「高山病が心配」「虐待では」生後4か月の乳児と“標高2000m級”登山、夫婦に批判殺到…問われ得る「法的責任」とは?

「高山病が心配」「虐待では」生後4か月の乳児と“標高2000m級”登山、夫婦に批判殺到…問われ得る「法的責任」とは?

生後約4か月の乳児を標高2000メートル級の山頂まで連れて行った夫婦の様子がSNSに投稿され、「高山病が心配」「転倒したら一大事」「虐待ではないか」などと多くの批判を呼びました。

子育てや登山のリスクに対する考え方はさまざまですが、乳児を標高の高い山に連れて行くことに危険が伴うことは否定できません。

その行為自体、あるいは万が一乳児が健康を損なうこととなった場合の結果について、親はどこまで法的責任を負うのでしょうか? 法的視点から解説します。(弁護士・阿部由羅)

乳児を高い山に連れて行った場合、刑事責任を負うのか?

乳児を同伴して高い山に登ったとしても、乳児の健康状態に影響がなければ、保護者が刑事責任を問われることはないと考えられます。

一般的に、子どもに対する虐待などについては「保護責任者遺棄罪(刑法218条)」の成否が問題になり得ます。

保護責任者遺棄罪は、子ども(幼年者)などを保護する責任のある者が、保護すべき者を遺棄し、またはその生存に必要な保護をしなかった場合に成立する犯罪です。典型的には、子どもを屋外に置き去りにしたり、食事を与えないなど適切な世話をしなかったりした場合に成立します。

この点、たしかに乳児を高い山へ連れて行くことにはリスクを伴います。

しかし、乳児を伴って高い山に登ろうとする親は、乳児が健康を害さないように一定の配慮をするのが通常でしょう。その方法が適切であるか否かはともかく、上記の典型的なケースのように、保護責任者遺棄罪の責任を問うことは難しいと思われます。

他方で、高い山に登ったことで乳児が健康を害した場合には「過失傷害罪(刑法209条)」、死亡した場合には「過失致死罪(刑法210条)」の責任を負う可能性があります。

過失傷害罪や過失致死罪は、注意を怠ったことによって他人にけがをさせ、または他人を死亡させた場合に成立する犯罪です。

乳児を高い山に連れて行く場合、保護者は乳児が健康を害しないように必要な注意を払う義務を負っていると考えられます。かかる注意を怠ったことにより、乳児が健康を害した場合は過失傷害罪、死亡した場合は過失致死罪が成立する余地があります。

過失傷害罪の法定刑は「30万円以下の罰金または科料」、過失致死罪の法定刑は「50万円以下の罰金」です。

また、乳児を死傷させたことについて重大な過失が認められる場合は「重過失致死傷罪(刑法211条後段)」が成立します。重過失致死傷罪の法定刑は「5年以下の拘禁刑または100万円以下の罰金」です。

なお、過失傷害罪は親告罪とされており、告訴がなければ起訴されません。

乳児本人が告訴をすることは現実的でないため、法定代理人や乳児の親族、利害関係人の申立てにより検察官に指定された者が告訴をすることになります(刑事訴訟法231条1項、232条、234条)。

「後遺症」が残ったら…将来、親に対して損害賠償を請求できる?

親に高い山へ連れて行かれたことが原因で、乳児が健康を害したり、将来まで続く後遺症が残ったりした場合には、乳児は親に対して不法行為に基づく損害賠償を請求することができます(民法709条)。

たとえ「家族の思い出を作りたい」「素晴らしい経験を積ませたい」などのポジティブな動機があったとしても、親の責任を否定または軽減する要因にはなりません。

未成年者(18歳未満)の段階では、本人に代わって法定代理人(親)が損害賠償請求権を行使するのが原則です。

しかし、親が親自身に対して損害賠償請求を行うことは期待できないため、家庭裁判所によって選任された特別代理人が親に対する損害賠償請求を行います(民法826条1項)。

ここで注意すべきなのが、不法行為に基づく損害賠償請求権の消滅時効です。原則として次のいずれかの期間が経過すると、損害賠償請求が認められなくなります(民法724条、724条の2)。

①被害者または法定代理人が損害および加害者を知った時から3年
②不法行為の時から20年

「法定代理人」は原則として親ですが、前述のとおり、親に対する損害賠償請求権は特別代理人が行使します。

また、時効期間の満了前6か月以内の間に法定代理人がないときは、18歳に達した時または法定代理人が就職した時から6か月が経過するまでの間は、時効が完成しないとする規定もあります(民法158条1項)。

これらの事情を踏まえると、高い山へ連れて行かれたことにより健康を害した乳児は、かなり時間が経って成長してからでも、親に対して損害賠償を請求する余地はあると考えられます。しかし、実際にいつまで損害賠償を請求できるのかについては取扱いが確立しておらず、事案ごとに検討する必要があるでしょう。

なお、高い山へ連れて行かれても特に健康を害されなかった場合は、親に対して損害賠償を請求することは難しいと思われます。

「第三者の通報」は有効か

親が子どもに対して危険な行為をしているのを見つけたら、児童相談所への通報が子どもを守ることにつながる場合があります。

たとえば最近では、ホールケーキを顔に押し付けられて嫌がる幼児の動画がSNSに投稿され、通報を受けた福岡県内の児童相談所が幼児を一時保護した事案が報道されました。

児童虐待を受けたと思われる児童を発見した者には、市町村・福祉事務所・児童相談所などへの通告(通報)が義務付けられています(児童虐待防止法6条)。

明らかな虐待だけでなく、危ないと感じられる親の行為を見つけたら、児童相談所虐待対応ダイヤル(189)へ通報してください。

「本当に子どものためになる」子育てを

親の視点では、子どもに多様な経験をさせたい、家族の思い出を作りたいなどと考える気持ちは分かりますが、その大前提となるのが子どもの健康や安全です。

特に近年ではSNSなどを通じて、子育ての過程における親の危険な行為が拡散され、大きな問題になってしまうケースが散見されます。

親としては、子どもに対する影響や社会の受け取り方などを慎重に検討しつつ、「本当に子どものためになる」子育てに取り組むことが求められます。

■阿部由羅(あべ ゆら)
ゆら総合法律事務所代表弁護士。西村あさひ法律事務所・外資系金融機関法務部を経て現職。企業法務・ベンチャー支援・不動産・金融法務・相続などを得意とする。その他、一般民事から企業法務まで幅広く取り扱う。各種webメディアにおける法律関連記事の執筆にも注力している。

配信元: 弁護士JP

あなたにおすすめ