大阪府河内長野市で4日に発生した、刃物を持った男性への警察官による発砲事案は男性が死亡するという重大な結果を招いた。ネット上の声はこの対応に対し、おおむね「やむなし」と肯定的だったが、日本の警察における拳銃使用の実情はどうなっているのか。「警察官のこのこ日記」(三五館シンシャ)の著書で警視庁OBの安沼保夫氏に聞いた。
警告と威嚇射撃の末の「一発」
事件は2026年8月4日午後7時ごろ、河内長野市の路上で発生した。
「包丁を持った血だらけの男が暴れている」との通報を受け、5人の警察官が現場に急行。警察官らは「刃物を捨てろ」と再三警告したが、男性(60)は応じず、刃体約16センチの包丁を向けて近づいてきたという。
これに対し、男性巡査部長(32)は空に向けて威嚇射撃を1発行ったが、男性がなおも向かってきたため、2発目を男性の左胸付近に発射。銃弾は体を貫通し、男性は搬送先の病院で出血性ショックにより死亡が確認された。
拳銃使用を縛る「法的側面」の厳格さ
男が血だらけで包丁を手に暴れている緊迫した状況下。発砲は重大な結果を招いたものの、ネット上の反応は拳銃使用に対し、肯定的だった。ただし、日本では、警察官が拳銃を使用することは法律によって厳格に制限されている。
中心となるのは警察官職務執行法 (警職法)7条だ。この規定は、犯人の逮捕や自己・他人の防護などのために、事態に応じ「合理的に必要と判断される限度」で武器を使用できるとしている。
ただし、相手に危害を及ぼす発砲が認められるのは、さらに限定的なケースのみ。
- 正当防衛や緊急避難に該当する場合
- 死刑、無期、または長期3年以上の拘禁刑にあたる凶悪な罪を犯した者が抵抗もしくは逃亡しようとし、他に手段がない場合(警察官がそう信じるに足りる「相当な理由」が必要)
- 逮捕状により逮捕する際または勾引状若しくは勾留状を執行する際、その本人がその者に対する警察官の職務の執行に対して抵抗もしくは逃亡しようとし、他に手段がない場合(同上)
また、「警察官等拳銃使用及び取扱い規範 」により、原則として事前の予告や威嚇射撃が義務付けられている。事態が急迫している場合はこれらを省略することも認められている。
元警察官が語る「現場のリアルと葛藤」
元警視庁警察官の安沼氏は、今回の河内長野市の事案について、自身の経験に基づき以下のような見解を示す。
「警察の内部教育ではかつて『撃つべきときは、撃つ』というフレーズが強調された教養ビデオが使われていました。これは、拳銃使用を躊躇して警察官が殉職したことへの対策でしたが、一方で組織の『本音』としては、今なお『撃たれても撃っちゃイカン』というブレーキが強く働いています」と分析する。
「使えば面倒なもの」という刷り込み
拳銃を使用すれば、たとえ構えただけでも全国ニュースとなり賛否の的となる。そのため、多くの警察官には「使うと面倒なもの」という強い意識が刷り込まれているという。現場の警察官は、この「アクセルとブレーキの狭間」で、咄嗟の判断を迫られているのが実情だ。
安沼氏は訓練を通じて、「撃つぞ」という警告の重要性を強調する。相手が聞こえていなかったとしても、きちんと警告を行っていれば、職務執行の適法性を担保することができるからだ。
今回のケースでは発砲前に巡査部長は男に「刃物を捨てろ」と警告。男が応じなかったため空に向けて威嚇射撃をしたが、それでも刃物を持って署員に向かってきたため発砲に至ったという。
大阪府警は今回の事案について、「発砲の要件を満たしていると判断されるが、詳細は調査中」としている。
安沼氏は、現場で判断を下した警察官に対し「『私はこう判断してやむなく発砲した』と堂々と証言してほしい」と述べ、外野が結果論で責めるべきではないとの姿勢を示す。
なお、警察官の発砲事案については、署長などから訓授という形で告知されるという。内容は安沼氏によれば「おそらく本部が原案を決め、報道内容をなぞっただけの印象」とのことだが、署長によっては自分の見解を述べる人もいるという。

