「夏休みは有給消化でまかなえ」は違法? 労働条件の“不利益変更”等にあたるケースも【弁護士解説】

「夏休みは有給消化でまかなえ」は違法? 労働条件の“不利益変更”等にあたるケースも【弁護士解説】

「夏休みは、7月から9月の間に有休を3日取ることになっています。夏季休暇の制度はありません」

最近、都内のとあるIT系企業に転職したAさんは、採用時に「夏休み」についてこのような説明を受けた。金融系サービス業の上場企業に勤務する元同僚に相談したところ、「うちもそうだよ」との説明を受けた。

上場か非上場かにかかわらず、夏季休暇の制度をおかず、「夏休み」を有給休暇でまかなうしくみをとっている会社は少なからず存在する。また、全ての企業に対し法律上、労働者に有給休暇を年5日取得させることが義務付けられたことに伴い、夏季に有給休暇を取得するよう労働者に指示する会社もある。

このような扱いには、法的観点から問題はないのか。労働法に詳しい松井剛弁護士に聞いた。

夏休みを有休でまかなう制度設計は“適法”だが…

そもそも、夏季休暇の制度を設けないことに、法的な問題はないのか。松井弁護士は、それが妥当か否かは別として、法律上、夏季休暇の付与は使用者側に義務付けられてはいないと説明する。

松井弁護士:「夏季休暇は、所定休日とは別に、夏季という時期に有給または無給の休暇を認めるものであり、制度を設けるか否か、付与条件をどうするかは、各企業が任意に定めることができます。

したがって、夏季休暇を設けないこと自体が直ちに違法となることはありません」

ただし、雇用区分によって差を設けることは違法となる可能性があるという。

松井弁護士:「夏季休暇を正社員(無期契約労働者)に与えるが、非正規雇用の労働者(有期契約労働者)には与えないというような制度設計は、旧労働契約法20条(現行のパートタイム・有期雇用労働法8条等)にいう不合理な待遇差に当たると判断されるリスクがあります。

つまり、『夏季休暇を置かない』という選択自体は各社の自由ですが、『一部の雇用区分にだけ置く』場合には、その趣旨に照らした合理的な説明ができない限り、違法です」

「夏休み」と称して有給休暇を取得させる制度の問題点

夏季休暇を設定せず、従業員に対し、夏季に日数を指定して有給休暇を取得させる場合、合法となるにはどのような条件をみたす必要があるのか。

時期と日数を指定して有休を取得させる場合には、「この期間に3日間、取得することをおすすめします」など推奨する場合と、「この期間に3日間取得してください」など強制する場合とが考えられる。

松井弁護士:「年次有給休暇は、原則として、労働者が請求する通りの時季に与えなければなりません(労働基準法39条5項)。

労働者が始期と終期を特定して時季指定をしたら、使用者は、事業の正常な運営を妨げるときに限り時季変更権を行使できるにとどまります。使用者の側から取得時季を一方的に指定することは認められません。

したがって、『この期間に3日間、取得することをおすすめします』など、推奨にとどまり、実際の時季指定は労働者が自ら行うのであれば、法律の枠内の運用であり、問題は生じません」

これに対し、「この期間に3日間取得してください」など強制することは、法律上の根拠がある場合しか認められないと指摘する。

松井弁護士:「法律の根拠がないのに、特定の時季に有給休暇を取得するよう強制すれば、労働者の時季指定権を侵害することになります。

そこで、法律の根拠となり得るのは、労働基準法の『計画的付与制度』(同法39条6項)です。

労使協定を締結した場合には、年次有給休暇の日数のうち5日を超える部分について、あらかじめ時季を定めて計画的に付与することができます」

要件は以下のとおり。

①就業規則に、計画的付与を実施する旨の条項を設けること
②過半数組合(ない場合は労働者の過半数代表者)との間で、書面による労使協定を締結すること(労使協定の労働基準監督署への届出は不要)
③少なくとも5日は、労働者が個人的な事由で取得できる自由に取得できる分として残すこと

松井弁護士:「たとえば、付与日数が10日の労働者であれば5日まで、20日の労働者であれば15日までが計画的付与の対象となります。

この計画的付与制度を導入した場合、対象となる日については、労働者の時季指定権も、使用者の時季変更権も、排除されます」

「お盆休み」など特定の期間に取得させる場合

では、すべての従業員に対し画一的に、特定の日・期間(世間でいう「お盆休み」)などを指定して取得させる場合はどうか。

松井弁護士:「計画的付与の方式の一つとして、事業場全体の休業による一斉付与があります。これにより、全従業員に対して同一の日に年次有給休暇を付与し、いわゆる『お盆休み』とすることは可能です。

ただし、留意すべき点が2つあります。

第一に、一斉付与方式の場合、労使協定には具体的な年次有給休暇の付与日を明記する必要があります。

第二に、年次有給休暇の日数が足りない労働者への手当てです。

新入社員など、計画的付与の対象となる日数の年休を持っていない労働者や、日数が不足している労働者について、その日を年次有給休暇として取り扱うことはできません。

こうした労働者に対しては、特別の有給休暇を付与する、付与日数を増やすといった措置を講じる必要があり、計画的付与の対象から除外することも検討すべきとされています。

全社一斉という運用は、この層への配慮を欠いたまま実施されやすい点に注意が必要です」

夏季休暇の制度を廃止し、代わりに有給消化させることの問題点

2019年4月から、年10日以上の年次有給休暇が付与される労働者について、年5日は使用者が時季を指定して取得させることが義務付けられている。

有給休暇の取得率が低い会社で、年5日の有給休暇を取得させるため、既存の夏季休暇の制度を廃止し、有給休暇のうち所定の日数を夏季に取得するよう指示すること(たとえば、7月~9月の間に5日間取得せよ、等)にはどのような問題があるか。

松井弁護士は、この点については以下の通り、2つの異なる問題があると指摘する。

  • 年5日取得義務との関係
  • 労働条件の不利益変更

まず、年5日取得義務との関係について。

松井弁護士:「計画的付与制度により取得させた日数は、この『年5日』に充てることができます。したがって、夏季に計画付与制度によって、有給休暇を取得させ、これをもって義務を履行するという方法自体は、とり得ないわけではありません。

もっとも、計画的付与の対象は、その労働者の有給休暇の付与日数のうち『5日を超える部分』に限られます。したがって、有給休暇の付与日数が10日以上ある労働者なら対象とできますが、付与日数が10日に満たない労働者は対象にできません。

したがって、たとえば、『7月から9月の間に5日』といった一律の指示は、勤続年数や雇用区分によっては、制度上、成り立たない層が生じます」

次に、労働条件の不利益変更の問題を指摘する。

松井弁護士:「従来の夏季休暇(法定外休日・休暇)を廃止して年次有給休暇に振り替えることは、労働者にとって休日数が減ることになります。

加えて、年間所定労働時間が増加するので、残業した場合の割増賃金の基礎となる時間単価が低下するという不利益も生じ得ます。

労働条件の不利益変更に該当する可能性があるため、適切な労使協議を行い、就業規則の改定手続きを踏むことが必要です。

なお、このような運用は、実質的には既存の休暇を減らして年5日の取得義務の達成に充てるに過ぎないものであり、取得率の低さという実態の改善につながるものではありません」

有休を夏季休暇に代替させる制度は、このように、法律の厳格な規律をクリアした場合のみ認められる。疑問がある場合には、まず、就業規則や労使協定をチェックし、不明な点は管理部門に確認してみることをおすすめする。

配信元: 弁護士JP

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