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女性向けラグジュアリーブランドのジェンダー格差 デザイナー33人中、女性は10人だけ

女性向けラグジュアリーブランドのジェンダー格差 デザイナー33人中、女性は10人だけ

女性デザイナーはどこにいるのか?

ラグジュアリーファッションブランドには何かが欠けている。それは見落としとは言えないほど明白だ。

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5年前、ニューヨークで最も話題を集める独立系ファッションブランドのひとつ、コリーナ・ストラーダの創設者ヒラリー・テイムアは、新たな職の面接を受けていた。ヨーロッパの女性向けのラグジュアリーブランドでクリエイティブ・ディレクターのポストが空いたのだ。もし彼女が採用されれば、アメリカの顧客に向けた熱心な服作りから、世界中の何百万もの女性に向けたデザインへと飛躍できるはずだった。8か月間、人事担当者や会社の経営陣との面接を重ねた後、サバンナ芸術工科大学出身の彼女は内定を確信していた。彼女は引っ越しの準備を始め、マンハッタンの賃貸契約を引き継ぐ相手を手配し、老舗ファッションブランドの新たなリーダーとしての初日の服装まで計画していた。

ところがその後、ブランド側から残念な連絡が入った。男性デザイナーが代わりに選ばれたのだ。彼女は胸が張り裂ける思いだったが、驚きはしなかった。これまでにも彼女は、他に7つの女性向けのラグジュアリーブランドのクリエイティブ・ディレクター職の選考に進んでいた。そのうち1つを除き、すべてのポストは男性デザイナーに決まった。例外となった1件も、(女性の実力で選ばれたのではなく)単に会社の方針によるものにすぎなかったと彼女は言う。「女性が女性をドレスアップする機会が与えられていない現状は、本当に嘆かわしい」と、今年6月、Zoomでの通話で彼女は諦めの表情で語った。

彼女の経験は、ファッション業界のヒエラルキーのトップにある、より広範な問題を浮き彫りにしている。ランウェイコレクションをデザインし、やがてファストファッションにも波及するトレンドを創出する人たち、つまりラグジュアリーブランドのウィメンズウェアのクリエイティブ・ディレクター職は、今なお圧倒的に男性が占めている。ラグジュアリーファッションが「女性が着たいもの」を基盤とする産業であるにもかかわらず、実際女性が何を着たいかについて、女性に発言権が与えられることはめったにない。

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ここ数年、大手ラグジュアリーブランドはファッション評論家たちがいうところの「クリエイティブ・ディレクターの椅子取りゲーム」を繰り広げている。アレッサンドロ・ミケーレはグッチを去り、現在はヴァレンティノにいる。ヴァレンティノにいたピエールパオロ・ピッチョーリは、今年7月にバレンシアガでのキャリアをスタートさせ、この10月にファーストコレクションを発表した。そしてアレッサンドロ・ミケーレの後任としてサバト・デ・サルノが2年間指揮をとった後、バレンシアガにいたデムナ・ヴァザリアがグッチのクリエイティブ・ディレクターに就任した。

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確かに、この人事の騒動は面白いものだったが、ジェンダーの多様性という観点では非常に残念だ。ディオールのマリア・グラツィア・キウリとシャネルのヴィルジニー・ヴィアールという、2人の伝説的な女性クリエイティブディレクターが退き、ジョナサン・アンダーソン(ディオール)とマチュー・ブレイジー(シャネル)が後任となった。

※2025年10月14日(現地時間)、フェンディはマリア・グラツィア・キウリがチーフ・クリエイティブ・オフィサーに就任したと発表した。

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最近では、レイチェル・スコットがプロエンザ・スクーラーのトップに就任し、メリル・ロッゲがマルニのクリエイティブ・ディレクターに任命されるなど、数人の女性デザイナーが昇進しているものの、それでもなお、その格差は際立っている。現在、ウィメンズのファッションブランド33社のクリエイティブ・ディレクターのうち、女性は10人だけであり、そのうち有色人種の女性はわずか2人だ(元記事公開時点)。統計的に言えば、2025年においても、トップダウンでラグジュアリーファッションを形作る女性は、ガブリエル・ボヌール“ココ”シャネルの全盛期だった1910年代と同じくらい稀(まれ)なのである。

