「うるさい」「邪魔」アドトラックの知られざる苦労…接触事故なら“一発で”クビに? 現役ドライバーが語る実態とは

「うるさい」「邪魔」アドトラックの知られざる苦労…接触事故なら“一発で”クビに? 現役ドライバーが語る実態とは

人が多く集まる大きな駅の周辺などを歩いていると、側面に眩しい広告を掲げたトラックが中毒性のある音楽を流して走っている姿をよく見る。アドトラックだ。

突然現れてはどこへともなく去っていく、その大きな走る看板に「何事か」と目を奪われたことがある人も少なくないはずだ。

一方、その運転の難しさや、運転しているドライバーがどんな1日を過ごしているかなどは、あまり知られていない。

「うるさい」「邪魔」といった批判もあるアドトラック。その裏側では、ドライバーたちはどんな苦労を抱え、どのような規制やルールの下でハンドルを握っているのだろうか。 

ドライバーの経験がある2名に、現場の実態を聞いた。(本文:橋本愛喜)

運転の難しさ

アドトラックに使われる車両の種類は様々だが、一般的かつ最も大きなサイズなのが、4トン車の「スーパーロング」だ。

サイズは、全長12m、車幅2.4m、車高3.68mと、中型トラックの条件ギリギリであり、大型トラックとほぼ変わらない。

非常に大きい4トン車であることから、別名「お化け4トン」「バケヨン」とも呼ばれている。アドトラックを運転する人たちから聞かれるのは、このバケヨンを街中で運転する難しさだ。

アドトラックでのアルバイト経験のあるAさんはこう話す。

「本業の運送業では、夜間、人がいないところを走るのに対し、(アドトラックの場合は)昼間、大都市の駅前にあえて向かい、人が行き交う交差点を曲がるのは怖かったです。

走行時は時速30キロ以下推奨ですね。混雑している場所を走るので、必然的にそのくらいのスピードにはなってしまうんですが」

なかでも神経を使うのが、「オーバーハング」だ。

トラックは後輪より後ろにも車体が長く伸びているため、右左折時には車体後部が外側へ振り出される「オーバーハング」(通称「ケツ振り」)が生じやすい。この際、隣車線の車に接触するおそれがある。

「なかでもとりわけバケヨンは後ろが長いので、ケツ振りが起きやすいんです。実際、事故報告のほとんどが右左折時の隣の車への接触。いかんせん、掲げているのは『広告』なので、他車両にぶつけると一発でクビになるところもあるとか」(Aさん)

また、アドトラックは「荷物を積むため」のトラックではないため、基本が空荷。面積が広いわりに軽いのだが、これも運転を難しくさせる要因になっている。

普段は東京都内を走っている現役のアドトラックドライバーのBさんは、こう話す。

「広告面には、テントにも使われる『FFシート』(※)という生地を使用しているため、横風の影響をもろに受けます。停車中でも、乗用車が横を通過したときの風圧で車体が大きく揺れるほどです」

※正式名称は「フレキシブルフェイスシート」で、布のような柔軟性のある素材

さらにAさんも、風の恐怖をこう語る。

「やはり『強風』が一番の天敵でしたね。軽くてデカイせいでクルマごと吹っ飛びそうになるので、自分は高速道路は走れなかったです」

そんな布製のアドトラックを運転する際は、側道に点在する「あるもの」に非常に神経を使うという。

「街路樹です。枝などに引っ掛けると破れるんです。文字通り、看板を背負って走っている手前、そんなことがあると大惨事。路上駐車するときもあまり路肩に寄せすぎるなと怒られます」(Aさん)

一方、「LEDビジョン」と呼ばれる荷台が液晶画面になっているタイプのアドトラックは、また別の懸念があるようだ。

「布製のとは違い、逆に非常に重いんです。液晶画面だけでなく発電機をも積んでいるため、重量がかさみ過積載にならないか心配するほど重かったですね」(Aさん)

