります。

そうした点を考慮すると、FAXは、国民にとっては議員に意見をより確実性をもって届けられる利点、議員にとっては国民の声を的確に把握できる利点があり、双方の立場からみて、有効なコミュニケーションツールの一つと言えます」

実際、議員の事務所にFAXを送信することは、意見を届ける手段として古くから行われていることであり、与野党問わず、日々、様々な立場の人々から多くのFAXが届くと指摘する。

三葛弁護士:「たとえば、長年の政権与党である自民党の議員は、陳情や批判の対象となりやすいことから、何十年もこうした大量のFAXを受けており、対応に慣れています。

心の中でどう思っているかは別として、少なくともSNSのような公の場で、国民から届いたFAXを迷惑行為と扱うような投稿はしないでしょう」

「全国民の代表」としての議員の向き合い方

一方で、意見を受け取る側の国会議員は、こうした大量のFAXにどう対応すべきなのだろうか。岡野議員は「紙やインクトナーを枯渇させ、通常業務を妨げる」と主張しているが、三葛弁護士はこの点に疑問を呈する。

三葛弁護士:「現在の議員会館で使われている複合機の多くは、受信したFAXを一旦データとして保存し、内容を確認してから印刷するかどうかを選択できる機能が備わっています。

議員会館に入居する際に売り込みがくる業者もこの機能を売りにしているところばかりです。もし本当に紙やトナーの消費が問題なのであれば、印刷しない設定にすることも可能です。

問題なのは、そうした技術的な対応が可能であるにもかかわらず、国民からの声を一方的に『迷惑行為』と断じてしまう姿勢です」

憲法43条1項は、国会議員を「全国民を代表する」存在と定めている。これは、自身の選挙区や支持団体の代表であるだけでなく、思想信条の異なる人々を含む、すべての国民のために働く責務を負うことを意味する。

三葛弁護士:「重要法案の審議や憲法審査会の前など、議員の事務所に大量のFAXが届くことは決して珍しいことではありません。法案に対する賛否を問わず、それらはすべて国民の声です。

『全国民の代表』であるという自覚があれば、たとえ自分と異なる意見であっても、まずは受け止めるのが当然の姿勢です。

民主主義の本質は議論と対話にあり、反対意見にも目配りしなければ、重大な欠陥のある法律が作られる危険性、あるいは、より優れた法律が作られる可能性を封じる危険性があります。

むしろ、受け取ったFAXの束を掲げ、『これだけ多くの国民の声が私の事務所に届いています』と、議論を喚起する材料として活用することもできるはずです」

投稿が「萎縮効果」もたらすリスク

三葛弁護士は、国民から届いたFAXを床にばらまき、その写真をSNSで公開し批判するような行為は、言葉以上に雄弁なメッセージを発し、民主主義の根幹を揺るがしかねない「萎縮効果」を生み、市民の正当な政治参加をためらわせる深刻な影響を及ぼす危険性があると警鐘を鳴らす。

三葛弁護士:「FAXを、土足で踏む可能性のある床にまき散らすという行為は、『あなた方の声は、床にまく程度の価値しかない』という強烈なメッセージとも読み取れます。

この投稿を見て、『国会議員に意見を送ることは業務妨害なのだ』『自分たちのやっていることは間違っているのかもしれない』などと感じ、声を上げることをやめてしまう人が出てくるかもしれません。こうした『萎縮効果』こそが、最も恐れるべき事態です。

国会議員は『全国民の代表』である以上、主義主張の異なる国民に対しても、対話のチャネルを閉ざすべきではありません」

「社会契約論」を著した18世紀のフランスの啓蒙思想家ルソーは、代表民主制の問題点について、「有権者は議員を選挙する間だけは自由だが、議員が選ばれてしまうと奴隷となる」と皮肉を込めて喝破(かっぱ)している。本来、国民は主権者であり、議員は「支配層」ではなく、あくまでも「全国民の代表者」であり「公僕」である。

今回の件は、国民が切実に政治的意思を表明し、国会議員がそれに真摯に向き合うというプロセスが代表民主制の原点であり、一般国民も国会議員もそこに立ち返る必要があるということを象徴的に示しているといえよう。

岡野議員へ質問送付も、回答なし

なお、弁護士JPニュース編集部では、岡野議員に対し、SNS投稿の真意とその背景となる事情を確認すべく、以下の質問をメールで送付した。

【質問】

1. FAXを床にばら撒いて撮影した画像を投稿した意図は、どのようなものでしょうか。

2. FAXを送信した人々には、貴事務所の紙やインクトナーを枯渇させ、通常業務を妨げる目的があったとの認識でしょうか。その場合、それを示す客観的根拠としてどのようなものがありますでしょうか。

3. 今日では、一般企業でも官公庁でも、紙やトナーのコスト削減の手段としてデータFAXの利用が広く行われるようになっており、ナフサ不足や印刷用紙の値上げも報じられていますが、今回、プリントアウトされているのはどのような理由によるものでしょうか。

4. 国民が「全国民の代表」である国会議員に自身の意見を届ける方法や、議員と一般国民の対話の方法として、FAXを送ること以外にどのようなものを想定されていますでしょうか。また、そのような手段があるとして、FAXを送ることと比べどのような点が異なるとお考えでしょうか。

しかし、23日午前9時現在、回答は得られていない。

配信元: 弁護士JP

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