コース制やストップ制など高級化が進むいまだからこそ、気軽に通いやすい原点回帰の“町の焼き鳥”へ。
あまたの店で焼き鳥を食べ込む食賢者6人に、長年足を運んでひいきにする風情ある良店を教えてもらった。
自身を「タベアルキスト」と称し、外食は年間700回を超える。高級割烹から立ち食いそばまで東西南北を食べ歩き、雑誌やWEBなどで情報を発信。
焼き鳥は「店主が各部位をどう焼き、どんな味わいや食感を出したいかの明確な意志が伝わる」店が好き。
焼き鳥好きも日本酒ラバーも受け止める早稲田の名店
店に入ると、焼き鳥が放つ香りに包まれて、思わず喉が鳴る。
最近は、鶏肉の銘柄を売りにする店が多いが、焼き鳥の要は「焼き」にある。
串は1本¥330~。手前から淡海地鶏の「皮」「胸肉」「もも肉」。香りを存分に楽しめる平盃で飲む「本日の地酒」1合¥1,000~
『焼鳥 はちまん』店主の安井章人さんは、上質な炭を使い、火力を支配し、肉の力を引き出す。ここに焼き鳥の神髄がある。だから“はちまん”の焼き鳥は、芯まで熱い。肉汁を沸かすように焼くからだ。
噛めば、肉汁が爆ぜ、香りが鼻に抜けていく。だがこの店を選ぶのは、焼き鳥だけが理由ではない。
お燗番も擁する同店。生酒も積極的にお燗にする。それぞれの酒の最大の旨みが引き出された燗酒が、鶏の滋味を受け止める
日本酒ツウを泣かせる銘酒が、ずらりと用意されているのだ。いずれも米の旨みを醸した酒であり、燗酒で生きる酒が待ち構えている。
しかも1銘柄を頼めば、山廃や製造年違いで数種類から選ばせてくれるではないか。吟醸酒や生酒だろうと最適な燗づけで出してくれるので、つい飲みすぎちゃう。
焼きよし、酒よし、人もよし。通いたくなる店とは、こういう店のことを言う。
この人に聞いた!
1995年から25年間、連続で年間700~800杯ほどラーメンを食し、通算3万杯を超える。著作やテレビ出演も多数。
ラーメン以外にも食への造詣が深く、大の焼き鳥好きでもある。これまで全国349軒、そのうち東京は268軒の焼き鳥店に足を運んできた。
西荻窪の駅から徒歩約30秒。1階のカウンター席の他、2階にはお座敷も。サクッとつまんで次に行く、ハシゴ酒にもうってつけだ
酒場が連なる通りに佇み、西荻窪の心意気が溢れる
西荻窪駅前の飲み屋街に、ひときわディープな店構えを見せている『焼とり よね田』。
かつて、焼き鳥店がサラリーマンのオアシスとして日々の疲れを癒やしてくれた、古き良き昭和の風情を漂わせる。このノスタルジックな佇まいも店の魅力のひとつかもしれない。
「レバー」¥260。ひとり2本まで。鶏は大山鶏を使用し、ネギがたっぷりかかる
予約なしでもふらりと立ち寄れ(とはいえいつも混んでいるが)、1本からオーダーOK。
好きな串を好きなだけ楽しめる気軽さも地元に根差した店だからこそ。しかも1本¥220からのお手頃さ。
名物の「つくね」¥450。なんと1本240gというから、もはやハンバーグ。甘辛いタレ味でたっぷりのネギが嬉しい。写真は、目玉焼きをトッピングでプラス¥130。他にチーズトッピングもあり
中でもお気に入りは名物のジャンボなつくね。他店の2〜3倍はあろうかという巨大さで、生から焼き上げればこそのジューシーさも人気の所以だろう。
焼き上がるまでに時間がかかるゆえ、早めに頼むのが賢明だ。
「牛すじと大根の煮込み(小)」¥550。1時間かけてじっくりと煮込んでおり、味のよく染みた大根が美味
煮込みなどの一品料理をつまみつつ、串が焼けるのを待つのも一興。
アルコールは、ご覧の「ホッピー(白)」(¥500)の他、「レモンサワー」(¥510)、「本気のヒゲ茶ハイ」(¥520)もオススメ
食べて飲んでも五千円札1枚でお釣りがくる。これぞ“町焼き鳥”の醍醐味だ。
■店舗概要
店名:焼とり よね田
住所:杉並区西荻南3-11-10
TEL:03-3334-2094
営業時間:17:00~LO22:30(土16:00~LO22:30、日16:00~LO21:30)
定休日:年始
席数:カウンター15席、テーブル8席
この人に聞いた!
