8月13日から「国旗損壊罪」が施行される。
日本国旗、いわゆる「日の丸」を破ったり燃やしたりする行為のうち、一定の条件を満たすものは刑事罰の対象となる。 法定刑は2年以下の拘禁刑または20万円以下の罰金だ。
なお、日本国旗は自身が所有するものに限られる。なぜなら、他人が所有する国旗を損壊した場合には、より重い器物損壊罪(刑法264条、3年以下の拘禁刑または30万円以下の罰金もしくは科料)の対象となるからである。
法案を提出した政党(自民党、日本維新の会、国民民主党、参政党)は「国旗を大切に思う国民感情」の保護などを立法の理由に挙げている。
一方、弁護士や法学者からは、表現の自由に対する影響を懸念する声や、「どのような行為が処罰の対象となるのかが不明確だ」などと批判する声が上がっている。
「お子さまランチの旗」は対象外だが…
国旗損壊罪(正式名称「国旗の損壊等の処罰に関する法律」)は、「人に著しく不快または嫌悪の情を催させるような方法により、公然と国旗を損壊し、除去し、または汚損する行為」を処罰する法律。
本法における「国旗」は「国旗及び国歌に関する法律に定める国旗として用いられていると社会通念上認められる有体物」と定義されている。
また自民党は「『お子さまランチの旗』や『絵画の一部として描かれた旗』、アニメ・マンガ・ゲーム・生成AI(人工知能)等による創作物等は対象外」と説明している。
そして、本法における「公然と」とは「不特定または多数の人が認識できる状態」を指すとされている。
具体的には、路上や公園などで国旗を燃やす、引き裂く、踏みつける、ペンキをかける、落書きをするなどの方法で損壊する行為が、処罰の対象となり得る。
また、物理的な場所に限らずネット上であっても、不特定または多数の人が認識できる状況で国旗を損壊する様子をライブ配信する行為は処罰の対象となり得る。
一方、自室などで国旗を損壊した場合は「公然と」損壊したとはいえず、処罰の対象とはならない。また、その様子を撮影した動画を事後的にインターネットで配信する行為や、それをSNSでリポストする行為も、処罰対象にはならないとされている。
法定刑は2年以下の拘禁刑または20万円以下の罰金。これは、後述する現行刑法92条の「外国国章損壊罪」と同じ水準だ。
立法の目的は「国民感情」の保護
自民党を中心とする法案提出者らの説明によると、国旗損壊罪の立法趣旨は「国旗を大切に思う国民感情」の保護にある。
「日の丸」は国民の間に広く定着しており、これに愛着を感じる人も少なくない。そのため法案提出者らは、国旗を損壊する行為は「多くの国民の感情を害するもの」としている。
また、刑法92条には「外国国章損壊罪」があり、外国政府を侮辱する目的で外国の国旗や国章を損壊・除去・汚損した場合には、2年以下の拘禁刑または20万円以下の罰金が科される。
その一方で、従来、日本の国旗については同様の処罰規定が存在しなかった。国旗損壊罪の新設には、こうした外国国章損壊罪との扱いの違いをなくして均衡を取るという目的もあるとされている。
「表現の自由」の侵害、「罪刑法定主義」違反との指摘も
国旗損壊罪については、法案の段階から弁護士や法学者らが批判や懸念を示してきた。
日本弁護士連合会(日弁連)は6月26日、国旗損壊罪の成立に抗議する会長声明を発表した。全国の弁護士会も、同様の声明を発表している。
主に問題視されているのは、憲法19条が保障する「思想及び良心の自由」や、21条が保障する「表現の自由」との関係だ。
国旗を損壊する行為には、国や政府、また特定の政治的立場に対する抗議や批判など、思想的・政治的なメッセージを表すという側面がある。そのため、こうした行為を刑罰で規制することは、政治的な表現を萎縮させて表現の自由を制限することにつながる、と指摘されている。
特に国旗損壊罪は、自分自身が所有する国旗を損壊した場合も処罰対象としている。このことから「他人の財産を守るための規制にとどまらず、国旗を使った政治的な表現そのものを規制することになる」との懸念も示されている。
くわえて、「人に著しく不快または嫌悪の情を催させるような方法」という要件が曖昧で、どこまでが処罰の対象になるのか分かりにくいとの批判もある。
本法では「著しく不快または嫌悪」に当たるかどうかについて、「行為の外形、周囲の状況その他の客観的な事情を総合的に勘案して」判断するとしているものの、その判断基準自体が明確ではないとして、罪刑法定主義(※)との関係で問題視されている。
※罪刑法定主義:どのような行為が犯罪となり、どのような刑罰が科されるのかを、あらかじめ法律で明確に定めておかなければならないという原則(憲法31条)
また、他人の国旗を壊すことについては、従前から器物損壊罪などで処罰できるため、「そもそも、あえて国旗を対象とした犯罪を新たに設ける必要があるのか」という疑問も示されている。
さらに、外国国章損壊罪との均衡を国旗損壊罪の立法理由とすることについても、前者には「外国政府を侮辱する目的」という要件があるほか、「外国政府の請求」がなければ起訴できないという独自の訴訟条件が設けられているのに対し、国旗損壊罪にはこうした要件や訴訟条件が設けられていないことから、立法理由として適切でないと指摘されている。
他方で、法3条は「適用上の注意」として、「この法律の適用に当たっては、表現の自由その他の日本国憲法の保障する国民の自由と権利を不当に侵害しないように留意しなければならない」と定めている。

