1か月の長期休暇を取得することは、労働者の正当な権利か――。
新聞記者のAさん(入社13年目)は、原子力発電問題の取材を理由に、1か月におよぶ連続有給休暇を申請した。これに対し会社側は、代替要員の確保が困難であることを理由に休暇の分割を求めたが、Aさんはこれを拒否して海外へ。帰国後、会社はAさんに対してけん責の懲戒処分を下し、ボーナス約4万円をカットした。
処分を不服としたAさんは、慰謝料などを求めて提訴。Aさんは地裁で敗訴した後、高裁で勝訴したものの、最高裁では一転して「会社の時季変更権の行使は適法」と判断され、会社側が逆転勝訴する結果となった。
30年以上前の事件ではあるが、昨今も類似の事例が報道されたこともあり、先例としての価値がある判決といえるだろう。以下、事件の詳細について、実際の裁判例をもとに紹介する。(弁護士・林 孝匡)
事件の経緯
■ 1か月連続の有給をください
新聞記者のAさんは、ヨーロッパの原子力発電問題を独自に取材するため、1か月の連続有給休暇(8月20日〜9月20日)を申請した。
これに対して、部長は難色を示した。理由は以下のとおりだ。
- 記者クラブの常駐記者はAさんだけなので、1か月も不在となると取材報道に支障がある
- Aさんは科学技術の専門知識があるので、代わりに別の記者を配置することもできない
そこで、部長は「有給は2回に分けてとってください」「8月20日から9月3日までは有給取得を認めます」「それ以降については別の時期にとってください」と回答した(※)。
※これを「時季変更権の行使」という。会社は「事業の正常な運営を妨げる」と判断したときは「別の時期にとってほしい」と指示ができる(労働基準法39条5項)。ただし、その指示が適法かどうかは個別具体的な事情により判断される。
■ 旅立ち
しかし、Aさんは部長の申し出を聞かず、旅立ちの前日に「明日から旅立ちます。重大事件が起きればコチラへ連絡をください。旅行日程を切り上げて帰国します」と伝え、予定通り休暇を強行しヨーロッパへ渡った。Aさんの不在期間中、会社は別の記者を代役として立てるなどの対応を余儀なくされた。
■ 会社からのお仕置き
帰国後、会社は「有給を2回に分けてとってほしいとの指示を聞かなかった」として、Aさんに対し、けん責の懲戒処分とボーナス約4万円の減額を通知した。
この処分に納得できないAさんが、ボーナスと慰謝料の支払いなどを求めて提訴した。
高裁の判断
Aさんは地裁で敗訴した後、高裁で勝訴し、会社に対してボーナスと慰謝料5万円の支払いが命じられた。
高裁は、会社がAさんの代わりの人員を見つけることは格別難しいとはいえず、Aさんが1か月休んだことで業務に支障が生じたとしても、それは会社側の人員配置の問題であると判断。したがって、会社の時季変更権行使は違法であると断じた。
最高裁の判断
しかし・・・最高裁は「会社が一部の時期を変更するよう命令したことは適法である」として、Aさんの逆転敗訴を言い渡した。
最高裁は、休暇が長期であればあるほど会社側の調整も難しくなるため、長期連続の有給取得を認めるかどうかについては会社の裁量に委ねられる部分が大きいと指摘。その上で、以下の理由から、今回の会社の対応は「合理的」であったと認定した。
- Aさんの担当分野は科学技術であり、専門的知識が必要であった
- 代わりの人員を見つけることは相当に困難であった
- 単独配置などの人員体制は経営上やむを得なかった
- 1か月も休むのにAさんは会社と十分な調整をしなかった
- 会社は休暇を拒否したわけではなく、分割取得を提案するなど配慮していた
最後に
原則として、有給休暇を取得する際にその理由を会社に説明する必要はない。
上司「有給とって何するんだ?」
部下「プライベートなことなので差し控えさせてください」
これでOKだ。最高裁も、休暇をどのように利用するかは労働者の自由であり、使用者の干渉を許さないとしている(全林野白石営林署事件:最高裁昭和48年(1973年)3月2日)。また、有給取得に会社の承諾は不要である。
しかし、本件のように1か月におよぶような長期休暇の場合、会社側には「事業の正常な運営を妨げる場合」に取得時期をずらす時季変更権が認められている(労働基準法39条5項)。特に、専門性が高く代わりが容易に見つからない業務においては、会社の裁量が広く認められる傾向にある。
長期の休暇を希望する際は、会社側と事前に十分な調整を行い、業務への支障を最小限に抑えることが、無用なトラブルを避けるための現実的な対応となるだろう。参考になれば幸いだ。

