「物価高騰が続くなか、使用者側の直前キャンセルによって半日分、1日分の収入がなくなるのは、スキマバイトワーカーにとって死活問題だ」—スキマバイトアプリ「タイミー」で保育士として働いてきたAさん(30代・男性)は、28日午後、都内で開かれた会見でそう語った。
勤務予定の3日前に「人員が充足した」と休業を告げられ、半日分の賃金が消えた。
勤務先の社会福祉法人は「24時間前までのキャンセルに支払い義務はない」として応じなかったが、Aさんからの申告を受けた労働基準監督署が法人に対し是正指導を行ったところ、休業手当3740円が支払われた。
Aさんは会見で「スキマバイトで得た収入を、そのままその日支払う光熱費に充てたこともある」と語り、「使用者の都合による仕事の直前キャンセルは重大な問題であり、プラットフォーム側には対策を取ってほしい」と訴えた。
「人員が充足」法人側が仕事を3日前にキャンセル
問題となったのは、社会福祉法人カナの会(首都圏や静岡、仙台で保育所や介護・福祉関連の事業所を展開)が運営する保育所での勤務だ。
Aさんは2026年2月27日の9時15分から13時15分までの勤務を予定していたが、3日前の2月24日にカナの会がタイミーを通じてAさんに休業になったと連絡。休業の理由について、カナの会は「お任せする仕事がなくなってしまった」「人員が充足した」と説明していた。
Aさんは3月30日、賃金全額にあたる5900円をFAXで請求。しかし、カナの会は翌31日「就労開始時間の24時間前までのキャンセルについては、法人側に休業手当等の支払い義務は発生しない」とするタイミーの利用規約と運用基準に基づき、支払いに応じない意向を示した。
この対応を受け「事業主都合の休業なのに休業手当が支払われなかった。労働基準法違反ではないかと思った」と、Aさんは振り返る。
労働基準法26条では「使用者の責に帰すべき事由による休業の場合においては、使用者は、休業期間中当該労働者に、その平均賃金の100の60以上の手当を支払わなければならない」と定めている。
Aさんは、カナの会が説明した「人員が充足した」という理由が、この「使用者の責」にあたるとした。
結果、Aさんからの申告を受けた労基署が5月25日、カナの会に対し是正指導を行い、同会は6月23日、Aさんが受け取る予定であった賃金の6割にあたる3740円を振り込んだ。
この日の会見にはAさんが所属する介護・保育ユニオンの佐藤学氏と、若者の労働問題を取り扱うNPO法人「POSSE」の田所真理子ジェイ氏も出席。
田所氏は、「スキマバイトで働いている人たちのなかには、Aさんと同じように、事業者に休業手当を請求しても『休業ではなく解約だ』などと言われる人も少なくない」としたうえで、次のように述べた。
「労基署への申告から1、2か月で振込までたどり着くことができた。(労力や時間のかかる)訴訟という形でなくても、労基署を活用することで、正しい手当を請求できると世に広がれば、これまで声を上げられずにいたスキマバイトで働く人たちにも、声を上げる起点になるのではないか」(田所氏)
「指導を受けたことを真摯に受け止め…」
なお、カナの会は弁護士JPニュース編集部の取材に対し「2月中旬頃、タイミーを通じて募集を出し、2月21日にA様とマッチングとなりました。予定就労日時は2月27日の9時15分から13時15分でした。こちらの都合でキャンセルすることとなり、タイミーの担当者にキャンセル希望であることを伝え、指導のもと、2月24日(予定就労日の3日前)にネットでキャンセルしました」とキャンセルを認め、次のようにコメントした。
「3月30日にA様から賃金請求書(予定給与と交通費の合計額)がFAXで送信されてきたので、タイミーの担当者に連絡したところ、キャンセルの相談を受けた際と同様に、タイミーの取扱いとしては就労開始24時間前であれば休業手当等を支払う必要なくキャンセル可能という説明を受けましたので、その旨をA様にご連絡しました。
その後、渋谷労働基準監督署から来署依頼の通知が届き、4月21日に渋谷労働基準監督署を訪問させていただき、経緯の説明をさせていただきました。
渋谷労働基準監督署から電話で、改めて来署するよう連絡があり、5月25日にお伺いしたところ、A様に休業補償(予定給与の60%相当額と交通費)の支払いをするよう指導を受けましたので、A様に送金手続によってお支払いさせていただいたという経緯です。
今回、指導を受けたことを真摯に受け止め、今後はスポットワーカー利用時の労務管理取扱いについて十分留意し、適切な運用に努めて参ります」
同じ直前キャンセル、3社で分かれた対応
Aさんが勤務の直前キャンセルに遭い、賃金を請求したのは上述したカナの会を含む3法人。だが結末は三者三様だった。
3月12日の勤務を予定していたX社では、「募集に誤りがあった」として、3日前にキャンセルがあった。
Aさんが3月30日に賃金全額の9740円を請求すると、X社は4月7日、キャンセルが「専ら使用者である弊社の責めに帰すべき事由によるものであった」と非を認め、「やむを得ず契約を解約せざるを得なかったこと、そしてこれにより多大なご迷惑とご心労をおかけしましたことに対し、心よりお詫び申し上げます」と謝罪。全額をタイミーのアプリを通じて振り込んだ。
一方、対照的なのがY社だ。2025年7月に発生した勤務2日前のキャンセルをめぐり、Aさんは今年3月30日に賃金全額の5152円を請求したが、Y社からの回答は現在まで届いていない。
田所氏は「タイミーなどのスキマバイトプラットフォームは、Aさんのような労働者と直接の使用関係になく、仕事の紹介をするだけだが、その責任は重大だ」と指摘。「Y社のケースについては、タイミーに対して、休業分の賃金支払いを請求している」と明かした。
「200億円から300億円の不払いが発生」
会見の終盤、介護・保育ユニオンの佐藤氏は「今回のAさんの事件は氷山の一角に過ぎず、スキマバイトの直前キャンセルは膨大な数発生している」と指摘。以下のように続けた。
「今年4月、労働者9人がタイミーを相手取り、直前キャンセルによる未払い賃金支払いを求めた訴訟が提起されました。この訴訟の代理人である牧野裕貴弁護士は、スキマバイト業界全体で、直前キャンセルによって総額200億円から300億円の不払いが発生していると試算しています。
国や、スキマバイトのプラットフォーム各社による一般社団法人スポットワーク協会のガイドラインでは使用者に対して休業手当を支払うよう定めていますが、ガイドラインには法的拘束力がないため、十分な規制につながっていません。
そういう意味では、今回のAさんの件が社会全体に広がり(直前キャンセル)問題を変える契機になればと思っています」(佐藤氏)
なお、介護・保育ユニオンとPOSSEは、スキマバイトで働く人を対象に、7月31日と8月2日の2日間、無料の電話相談(フリーダイヤル、0120-333-774)を実施する予定だ。

