いつまでも輝く女性に ranune
部下との“秘密の関係”発覚で食品大手CEO解任 社内恋愛「禁止・報告義務」就業規則は“私生活への過度な干渉”にあたる?

部下との“秘密の関係”発覚で食品大手CEO解任 社内恋愛「禁止・報告義務」就業規則は“私生活への過度な干渉”にあたる?

8月、スイスの巨大食品企業ネスレが、ローラン・フレイシェCEOを「直属部下との未申告の恋愛関係」を理由に解任した。

ローラン氏は2024年9月、ネスレのCEOに就任。わずか1年での退任となったが、同社のポール・ブルケ会長は声明で「これは必要な決断だった。ネスレの価値観とガバナンスは当社の強固な基盤だ」とコメントしている。

就業規則で社内恋愛を規制するケースは日本企業にも存在する。

一方、明治安田生命保険相互会社が昨年11月に発表した調査結果によると、「夫婦の出会いのきっかけ」として最も多かったのは「職場の同僚・先輩・後輩」で、全体の29.1%を占めていた。

また、「結婚相手紹介サービス」を提供する株式会社オーネットが実施した調査では、新社会人の約3割が「職場での異性(恋人)との出会いに期待している」という。

では、社内恋愛に対する企業の“制限”は法的に、どこまで認められるのだろうか。

「就業規則で社内恋愛を一律禁止」は認められる?

まず結論から言えば、社内恋愛そのものを、一律に禁止する就業規則は、“私生活への過度な干渉”と評価され無効となる可能性が高いという。

労働問題や企業法務に詳しい栁瀨大貴弁護士は次のように解説する。

「恋愛感情は個人の自由に属する事項であり、これを特に、職務上の支障がないにもかかわらず、一律に禁止する就業規則は、民法90条の公序良俗違反に該当し、無効となるおそれがあります。

また、労働契約法3条3項は、労使が対等な立場で、仕事と生活の調和に配慮して雇用契約を締結すべきと定めており、この趣旨からも、労働者の私生活に対する不当な干渉は権利侵害として許されないと考えられます」

恋愛発覚で“懲戒処分”妥当なケースとは?

上述した理由から、「社内恋愛をしている」という事実だけをもって企業が社員を「懲戒処分」とするのも、違法と判断される公算が高い。

しかし、過去の裁判例では社内恋愛の当事者の解雇を認めたものもある。

「会社に具体的な損失を与えた場合や、不倫などの理由で、職場秩序への影響が生じた場合には、懲戒処分が認められる余地はあります。

社内不倫を理由とした解雇を有効とした裁判例として、東京高等裁判所昭和41年(1966年)7月30日判決が挙げられる一方、解雇を無効とした裁判例には、旭川地方裁判所平成元年(1989年)12月27日判決が挙げられます。

両者の違いは、会社の業務に具体的な悪影響があったかどうかであり、前者の裁判例も、社内恋愛そのものを理由として解雇を認めたのではなく、社内恋愛によって『著しく風紀・秩序を乱して会社の体面を汚し、損害を与えた』ことが解雇事由に該当すると判断されたため、解雇有効との結論にいたりました」(栁瀨弁護士)

「会社への報告義務」も高リスク

また、ネスレのローラン氏のケースでは社内恋愛について報告を怠ったために、CEOを解任されることとなったが、日本企業の場合、こうした報告義務の設定は法的に可能なのだろうか。

栁瀨弁護士は「社員に対して社内恋愛の報告義務を就業規則で定めたり、これを強制したりすることは、プライバシー権の侵害や過度な私生活干渉として違法となるリスクが高いと考えられます」と解説する。

ただし、職場の秩序維持、評価の公正確保など「正当な理由」が認められる場合には、社員に対して任意での報告を求めることは「一定の範囲で認められるケースもある」(栁瀨弁護士)という。

上司と部下の恋愛「えこひいき」防ぐには?

とはいえ、上司と部下が恋愛関係を持ったとなれば、評価・人事異動等での「えこひいき」が疑われるリスクや、恋愛関係の解消後・破綻後にセクハラ・パワハラが起きる可能性などのリスクも生じる。

「こうしたおそれに対し、企業が一定の対応を取ることは、必要かつ合理的な措置として認められる余地があります。

典型的な対応としては、当事者のいずれか一方を異動させる措置が挙げられます。これは、恋愛関係の有無にかかわらず、人事評価・昇進・配置においての公平性を担保するために重要です。

もっとも、異動により本人に著しい不利益をもたらす場合には、労働契約法3条2項や、同条5項に抵触するおそれがあります。

具体的には、減給を伴う、仕事内容が大きく変更される、昇進の機会に影響を及ぼす、または通勤時間が著しく長くなるような異動については、労働者に対する不利益が大きく、違法と判断される可能性があります」(栁瀨弁護士)

なお、冒頭で紹介したオーネットの調査結果によると、社内恋愛のデメリットとして最も多かった回答は「別れた時に気まずくなる」というものだった。

たとえ処分等の可能性がなかったとしても、交際中も、そして関係が終わってしまった場合も、社会人として適切に振る舞う必要があるのは言うまでもないだろう。

配信元: 弁護士JP

あなたにおすすめ