バーミンガム・ニューストリート駅で列車を見守る運転士(2020年12月)|Matthew Troke / Shutterstock.com
イギリスで、鉄道運転士の労働組合がトイレ環境の改善を求め、ストライキを検討している。勤務中に利用できる適切な設備と、トイレに行くための時間が不足しているという。組合は、人間の尊厳や健康、安全にかかわる問題だとして、業界に早急な対応を求めている。
◆トイレにたどり着けず…… ボトルに排尿も
イギリスの鉄道運転士の労働組合ASLEFは2024年11月、報告書『運転士に尊厳を(Dignity for Drivers)』を発表した。報告書によると、多くの運転士がトイレにたどり着けず、ボトルに排尿したり、運転室内で排便したりするなど、その場しのぎの手段に頼らざるを得ない状況にあるという。
ASLEF会員3134人を対象にした調査では、81.82%が、トイレに行かずに済むよう、意図的に水分摂取を控えていると回答した。こうした行動は脱水を招き、尿路感染症などのリスクを高める可能性がある。
また、ASLEFは、女性運転士が特に影響を受けており、女性運転士の採用を増やそうとする鉄道業界の取り組みの妨げにもなっていると訴えている。
◆約束は守られないのか? 組合が猛反発
ガーディアン紙によると、鉄道・道路局(ORR)のリチャード・ハインズ鉄道最高監察官は2025年7月、旅客・貨物の鉄道各社に書簡を送り、清潔で安全な福利厚生施設と、それを利用するための時間を確保するよう改善を促した。ハインズ氏は、「信頼できる福利厚生施設は、あらゆる文明社会における基本的な要件だ」とし、適切な設備や利用時間がない状況は容認できないと指摘した。
また、鉄道安全標準化委員会(RSSB)は2025年9月、清潔で利用しやすく、尊厳を保てるトイレの整備などを掲げた福利厚生施設憲章を公表した。ガーディアン紙によると、憲章では、トイレに行く機会がないまま運転席に座り続ける時間を最大4時間とすることも求めている。
しかし、ORRの書簡から約1年たったものの、基本的なニーズは依然として満たされていないとASLEFは批判する。ORRも2026年7月の年次安全衛生報告で、当初は強い関与が見られたものの、「進捗は不均一で、業界の勢いは鈍化している」と指摘した。
ASLEFのデイブ・カルフ書記長は、空約束ではなく具体的な行動が必要だと強調。運転士の健康を業界の不作為の代償にするつもりはないと述べた。組合は業界に対し、改善がなければ「結果が伴う」と警告しており、ストライキも検討している。(インデペンデント紙)
◆トイレ不足は欧州でも 夏の熱波も懸念
欧州運輸労働者連盟(ETF)は、イギリスの状況は、多くの雇用主が依然として基本的な人間のニーズを「任意のもの」として扱っている実態を浮き彫りにするものだと指摘する。欧州全域のバス、トラム、地下鉄、鉄道の労働者も、同様の問題に直面しているという。
今夏の欧州を襲う極端な熱波によって、状況はさらに危険になっている。高温は、意図的に水分を控える運転士の脱水リスクを高め、注意力にも悪影響を及ぼす。
ラフバラー大学の運転シミュレーター研究では、軽度の脱水状態で運転ミスが増え、その増加幅は過去の研究で飲酒時にみられたものと同程度だった。運転士の脱水は、利用者の安全にも影響を及ぼしかねない。
トイレの利用は特権ではなく基本的な権利であり、雇用主が保障し、規制当局が徹底させなければならない。ETFは、欧州各国の当局、交通事業者、規制機関に対し、労働組合と協力して解決に取り組むよう求めている。
