ふるさと納税の返礼品である「さくらんぼ」。楽しみにしていたが、引っ越し前の住所に配送されてしまい、現在の住人が受け取ってしまった——。そんなトラブルがSNS上で話題になった。
本来の受取人である被害者の投稿によると、現住人は不在票を使って自ら再配達を依頼し、クール便で届いたさくらんぼを受け取ったという。その後、配送業者が回収に向かうと「名前も確認せずに箱を開けた。箱も廃棄し、中身は既に食べてしまっている」と主張したとされる。
しかし、自分のものではないと知りながら、あるいは途中で気づきながら、他人宛ての荷物を消費してしまった場合、法的な責任を「問われ得る」と弁護士は指摘する。
最初から「他人宛」と知っていたら…
民事・刑事事件に多く対応する三木悠希裕弁護士はまず、荷物を受け取った側が、どの段階で“自分のものではない”と気づいたかによって、問われる罪が変わる可能性があると解説する。
最も悪質なのは、最初から他人宛の荷物だとわかっていながら、意図的に自分のものにしたケースだ。
「不在票で他人のものと確認しながら、インターネットやアプリなどを通じて再配達を手配し、事情を知らない配送業者に配送させて受け取り、自身のものとして消費する行為は、窃盗罪(10年以下の拘禁刑または50万円以下の罰金)に該当する可能性があります。
一方で、再配達の手配に配達員やオペレーターなど人が関わり、欺く行為により『この人が受取人だ』と信じさせて荷物を受け取ったのであれば、人をだまして荷物を交付させたことになり、 詐欺罪(10年以下の拘禁刑)が問題となる可能性もあろうかと思います」
また、受け取りの状況によっても、詐欺罪が成立するケースがあるという。
「手渡しでの受け取りの際に、配送業者から宛名等の間違いがないか確認され、違うことを認識しながら、自身がその宛名の人物であると偽って受け取った場合は、やはり人を欺く行為(欺罔(ぎもう))があったとして、詐欺罪が成立する可能性があります」(三木弁護士)
通常、不在票には本来の受取人の名前が記載されている。現住人がその不在票を使用して再配達を依頼していたとすれば、故意があったと判断される可能性は否定できない。
しかし、自分宛てに荷物が届くはずのタイミングなどであれば、不在票をよく確認せずに再配達を依頼することもあり得るだろう。
途中で気づいたけれど受け取った場合は?
再配達を依頼した時点では自分宛の荷物だと思い込んでいて、受け取った後に他人宛だと気づいた場合はどうなるのか。
「再配達依頼をした段階では他人宛のものだと気づいていなくても、配達されたあとに気づき、自分のものとして食べるなど処分してしまうと、刑法上、遺失物横領罪に該当してしまうケースがあります。
なお、このことは、荷物の中身が日持ちのしない生ものだったとしても変わりません」(三木弁護士)
遺失物横領罪は、持ち主の手元を離れた落とし物などを自分のものにした場合に適用される罪で、法定刑は1年以下の拘禁刑または10万円以下の罰金もしくは科料と定められている。
これらに対し、最後まで他人宛の荷物だと気づかずに食べてしまった場合には「犯罪の故意がない」とされ、刑法上の責任が発生することはないという。
そんな場面はかなり限定的だろうが、たとえば、偶然同じさくらんぼをふるさと納税で頼んでいた場合や、贈答品が日頃から多く届く家などであれば、他人宛てであることに気付かないこともあるのかもしれない。
配送業者や本来の受取人は損害賠償を請求できるか
今回のトラブルは、配送業者の対応により、本来の受取人に「さくらんぼ」が再度手配され解決に至ったようだ。しかし、納得できない本来の受取人は、誤って食べてしまった現住人に対し、損害賠償金の支払いを求めることはできるのか。
三木弁護士は「配送業者の対応により、さくらんぼの現物が再度手配され、本来の受取人の損害が回復した場合には、本来の受取人には、通常、請求すべき損害はありませんから、損害賠償を求めることはできません」としつつ、「再手配を行った配送業者は、誤って食べてしまった現住人に損害賠償を請求できる可能性があります」と続ける。
「ただし、損害賠償請求ができるかどうかは刑事責任と同様で、現住人が『誤配達であることに気づいていたか』が問題になります。
他人宛ての荷物であると気づいていたのに処理していた場合には、配送業者は損害賠償金の支払いを求めることが出来る一方、最後まで他人宛ての荷物と気づかずに過失なく消費していた場合には、不法行為に当たらず、損害賠償を求めることもできません」
「住所変更を伝えなかった」受取人の落ち度は影響する?
今回の投稿者は、引っ越しの際に「発送元に住所変更を伝えなかった」点について、自らの非にも言及している。しかし、三木弁護士は、そのような事情は法的責任の追及において考慮される余地がないとする。
「他人への荷物を受け取った人が、他人の物と知りながら敢えて消費・処分している場合、これは故意行為です。本来さくらんぼを受け取るはずだった人の事情は、基本的には犯罪行為や故意の不法行為に影響しないと考えられます」
身に覚えのない荷物が届いた場合、たとえそれが“好物”であったとしても、安易に開封・消費せず、まずは配送業者に連絡することが、思わぬ法的トラブルを避けるための賢明な対応と言えそうだ。