逐一報告する運行状況

そんなアドトラックを運転しているトラックドライバーたちの働き方は、どんなものなのだろうか。

モノを運ぶ運送業のトラックドライバーは、緑ナンバー(※)。原則、ドライバーは会社の社員だが、片や、アドトラックは運賃が発生しないため、車両は白ナンバー。ドライバーも業務委託が多いとBさんはいう。

※国土交通省から営業を許可された運送会社のトラックは、緑地のナンバープレートを付けている

「アドトラックのドライバーを正社員として採用している会社は、あまり多くないのではないかと思います」

同じく、Aさんもこう話す。

「私も3年ほど月2〜3回ペースでアルバイトとして走っていました。日給はだいたい1万3000円~1万5000円ほどで、顧客(広告主)、運行する時間などによって前後しているようでした」

ドライバーの運転については、どのように管理されているのだろうか。Aさんが自身の現場について語ってくれた。

「点呼時のアルコールチェックなどはありますが、対面ではなくリモート。タコグラフ(※)も付いていません。ただ、ドラレコとGPSは付いているようで、ある程度リアルタイムでどこにいるかは把握されているらしく、不自然な停車が長いと怒られます」

※車両の速度、走行距離、運転時間などを記録する装置

運行状況は、すべてグループLINEで報告していたそうだ。

「『◯◯号出発します』、『トイレ行きます』、『現地到着』、『音源流します』など、とにかく逐一自分の行動を報告していましたね」(Aさん)

「長くても他のトラックより楽」アドトラックの1日

東京でアドトラックを走らせるAさんの1日の運行スケジュールはこうだ。

「掲げている看板によって、出発時間と走行ルートが決まっています。一番早いと、例えば、渋谷12時スタート。東京の隣県にヤード(拠点)があり、そこから東京に向かいます。

隣県から渋谷までは一般道で行っていたので、だいたい3時間くらい。なので遅くても9時、早い人だと8時にはヤードを出発する感じです」

途中の休憩は、会社から回数や時間が指示されていたという。

「それ以外にトイレへ行く時などにも、報告を上げていれば問題になることはありません。1時間に1回10分程度の停車があるくらいは許容されていました」(Aさん)

しかし、都内には大きなトラックを停めて休憩する場所が非常に少ない。

「なので、休憩場所があると、そこがアドトラックだらけになることも。迷惑だよなぁと思いつつ、カーテンを閉めてシートを倒して休憩していましたが、落ち着かなかったですね。

当然、長くクルマから離れられず、トイレに行く数分以外は、基本車内で過ごしていました」(Aさん)

宣伝走行終了時間は、早い便で20時、遅くても21時。それまでひたすら走り続けたという。

その後、起点のヤードに到着するのが、だいたい23時だ。

「なので実質9時〜23時の仕事。正直長かったですね」(Aさん)

それでも一般的な運送業の業務よりは楽だと、AさんもBさんも声を揃える。

「通常の貨物トラックのような荷物の積み下ろしもありませんから。そのため、身体的な負担は比較的少ない仕事だと思います」(Bさん)

規制が厳しいアドトラック

アドトラックは、高いビルに掲げられている広告よりも視認性に優れているため、昨今はその需要を徐々に伸ばしている。

しかし、道路は歩行者や他車両が縦横無尽に行き交う場所だ。不用意にドライバーや歩行者などの気を引きすぎると、大きな事故につながりかねないため、様々な規制が設けられている。

なかでもやはり、視覚に対する規制が多い。

公序良俗に反していないかは、各行政からチェックされるポイントになる。

消費者が不安を覚えないこと、不快に感じるデザインでないこと、犯罪を誘発するような内容でないことが求められるのだ。

また、交通の妨げになるデザインなどにも規制がある。

例えば、渦巻き・チェック柄・水玉などは、距離感や平衡感覚を惑わすデザインとして禁止されている。

「『LEDビジョン』タイプのアドトラック(前出)は、運転者の注意力を著しく低下させるおそれがあるとのことから、東京都では2024年6月から走行が禁止されています。このタイプは他のタイプと比べてだいぶ単価が低かったらしく、運営側はかなり痛手なようです」(Aさん)

