4~5歳の子どもが親の膝に乗ってハンドルを握っている――。
先週、Xでこうした投稿が広く拡散され、大きな話題となった。投稿者の妻が撮影したという写真には、たしかに小さな子どもが大人の膝に抱えられ、車のハンドルに手を触れているような姿が写っている。投稿によれば、この写真は「東名高速」で撮影したものだという。
コメント欄には、「これやばくないすか」「さすがに危険すぎる…」「あり得ない」など、子どもにハンドルを握らせる行為への批判が数多く寄せられている。こうした行為によって、親にはどのような責任が問われ得るのだろうか。交通事故事案に詳しい鷲塚建弥弁護士に聞いた。
事故が起きなくても「複数の違反」が成立
たとえ実際に事故が起きていなくても、子どもを膝に乗せて運転する行為自体が複数の道路交通法違反に該当する可能性がある。
まず挙げられるのが、「安全運転義務違反」(道路交通法70条)だ。この規定は、運転者に対してハンドルやブレーキを確実に操作し、他人に危害を及ぼさないような速度と方法で運転することを義務付けている。
鷲塚弁護士は、「幼い子どもにハンドルを握らせる行為は、この義務に真正面から反します」と断じる。この違反には「3月以下の拘禁刑または5万円以下の罰金」という罰則があるが、実務上は違反点数2点、反則金9000円(普通車)で処理されることが多いという。
次に、「乗車積載方法違反」(同法55条2項)の可能性もある。これは運転者の視野やハンドル操作を妨げるような状態で運転することを禁じたものだ。違反には5万円以下の罰金が科される(120条2項1号)。
「子どもを膝の上に乗せてハンドルに手を伸ばさせる状態は、まさにハンドル操作を妨げる乗車であり、これに該当し得ます」と鷲塚弁護士は解説する。これは、犬などのペットを膝に乗せて運転する行為が取り締まられるのと同じ考え方に基づいている。
さらに、6歳未満の子どもに義務付けられている「チャイルドシート(幼児用補助装置)使用義務違反」(同法71条の3第3項)も成立する。膝の上に乗せている状態は当然チャイルドシートを使用していないため、行政処分として違反点数1点が付されることになる。
なお、これらの規定は一般道か高速道路かを問わず同様に適用される。
事故発生時の重い法的責任
もしこの行為によって事故が発生し、第三者を死傷させた場合、運転していた親は極めて重い責任を負うことになる。
刑事責任については、「過失運転致死傷罪」(自動車運転死傷行為処罰法5条)に問われ、「7年以下の拘禁刑または100万円以下の罰金」が科される可能性がある。
鷲塚弁護士は、「処罰の対象はあくまで実際に車を運転していた者です。その者が子の親か、親族か、他人かによって、犯罪の成否や量刑が変わるものではありません」と、親族関係の有無が免罪符にはならないことを強調する。
民事上の損害賠償責任も同様だ。運転者は、被害者に対して不法行為に基づく賠償責任(民法709条)や、「運行供用者」としての責任(自動車損害賠償保障法3条)を負う。運行供用者とは、その車の使用を支配し、運行による利益を得ている立場の人を指す。運転者が親以外の親族(叔父・叔母など)であっても、第三者への責任は免れない。
また、運転者が親以外で、親が同乗していたり車を所有していたりする場合、親自身も「運行供用者」として、あるいは危険な行為を容認した「共同不法行為者」として責任を問われる可能性がある。
4~5歳の子ども自身に責任は問われるのか
今回話題となったケースでは、ハンドルを握っていたのは4~5歳の子どもだったとされる。鷲塚弁護士は、「結論から申し上げると、この年代の子ども自身が法的責任を問われることはまずありません」という。
刑事責任については、刑法41条で「14歳未満の者の行為は罰しない」と定められており、4~5歳であれば犯罪は成立しない。民事責任についても、自分の行為の責任を理解する能力(責任能力)がない未成年者は賠償責任を負わないとされており、この能力が備わるのはおおむね12歳前後とされるためだ。
さらに、法的な観点では「そもそも本件で法律上の『運転者』は親であって、子どもではありません」と鷲塚弁護士は指摘する。免許もなく、アクセルやブレーキを操作しているのが親である以上、たとえ子どもがハンドルに手を添えていたとしても、道路交通法上の運転者としての責任も、前述の各罪の主体も、あくまで親に帰属することになる。
仮に子どもの行為で事故が生じたと見る余地があっても、責任無能力者の行為については監督義務者である親が責任を負う建て付けであり(民法714条)、いずれにせよ責任は親に集約されることになるという。
目撃した第三者が取るべき行動
このような危険な運転を目撃した場合、私たちはどう行動すべきか。鷲塚弁護士は、まず「目撃者自身が新たな危険を作らないこと」がもっとも重要だとアドバイスする。
「自分が運転中であれば、追跡したり無理に撮影したりすることは避けてください。ナンバープレート、日時、場所、車種や色、進行方向を記録し、警察に通報するのが適切です。ドライブレコーダーの映像は有力な証拠になります」
通報先については、切迫した危険がある場合は110番、そうでなければ後日、最寄りの警察署へ情報提供を行うのがよいという。
一方で、直接注意をしたり、幅寄せなどの「実力行使」に出たりすることは、トラブルやあおり運転を誘発するため厳禁だ。また、SNSへの投稿についても、「無関係な第三者の顔やナンバーを拡散すれば、プライバシー侵害や名誉毀損のリスクを伴います」と警鐘を鳴らす。
まずは警察という正規のルートを通じて報告することが、安全かつ確実な対処法といえるだろう。