m-floやDOUBLE、SOUL’d OUTなど90~00年代を席巻したアーティストを世に送り出し、現在は「日本音楽制作者連盟」の副理事長も務める。
食にも精通し、2014年から6回行われた「焼鳥達人の会」では会長を務め、焼き鳥史に残るイベントとして成功を収める。
長く地元民に愛されているファン多数の鶏料理専門店
新旧さまざまな飲食店がひしめく恵比寿で、『軍鶏丸』は35年もの間、鶏好きの胃袋と心を満たしてきた。
「つくね鍋と焼き物のコース」ひとり¥5,300(2名~)では、手羽、ぼんじり、ねぎま、レバーやささみの梅じそ焼きなどがいただける。1本¥400で串の追加も可能
創業時から通い続ける常連をはじめ、店を訪れる際のお目当ては、唯一無二の味わいともいえる「つくね鍋」と焼き鳥だ。
子どもの頃はタレの串が好物だったが、ここで塩の焼き鳥に目覚めた。
名物の「つくね鍋」。まずクリアな旨みが凝縮したスープを。鍋でつくねを堪能したあと、スープ茶漬けか半田の手延べうどんで〆る
長く店に通っているなじみ客でも知らないことはあるもので、多くの人の胃の腑を温めてきた「つくね鍋」は、人気時代劇にインスパイアされたという話もそのひとつだ。
店主の佐野勝彦さんからの「床屋さんのテレビで鬼平犯科帳が流れていて。作中に五鉄という軍鶏鍋屋が出てくるのを見て、これだとひらめいた」という話に、達人の歩みに歴史ありとしみじみ。
それにしても令和の時代に、コースが5千円台とは頭が下がる。鍋も焼き鳥も一朝一夕では成し得ない深い味わいこそ、この店の魅力なのだ。
■店舗概要
店名:軍鶏丸
住所:渋谷区恵比寿南2-3-11 杉浦ビル 1F
TEL:03-3760-3903
営業時間:17:30~LO20:00
定休日:日曜、月曜、祝日
席数:カウンター4席、テーブル15席
この人に聞いた!
食ひと筋40年を超えるキャリアを持つフードライター。足を運ぶ店のジャンルはさまざまだが、あまたの焼き鳥店を巡ってきた焼き鳥フリークでもある。
専門誌から女性誌まで幅広く活躍し、緻密な取材と豊富な経験に基づく、間違いのない店選びに定評がある。
名店仕込みの串を楽しめる住宅街の地下に潜む隠れ家
焼きたての串にかじり付く豪快さと、口中に滴り落ちる肉汁。そんな勢いのある焼き鳥が好きだ。さらに1本が大ぶりで、自分の好みで食べられるなら申し分ない。
そんなこちらの身勝手を叶えてくれる一軒がここ。奥沢にある『焼鳥 うの』である。
今年で51歳を迎える店主の宇野さん
アラカルトでもおまかせでも何でもござれの太っ腹なご主人は、宇野誠一さん。
あの中目黒『焼鳥 鳥よし』の流れをくむ名店『鳥焼 笹や』で研鑽を積んだ実力派だ。
手前の「ひざ軟骨」は、しっかりめに火を入れており、筋肉質な食感が魅力。中央は、近火の強火で皮目をパリッとムラなく焼き上げた「抱き身」。奥の「つくね」。挽肉に粗めに刻んだすねの肉を加えている
鶏は誰もが食べやすい伊達鶏を使用。22種余りが並ぶ部位のラインナップも圧巻だ。
その中で必ず頼むのは「つくね」。なぜなら、各店々の個性が最も表れる串だからだ。「ひざ軟骨」もマストな一本。独特の噛み応えとわずかにゼラチン質を感じさせるジューシーさがたまらない。
「そぼろ丼」¥990。そぼろはつくねと同じ挽肉を使用していて、優しい甘辛めの味。鶏がらをベースに煮干しと昆布を加えたスープも美味な「中華そば」(¥990)も〆に人気
1本50〜60gという量感に加え、一律¥440の明朗会計が良心的で嬉しい。近所にあってほしいと思う一軒だ。
この人に聞いた!
