被災で家失い“住宅ローン”だけ残った…自己破産せず「500万円」残せる? 弁護士費用も“0円”の救済策とは

被災で家失い“住宅ローン”だけ残った…自己破産せず「500万円」残せる? 弁護士費用も“0円”の救済策とは

大地震など、大規模な自然災害が発生すると、建物の倒壊などにより、住宅ローンを抱える多くの被災者が「家は失ったのに返済は続く」という二重の苦境に立たされることがある。

こうした状況で活用できる制度が、「自然災害による被災者の債務整理に関するガイドライン」(通称・被災ローン減免制度)だ。

自己破産をすることなく、弁護士等の専門家のサポートを得ながら、債務の全部または一部の減免、猶予を受けることができる。

策定されたのは2015年(平成27年)12月。東日本大震災での経験をもとに、全国銀行協会(全銀協)や日本弁護士連合会(日弁連)などの関係団体が協議し、金融機関などの「自主的・自律的な準則」として定めたものだ。

「破産」しなくても債務を整理できる

ガイドラインによれば、対象となるのは「災害救助法の適用を受けた自然災害」の影響で、住宅ローン・住宅リフォームローン・事業性ローン等の既往債務を弁済できなくなった個人だ。破産手続などの法的倒産手続の要件に該当するケースでも、この制度を使えば、債権者と債務者の合意にもとづいた債務の全部または一部の減免を受けることができる。

通常の自己破産の場合、一定の財産(自由財産)を除き、全財産が処分・換価され、信用情報機関に事故情報が登録される。これに対し、被災ローン減免制度には以下の通り、3つの大きなメリットがある。

①信用情報に傷がつかない
ガイドラインに基づいて債務整理を行った場合、対象債権者は「債務整理を行った事実その他の債務整理に関連する情報」を信用情報登録機関に報告・登録しないとされている。いわゆる「ブラックリスト入り」を避けながら生活再建をスタートできる。

②一定の財産を手元に残せる
自己破産の場合、処分の対象とならない「自由財産」は原則として99万円までだが、この制度では500万円まで認められる。なお、義援金や支援金等はこれとは別に手元に残すことができる。生活再建の「種銭」を守れる点は、通常の破産手続きと比較して、より手厚い自由財産の確保を可能にする点で特徴的だ。

③登録支援専門家の支援が無料で受けられる
手続きには弁護士・公認会計士・税理士・不動産鑑定士などの「登録支援専門家」が中立的な立場でサポートする。この専門家への報酬は「東日本大震災・自然災害被災者債務整理ガイドライン運営機関」(以下、「運営機関」)が負担するため、債務者の自己負担はない。

まずは「主たる債権者」への申出から

手続きは以下の通り、段階的に進む。

まず、債務者が最も大きな債権(元金総額が最大)を持つ金融機関(主たる債権者)に対し、手続き着手の申し出を行う。金融機関側はこの申出を受け付けてから10営業日以内に同意または不同意を書面で回答する。

同意書面を受け取った後、債務者は士業団体(※)を通じて運営機関に対し、上記「登録支援専門家」の委嘱を依頼する。

※弁護士なら日弁連・弁護士会、公認会計士なら日本公認会計士協会・各地域会、税理士なら日本税理士会連合会・各税理士会、不動産鑑定士なら日本不動産鑑定士連合会・各不動産鑑定士協会

次に、すべての対象債権者に対して同一日付で債務整理の申出を行う。この申出の時点から「一時停止」が始まり、債権者による強制執行・法的倒産手続の申立てなどは差し控えられる。なお、この申出について、ガイドラインは「銀行取引約定書等において定める期限の利益喪失事由(※)として扱わない」と定めており、即座に、一括返済を求められる事態が防がれる。

※その事由が発生したら、契約上の履行期限を待たず、直ちにすべての債務を履行しなければならなくなるもの

申出から原則3か月以内(個人事業主の場合は4か月以内)に「調停条項案」を作成し、すべての対象債権者に提出する。対象債権者が調停条項案に同意した後、簡易裁判所に「特定調停」の申立てを行い、調停が成立すれば、手続きは完了となる。

対象となるための主な要件

被災ローン減免制度を利用するには、以下の要件を満たす必要がある。

住居・事業基盤などが災害の影響を受け、既往債務を弁済できない(または近い将来できなくなることが確実と見込まれる)こと
財産状況を対象債権者に対して適正に開示していること
災害発生以前に期限の利益喪失事由に該当する行為がなかったこと
法的倒産手続による回収見込みと同等以上の回収が得られる見込みがあるなど、債権者にとっても経済的合理性が期待できること
反社会的勢力ではなく、破産法上の免責不許可事由がないこと

活用実績—熊本地震や能登半島地震でも利用あり

被災ローン減免制度は、2016年の熊本地震や2024年の能登半島地震をはじめ、多くの災害で活用されてきた。令和8年熊本地震においては、以下の通り、熊本県内の10市10町1村に災害救助法の適用があるので、このエリア内で上述の要件を満たせば、被災ローン減免制度の適用対象となり得る。

熊本市、八代市、水俣市、山鹿市、菊池市、宇土市、上天草市、宇城市、天草市、合志市、下益城郡美里町、菊池郡大津町、菊池郡菊陽町、阿蘇郡西原村、上益城郡御船町、上益城郡嘉島町、上益城郡益城町、上益城郡甲佐町、八代郡氷川町、葦北郡芦北町、葦北郡津奈木町

なお、制度の適用対象は当初と比べ拡大しており、2020年(令和2年)10月の改正では東日本大震災の被災者もガイドラインの対象に追加された(適用開始は2021年4月1日)。また、新型コロナウイルス禍に際し、生活や事業への打撃をガイドラインの枠組みで救済するための「特則」も別途制定された。

2026年6月末時点で「自然災害案件」について、登録支援専門家に手続支援を委嘱した件数が1541(手続き中含む)、うち債務整理が成立した件数が679となっている(【図表】参照)。

【図表】被災ローン減免制度の利用状況(出典:東日本大震災・自然災害被災者債務整理ガイドライン運営機構)

住宅ローンを抱えながら被災した人にとって、この制度は「破産か、返済継続か」という二択以外の道を示すものだ。一人で抱え込まず、専門家への相談を早めに検討することが重要だ。

配信元: 弁護士JP

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