もちろん、女性に向けてデザインをするのに、女性であることは仕事の必須条件ではない。歴史上、そして現在においても、無数の才能ある男性アーティストたちが、驚異的で、フィット感に優れ、完成度が高いウィメンズウェアを製作している。しかし、ランウェイの舞台裏に女性がほとんどいないことは、より深刻な問題を示唆している。

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候補者たちは確かな資格を持っているのだ。グレース・ウェールズ・ボナー(英ブランド、ウェールズ・ボナー)、マーティン・ローズ(英メンズウェアブランド)、シモーネ・ロシャ(英ファッションブランド)、その他多くの女性デザイナーは、CFD/Vogueファッション・ファンドや LVMHプライズから6桁(10万ドル以上であることを指す)の助成金や賞を頻繁に獲得しており、どちらも履歴書には最高の箔(はく)付けとなる。

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これらの女性たちは、非常に収益性が高く、大ヒット商品を生み出す立役者でもある。グレース・ウェールズ・ボナーが手がけたアディダスのスニーカー「サンバ」は、発売されるたびに完売を続けている。先述のヒラリー・テイムアがファッションブランドで面接を受けると、経営陣は彼女のブランドが 2009年の立ち上げ以来、前年比で売り上げが倍増していることを絶賛する。

しかし、同じ障壁が繰り返し現れる。企業の組織の中で働く女性は称賛されることはしばしばあっても、昇進することは稀だ。マッキンゼーの2024年版「Women in the Workplace(職場における女性に関する年次調査)」報告書によれば、業績にかかわらず女性のキャリアアップの可能性は著しく低く、この「出世階段に壊れた段があること」が女性のキャリアの停滞を招いていることが明らかになった。

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グッチ・グループ(現ケリング)の元グローバルコミュニケーション担当エグゼクティブ・バイスプレジデント、Mimma Viglezio(ミンマ・ヴィグレツィオ)氏は、ラグジュアリーファッション業界の経営陣に根付く男性中心文化が、女性に有利な決定を下すことを困難にしていると語る。「取締役会で『女性を望まない』とか『女性では不十分だ』と言う者はいない。だが男性幹部は、ブランドのトップに女性が立つことをリスクと見なす」と彼女は説明する。何年も前、高級ジュエリーブランドのCEOが彼女にこう言い放った。「若い女性を雇うことの問題点? 妊娠して1年休むのに、給料は払い続けなくてはならないんだ」

不気味なことに、ヴィグレツィオ氏が2000年代初頭に経験したことは、今日のヒラリー・テイムアの経験と重なる。「クリエイティブ・ディレクター職に応募するのですら、面接で『こんにちは、私は女性です。転勤してもかまいませんし、子どもを持つ予定もありません」と言わなければなりません。そろそろ子宮摘出手術のレントゲン写真を見せる必要があるかなと思うくらいです」と彼女は語る。

企業が女性を管理職に登用することを拒むのは不合理だ。そうすることで自社の収益を損なっているからだ。統計主導のeコマースプラットフォーム「UniformMarket」によれば、世界の女性向けアパレル市場は2027年に1兆ドルに達すると予測されている。一方、男性向け市場は6391億2000万ドルにとどまる見込みだ。

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また近年の動向が示すように、総消費者購買力の8割を占める女性たちは、自らの価値観が反映されたブランドに購買意欲を向ける傾向にある。マリア・グラツィア・キウリが率いたディオールでは、彫刻のような砂時計シルエットのスカートスーツであれ、「私たちは皆フェミニストであるべきだ」と書かれたスローガンTシャツであれ、女性のエンパワーメントが指針となり、HSBCの推計によれば、ブランドの売上高は2018年の27億ユーロから2023年には90億ユーロ以上に急増した。

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一方、シェミナ・カマリがセンシュアルで飾り気のない淡いピンクのシフォンとレースで作られたデザインで、2024年秋冬のデビューコレクションを発表して以来、ラグジュアリーアイテムのソーシングサービスを手がける豪起業家ガブ・ウォーラー氏は、7年間のキャリアで初めてクロエから依頼を受けるようになったという。

