いつまでも輝く女性に ranune
毎晩帰宅は深夜。土日も接待。がむしゃらに働き続け、はや43年…〈退職金3,000万円〉〈年金320万円〉メガバンクを去った65歳銀行員、55歳専業主婦妻からの「戦慄の退職祝い」【FPが解説】

毎晩帰宅は深夜。土日も接待。がむしゃらに働き続け、はや43年…〈退職金3,000万円〉〈年金320万円〉メガバンクを去った65歳銀行員、55歳専業主婦妻からの「戦慄の退職祝い」【FPが解説】

同期との出世競争に勝ち抜き、数千億円の融資を動かしてきたメガバンカー人生。完璧な財務状況で迎えたはずのセカンドライフ。しかし、見落としていた最大の“不良債権”は、一つ屋根の下にあったようです。Aさんの事例から紐解いていきましょう。社会保険労務士法人エニシアFP代表の三藤桂子氏が解説します。

働くことがステータスだった現役時代

Aさんは大学を卒業後、メガバンクに就職。バブル景気も手伝い、がむしゃらに仕事に打ち込みました。仕事が終わると上司や同僚、顧客との付き合いで毎晩のように飲み歩き、帰宅は日付が変わるころという毎日。バブルが弾けたあとも、顧客獲得のために奔走する日々が続きました。

恋愛する暇もなく、気付けば39歳に。「家庭を持って一人前」という上司や取引先の社長の声もあり、40歳でお見合い結婚。妻は10歳年下で大人しい性格なこともあってか、平日に連日飲んで帰宅しても文句一ついいませんでした。さらに土日は接待ゴルフ。家にいる時間は少なく、たまの休日は日ごろの疲れから、家でゴロゴロして一日が終わる、という有様でした。

役職定年後の働き方を決めた理由

そんなAさんも50歳を過ぎ、役職定年が近づいてきます。関連会社に出向、もしくは転職か、銀行に残るか、考えなくてはなりません。Aさんは給与が下がっても定年退職の60歳までいまの銀行で働こうと決めていました。不器用なAさんにとって、いまさら新しい環境に飛び込むのは苦痛に思えたのです。出向や転職のほうが条件はよくても、慣れ親しんだ場所で勤め上げることを選びました。

Aさんが60歳の定年を迎えるころ、高年齢者雇用安定法により、希望すれば65歳まで継続雇用されるのが一般的になっていました。付き合いのゴルフか飲み会以外に趣味のないAさん。専業主婦の妻のためにも収入を途絶えさせるわけにはいかないと、65歳の年金受給開始まで働き続けることにします。

Aさんの60歳時点の退職金は3,000万円。年金は企業年金を含めて年額約280万円の見込みです。65歳になれば、年下の妻がいることで「加給年金」が約40万円上乗せされ、年金額は約320万円(月額約27万円)になる計算だったのです。貯蓄も6,000万円あり、老後の備えは十分なはずでした。

退職祝いの恐怖のプレゼント

Aさんは65歳で完全に仕事を辞め、これからは妻とゆっくり過ごそうと考えていました。「いままでなにもしてやれなかったから、まずは旅行にでも誘ってみようか……」そんなことを考えながら、最後の仕事を終えて帰宅します。

玄関を開けると、妻が花束を片手に出迎えてくれました。驚くAさん。――しかし、そこで妻の口から出たのは、思いもよらない言葉でした。

「長年お疲れ様でした。これからの人生は、どうか自由に過ごしてください。私はもう、空気のように扱われるのは耐えられません。残りの人生は、自分のために生きたいです」

花束と一緒に渡された紙を見ると、それは「離婚届」でした。

妻は律義にも、Aさんの退職の日まで待って宣告したのでした。これまで不満をいうこともなかった妻からの突然の申し出に、Aさんは離婚するつもりはないと反論。しかし妻の意思は固く、応じなければ調停を申し立てるといいます。

要求されたのは、年金分割と財産の半分。「浮気をしたわけでもなく、ただ家族のためにがむしゃらに働いてきただけなのに……なぜ?」Aさんは納得できず、妻に問いただしました。

妻の言い分はこうでした。結婚当初から夫の愛情を感じられず、家庭を顧みられることはなかった。休みの日も一緒に過ごすことはなく、常に無関心。妻の誕生日も結婚記念日も覚えていない夫に、心が壊れてしまった、と。

「20年以上」の夫婦が別れる、熟年離婚の現実

Aさんのようなケースは、決して珍しいことではありません。定年退職を機に、離婚を切り出されるケースとして、内閣府の男女共同参画白書 令和4年版より夫婦関係が破綻した理由として「性格の不一致」が男女とも最も多く、女性では「精神的な暴力(モラハラ)」が続きます。Aさんの「無関心」も、これに当てはまるといえるでしょう。

また、厚生労働省の「令和4年度 離婚に関する統計の概況」では、同居期間が「20年以上」の夫婦の離婚率は上昇傾向にあり、2020年には全体の21.5%に達しています。長く連れ添った夫婦が別れを選ぶ「熟年離婚」は、いまや社会的な現象なのです。

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