もう1つ細かく規制されているのが「音」だ。

アドトラックは、出発地、または都内に入る場所から、宣伝箇所までのルートがわかるよう、走行エリアを管轄する警察署署長に申請し、「道路通行許可証」の発行を受ける必要があるが、その届け出た経路から外れて走行する場合は、音源を流してはならない。

「音出しは、現場についてコース内に入ってからにしないといけません。時間指定がある場合も、その時間からしか鳴らせません。音量も細かく決められていて、大きいと周囲からクレーム、小さすぎるとクライアントからクレームがきたりします」(Aさん)

「都内だと19時まで、その他地域では20時までに音は停めます。条例によって19時以降は音源を流せなくなるためです。その後は、指定時間までは無音でコースを周回していました」(Bさん)

その他、コース内であっても、学校や病院周辺、踏切、その他指定された場所は消音。さらに、緊急車両が接近してきた際は音を消すという。

Bさんは、こうした条例による規制により、運行のあり方にも変化がみられると語る。

「条例による届け出を行い、音量も規制値以内、時間も守っている、“健全”なアドトラックがどんどん増えています」

一方、Aさんによると、宣伝される広告の内容にも変化がみられるという。 

「今はまだ夜職関係が多いですが、最近では、スマホゲームなどのIT企業やコスメが増えつつあります。あと、スポットでボクシングやサッカーの試合の宣伝なんかもありましたね」

世間からの風当たり

歩行者たちからの視線は、走る街によって変わるという。

Aさんはそれぞれの街での視線の違いをこう話す。

「見てもらってナンボの仕事ですが、よく行くところでは『飽きられてる感』がすごいです。新宿や渋谷は、『走っていて意味あるのか?』ってくらいスルーされる。電飾が付いていても、夜の繁華街は明るいので、正直通行人は見向きもしません。

秋葉原では邪魔扱いでしたね。一方、地方都市だと、『何だコイツ』みたいな視線を向けられることが多かったです」

一方、アドトラックにノリノリな歩行者たちもいるとBさんは話す。

「外国人観光客たちです。渋谷では彼らの反応がよく、BGMに合わせて踊る人もいます。高校生くらいの学生さんなど若い人にも評判はいいです」

それでも、混雑している街中を派手な音と装飾で走るアドトラックに対し、一部には不快に感じる人がいるのも事実だ。

中にはこんな対策をしている人も――。

「ドライバーによってはかなり気にしているようで、マスクにサングラス、帽子で運行している人も多かったです」(Aさん)

現場では嫌がらせも起きているという。

「自分は、なるべく迷惑にならないような運転をしていたので、大きなトラブルはなかったですが、なかにはドライバーに直接クレームを言ってくる人や、トラックの前に立ちふさがって動けなくする人もいるようです」(Aさん)

スマホが普及し、手元ばかりを見るようになった現代人にとって、高いビルに掲げられた看板よりも、目の前を走る広告のほうが目にはつくはずだ。

一方、その街の景観を損ねたり、わき見による事故などの要因になったりしてしまっては、広告は逆効果にさえなりかねない。

アドトラックのデザイン性はもちろん、街中の人たちへの配慮や、ドライバーが安全運転できる労働環境の構築についても考える必要がある――。現場の声から、そう痛感した。 

■橋本愛喜(はしもと・あいき)

現ライター。元工場経営者・トラックドライバー。大型自動車免許取得後、トラックで200社以上のモノづくりの現場へ足を運ぶ。現在はブルーカラーの人権・労働に関する問題や、文化差異・差別・ジェンダーなどの社会問題などを軸に各媒体へ執筆・出演中。

配信元: 弁護士JP

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