この1年、東京の焼き鳥を食べ歩く大人たちでこの店について語らなかった者はいないだろう。
いまや予約殺到店として君臨する『酉囃子』。店主の圧倒的な熱量と精緻ともいえるこだわりに迫る。
ミシュランガイドの東京版に初めて焼き鳥店が掲載されたのは2010年のこと。
それからの焼き鳥業界の進化は目覚ましいものがあり、海外でもSUSHIやSUKIYAKIに並ぶ共通語として広く知られるようになった。
焼き鳥の激戦区、麻布十番に店を構える『酉囃子』の店主・林 裕太さんが神楽坂からの移転を決めたのは、海外で勝負する未来を見据えてのこと。
猛者ぞろいのエリアでも「焼き鳥にこんな伸びしろがあったとは」と食通を驚嘆させている。
串打ちした焼き鳥は基本的に炭で焼く。日本のいろいろな地域の炭を使いたいと、紀州や小豆島、徳島など数種を使う
日本の炭焼き文化には先人の知恵が詰まっている。
焼き鳥店では炭の組み方にも職人の技量が問われるが、林さんはさらに緻密な火入れを目指すべく、産地やサイズ感が異なるさまざまな炭を用いる。
食材によって薪や藁も臨機応変に。スモーキーな香りを求めクロモジをも用いる
薪や藁も駆使するのは、食材と向き合うことと熱源を深く知ることは同義であるという考えがあればこそだ。
そして「世界中のいろいろな場所で焼きたい」という願いが叶ったとき、どんな環境でも火をコントロールし、自身が理想とする焼きを実現できるように。鍛錬の日々がやがて大きな糧になる。
◆
炭をメインに薪や藁を使い分け、仕入れる鶏の種類は固定しないのが自身に課したテーマ。
いまでこそ名職人のひとりとして注目を集めるが、スタートは大阪の『鳥貴族』のアルバイトだったという意外な経歴も。しかし、当時から火力の強弱で肉を焼き分けていたというから大器の可能性を秘めていたのだろう。
鶏に合わせた串打ちや火入れで、新たな発見があるという
焼き鳥店の生命線である、鶏。
どんな鶏を使うかは店や焼き手の“個性”の見せどころのひとつと言えるが、林さんの「あえて鶏にこだわらない」という言葉にはまったく別の意図がある。
コースの定番として供される「手羽先」は開いて骨を取り出してから細かく刻んだ青柚子を肉に包み、串に打つ。緻密な仕込みに感服させられる
タイプが異なる鶏に触れることで例えば、肉質が硬い個体も塊で焼くことで弾力が生きるなど多くの発見があるという。
銘柄に固執はしないが、生産者へのリスペクトは人一倍強い。その想いが、肉の個性を最大限に引き出したひと串から溢れる。
「花ズッキーニ」。つくねをズッキーニの花部分に詰める、驚きの仕込み
和食の中でも焼き鳥は季節感を出すのが難しい。
“鶏”に軸足をきちんと置きながら、旬を感じさせるコースは日々の探求心から生まれるもので、そうした食材を取り入れる卓越したセンスが食べ手の心をぐいぐいと引きこむ。
「蕪」。オリーブオイルを表面に塗り、表面を保湿しながら薪焼きに。葉はパリッと焼き上げて香ばしさを引き出す。料理はすべて¥13,000のコースの一例
ただ、シンプルに旬味を盛り込むのではなく、サプライズ感溢れる一品も。創意工夫の結晶とも言えるコースが、この店の価値をいっそう高めている。
◆
焼き鳥でジャパニーズ・ドリームを叶える日もそう遠くはない。
▶このほか:焼き鳥の人気店主に学ぶ「若手を育てるリーダー論」!鳥しき・阿部・YAOYA


