ジャーナリストの石戸諭氏は、被災地の外にいる人々がまず心を落ち着け、普段どおりの日常を送ることも重要な支援になるとみる。そのうえで、政府には熊本への投資を止めず、復興と産業強化を両立させる「危機管理投資」によって、被災地を支える本気度を示すべきだと訴える。(以下、石戸氏の寄稿)。

◆被災地の外にいる人がまず守るべきこと
「上に注意して」──7月28日に発生した熊本地震の一報を聞いたのは、在阪テレビ局のスタジオだった。震源地から700㎞も離れた大阪でも、天井に備えつけられた照明器具がゆっくりと揺れるのを目の当たりにして、被害の拡大を直感した。その後の経過は報じられたとおりだ。イオンモール熊本ではLPガスが原因と見られるガス爆発が発生した。巨大な噴煙とともにコンクリート片をまき散らす様子を捉えたドライブレコーダーの映像は衝撃的だった。日本製紙八代工場では煙突が崩落し、従業員ら11人が閉じ込められた。各地で停電が続き、病院にも特に深刻な影響を及ぼした。
8月4日時点で死者は38人、8000人超が避難生活を強いられているが、被害の全容が判明するには時間がかかる。
’16年に発生した熊本地震からたった10年で、また大きな地震がやってくる。直接、被害に遭われた住民が不安な日々を送っていることは想像に難くない。では、被害に遭っていない人々には何ができるのか。災害取材の経験から導ける最大の教訓は「心を落ち着けて、日常生活を送ること」に尽きる。
◆復興で問われる政権の本気度
物資を送る、ボランティアに行くといった直接的な行動は現地のニーズが明らかになり、受け入れ態勢が整ってからで遅くない。10年前の被災地取材では、善意の救援物資が逆に現場の負担になるケースを数多く見た。災害報道から目が離せないという人も多いだろうが、心に負担をかけてまで追いかける必要もない。自分のペースを崩さず、当たり前の日常を送ることは経済活動を動かすのと同義である。震災が起きた地域を支えていくためにも必要なことなのだ。
災害救助、復興という局面では政府の力も試される。高市政権にとって、熊本の被災と復興は今後の経済政策の根幹にも関わってくる課題だ。政府が一歩前に出て、国内投資を促すことで産業を強化するというのが政権の一つの目標でもある。その意味では「台湾積体電路製造」(TSMC)の工場誘致を機に半導体関連企業の集積地になった熊本は一つのモデルだった。災害は日本のどこで起きてもおかしくない。災害があっても熊本への投資の動きを止めず、加速させることは大きなメッセージになるはずだ。
「危機管理投資」は高市首相が好んで使うキーワードである。災害への備え、復興に投じることも「危機管理」である以上、どんな手を打つかで、政権の本気度が見えてくる。

【石戸 諭】
ノンフィクションライター。’84年生まれ。大学卒業後、毎日新聞社に入社。その後、BuzzFeed Japanに移籍し、’18年にフリーに。’20年に編集者が選ぶ雑誌ジャーナリズム賞、’21年にPEPジャーナリズム大賞を受賞。近著に『「嫌われ者」の正体 日本のトリックスター』(新潮新書)

