『孤独のグルメ』原作者で、弁当大好きな久住昌之が「人生最後に食べたい弁当」を追い求めるグルメエッセイ。今回『孤独のファイナル弁当』として取り上げるのは「ハンバーガー屋の日替わり弁当」。果たして、お味はいかに?

◆孤独のファイナル弁当 vol.39「ハンバーガー屋の日替わり弁当」
中央線の武蔵境は、都心から来て吉祥寺、三鷹の次で、ちょいと地味な印象があるが、吉祥寺と同じ武蔵野市で近年急速に再開発が進んでいる街だ。線路沿いの細い道に新しいユニークな飲食店がポツポツとできていて面白い。
この店もそんなわりと新しいハンバーガー店「コックテイル ハンバーガーズ」。
外装からしてアメリカン。入ると内装も写真額が壁一面にかけられ昔のアメリカ。
ハンバーガーもその通り「食べたら最後に指まで舐めてごちそうさま」というアメリカンスタイル。
つまり、でかい、肉ぶ厚い、ソースたっぷり、野菜もりもり。てことは、持ちにくく食べにくいのを意味し、それを楽しんでまでジューシーなハンバーグとパン(ハンバーガー用の丸パンを「バンズ」と言うそうだ。初めて知った)にかぶりつく。思い切り口を開けてもハンバーガーをバンズの断面がきれいに見えるようにかじることは無理。どうしてもそうしたくて、手で圧縮すると、ソースなどがびちょびちょ出てくる。なるほど指が汚れる。
だからボクは邪道だそうだが、フォークとナイフで切って食べた。おいしいんだけど、年配者にはキツイ。ハンバーガーは若者の食べ物だと痛感、敗北感の中でバンズに挟まれた肉の旨みを噛み締めた。
ところで、この店にはちっともアメリカンじゃない「日替わり弁当」というものがあるのだ。
これがおいしかった! このことを書きたかったのだ。ハンバーガーは引き立て役。
おかずはさすが大ぶりチキンハンバーグ。だけど大根おろしとシソがたっぷりのっていて完全に和風。大根おろし、アメリカになさそう。
ごはんには自家製の「ふりかけ」がかかっているが、これは小松菜を炒めて作ったウエットタイプでごはんに合う!というかごはんがうまい! やっぱりボクはとことんジャパニーズだ。シソおろしをのせたハンバーグをごはんと食べるともうたまらない。しかもごはんもおかずも温かい。温かいのをお皿と茶碗でなくて弁当箱で食べる楽しさを久しぶりに味わった。弁当箱に入れる必要ないのにわざわざ弁当にしてるのが「おべんとごっこ」をしてるみたいだ。
この弁当は近所の会社でも毎日大勢が買ってくれていて、店の売り上げに貢献しているというが、わかるよ! こんな弁当があったかいまま届けられたら、誰だって感激だ。日替わりだし。毎日一種類で選べない、というところも潔いじゃないか。
お新香が大根と人参とズッキーニのピクルスなのがご愛嬌。きゅうりの和え物は新鮮で夏野菜らしい瑞々しさ。
し、か、し! この鶏の唐揚げは余計だったな、ボクには。多い。おいしいかもしれないけど、なくていい。邪魔。いや、これは食の細くなった年寄りのヒガミだろう。

―[連載『孤独のファイナル弁当』]―
【久住昌之】
1958年、東京都出身。漫画家・音楽家。代表作に『孤独のグルメ』(作画・谷口ジロー)、『花のズボラ飯』(作画・水沢悦子)など。Xアカウント:@qusumi