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女性クリエイティブ・ディレクターが独自の際立った影響力のあるスタイルを持っていると、究極の消費者像となり、ブランドのアンバサダーとなるのを私たちは見てきた。2024年に10億ドルの評価額に達したザ・ロウを例にとろう。機能的で奇抜フットウェア、楽なマキシドレスや使い込んだ大きなトートバッグといった、モダンでボヘミアンなベーシックアイテムを販売している。

そのクリエイターとは? ほぼ女性だけのチームの指揮を執る完璧な装いの姉妹2人だ。「そのブランドを買うということは、メアリー=ケイトとアシュリー・オルセン姉妹が持つ、あの気取らないクールなスタイルをほんの少しでも手に入れられるかもしれないという考えを買うようなことです」と、ファッション・カルチャージャーナリストでファッションサイト『NEWSFASH』創設者のMosha Lundström Halbert(モーシャ・ルンドストローム・ハルバート)氏は語る。

先述のガブ・ウォーラー氏はデザイナーのフィービー・ファイロが手がけたものは、どんなものでも顧客から聖なるものと見なされると付け加えている。意外性のあるエレガンスをまるで呼吸するかのようにエフォートレスに見せる女性だ。「彼女のセリーヌ時代(フィービー・ファイロは2008年から2017年までクリエイティブディレクターを務めた)の特定のスタイルを求める声は今も絶えず、彼女の靴は私たちのベストセラーとなり、最もリクエストの多いカテゴリーです」と彼女は言う。「現在、アメリカ、中東、イギリスから、ファイロ自身のブランドのバーガンディ色のサンダルへの注文が殺到しています。これほど世界的な人気を誇るアイテムはめったに見かけません」

これは偶然ではない。女性デザイナーは文字通り、顧客がたどる足跡を理解している。パンツの小さすぎるポケットにiPhoneを押し込んだり、ブラをつけられない背中が開いたブラウスを着用するのに苦労したりするフラストレーションに共感する。12時間外出しているような日には、重ね着の余地があるオーバーサイズのジャケットが天の恵みだと知っている。「女性デザイナーがよく用いるデザイン上の工夫は、『あなたを見ていますよ。それにあなたの生活や身体のことも理解しています』とちょっとウィンクするようなものです」とハルバート氏は付け加える。「それらは単なるおまけではなく、優れたデザインの本質的な要素なのです」

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だからこそ、一部の気鋭の女性デザイナーたちは、業界の門番たちが場所を空けてくれるのを待つ代わりに、自ら領域を切り開き、大きな利益をあげてきた。フィービー・ファイロがセリーヌを去ってから6年後、彼女の名を冠した直販のコレクションは頻繁に完売し、高級デパートへの進出に至った。

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数十億ドル規模のガーリーな美的スタイルは、シモーヌ・ロシャとサンディ・リアン(ニューヨーク拠点のファッションブランド)の独立系ランウェイに根ざしている。両者ともポップアップストアと熱心なファンによるサブスタック(ブログ感覚でメルマガを配信できる米発プラットフォーム)での紹介から始まったのだ。

今日のイットバッグの殿堂には、大手コングロマリットに属さないザ・ロウの作品が、ルイ・ヴィトンやグッチと同じくらい含まれている。これらはすべて、企業によるラグジュアリーのサポートは業界内での正当性を高めるものではあるが、成功のための要件定義ではないことを証明している。

それでも、その支援があれば理想的だ。取材当時、ヒラリー・テイムアはまた別の女性向けラグジュアリーブランドのクリエイティブ・ディレクター職の候補に挙がっていた。1か月後、彼女はその役職を得られなかったと聞かされたが、同僚の女性デザイナーが採用されたという。またしても残念な結果だったが、少なくとも今回は希望の光が見えた。

本記事は米版『マリ・クレール』2025年「Changemaker」特集号に掲載された。

※編集部注

translation & adaptation: Akiko Eguchi

サステナブルファッションの旗手、ガブリエラ・ハースト。自然と女性たちへの想いが創作の源
ジョナサン・アンダーソンがディオールのクリエイティブ・ディレクターに就任

配信元: marie claire

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