渋谷の出身。学生時代から東京の街とレストランを見続けている。主に食に関する取材を重ね、書籍や雑誌、オンライン媒体などで執筆。
『東京最高のレストラン』(ぴあ)では20年来採点者として活躍するほか、レシピ本も出版。J.S.A.認定ワインエキスパート。
約20種類の串が並ぶ。正肉は日により3~4種
ノスタルジックな空気から創業94年の貫禄を感じる
のんべい横丁という昭和が香る小道を歩き、暖簾の向こうに、これから座るぎゅっと密なカウンターを見る。
ガラスのショーケースに串が並び、ご主人の背中の向こうから煙が立ち上っている。ああ、たまらなくいい。これぞ町を代表する焼き鳥店だ。
この店を初めて訪れたのは30年ほど前。渋谷ローカルであるわが家の、父のとっておきの店として連れられたのが最初である。
ご主人はふたり。村山直人さん(奥)、潤さん(手前)兄弟。「生産者あっての自分たち。鶏を丸ごと味わってほしい」と関わる方へのリスペクトを胸に鶏を扱う
当時ここは知る人ぞ知る取材拒否店で、地元民の隠し球だった。
その頃の2代目店主の息子たちが、兄弟仲良く3代目として暖簾を引き継ぎ、変わらぬ味を守っている。
串は、屋台のように風による煙の流れを見ながら火を通す。熊野地鶏は曜日で雄雌が異なり、味わいも違う。この日は雄。1本¥500~
いわゆる正肉の串は、1本にモモとムネが交互に刺さる珍しい仕立て。ムッチリとした噛みごたえと歯切れの良さが混在している。
常時3〜4種類の銘柄があり、食べ比べると、かくも味が違うものかと感心させられる。渋谷の焼き鳥は、この店なくして語れない。
■店舗概要
店名:渋谷 鳥福
住所:渋谷区渋谷1-25-10 のんべい横丁
TEL:03-3499-4978
営業時間:16:00~LO20:30(土16:00~LO17:00/18:00~LO19:30)
※土曜のみ要予約の二部制
定休日:日曜、祝日、第3土曜
席数:カウンター13席
この人に聞いた!
肉を糧に生きる肉食系ライター。“ヒ鶏ップ”をライフワークのひとつとしており、日本各地の焼き鳥店で串を堪能しながら地元の日本酒や焼酎を飲むのが至福の時。
自腹焼き鳥の初体験は二子玉川にあった屋台にて。好きな部位はモモ、せせり。ささみはよく焼き派。
ねじりはち巻き姿が板についている。店主の高瀬さん。焼きに集中しながら、たまに常連と交わす会話の端々にユーモアがにじむ
丁寧な手仕事を目にすべく、行徳に足を延ばしたくなる
店のInstagramのプロフィール欄には「全14席のちっぽけなしがない焼鳥屋さんです」とあるが、『炭火焼鳥 坊ちゃん』の投稿写真の串打ちは、明らかに常人のレベルではない。
場所は都心から少し離れるが、その辺りの土地勘はなくても焼き鳥好きであれば、その美麗なビジュアルにたちまち目と心が釘付けになるはずだ。
店構えは確かにカジュアルな町の焼き鳥店だが、炭台と向き合う店主の高瀬 学さんから静かな気迫が伝わり、俄然、期待が高まる。
「ホイス」(¥600)は下町の大人のエナジードリンク
下町酒場のレガシーであるホイスを飲みながら、焼き上がりをじっと待つ。
火入れの技を感じるモモや手羽先、納豆を練りこんでのりで巻いたつくねといった変わり串も1本から注文可能なのが嬉しい。
同店で焼き鳥と並んで人気なのが「焼とん」。特に「かしら」(¥300)は、むっちりとした食感の中に、ねっとりとした旨みが凝縮している
ここは焼き鳥ももちろんいいが、自家製とんみそをつけて食べる「焼とん」もオススメ。
「焼とん」につけて食べるのがオススメな、コチュジャンと赤みそがベースの「自家製とんみそ」。これだけでもお酒のよきアテに
秀でた技と飾らぬ雰囲気。これぞ町焼き鳥のかがみだと“鶏服”せずにはいられないのだ。
■店舗概要
店名:炭火焼鳥 坊ちゃん
住所:千葉県市川市行徳駅前1-11-12
TEL:047-356-0388
営業時間:18:00~LO23:00(最終入店22:30)
定休日:火曜、水曜
席数:カウンター6席、テーブル8席


