「他のみんなが嫌な気分になる」教員の“理不尽な叱責”に地裁が「過失」認める判決…“先生からのハラスメント”訴えた女子生徒の“思い”

「他のみんなが嫌な気分になる」教員の“理不尽な叱責”に地裁が「過失」認める判決…“先生からのハラスメント”訴えた女子生徒の“思い”

山梨県内の中学校に通っていた女子生徒(現在は高校生)が、教員から叱責を受けたことで精神的苦痛を受けたとして、保護者とともに学校設置者を相手に約600万円の損害賠償を求めた訴訟の判決が先月末に甲府地裁で行われた。

甲府地裁(増永謙一裁判長)は、教員の叱責に過失があったとして、学校設置者に約11万円の支払いを命じた。一方で学校側は判決を不服として控訴している。(ライター・渋井哲也)

まだ珍しい「不適切指導」での過失認定

学校現場での「いじめ対応」をめぐっては、2013年に施行された「いじめ防止対策推進法」の影響もあり、学校や教育委員会の不対応や過失を認める裁判例が増えている。

一方で、教員による「不適切指導(指導死やハラスメント)」については、事情が異なる。小中高校での生徒指導の手引きとなる国の指針「生徒指導提要」などで、不適切な指導と考えられる例を挙げて注意喚起はされているものの、特に暴力を伴わない「暴言や過剰な叱責」は違法とする明確な基準がない。そのため、裁判所が教員の叱責を違法と認める判決が出るのは珍しい。

「みんなが嫌な気分になる」他の生徒の前で大声の叱責

判決によると、地裁が過失を認めたのは、家庭科部顧問のA教諭による2度の叱責行為だ。

1度目は、2022年1月19日夕方の出来事。家庭科部を早退しようとしていたXさんを呼び止め、掃除をせずに下校しようとしていると叱責した。このときA教諭は、他の部員にも聞こえるような大きな声量で、数分間にわたってXさんを叱責した。

Xさんは中学1年生のころから、塾や習い事のために16時30分までに下校する必要があり、そのことをあらかじめA教諭にも伝えていた。前日までは、特に注意されることなく早退していたという。

そのため判決は、Xさんが「理不尽な叱責を受けた等という捉え方をしたことが不自然、不合理であるなどとすることはできない」と指摘。「中学校の学校教育上の措置として合理的な範囲を超え、社会的相当性を欠く」として、A教諭の過失を認めた。

2度目は、同年1月21日の「全校掃除の時間」中に起きた叱責だ。図書室で他の生徒と一緒に掃除を行っていたXさんに対し、A教諭は「工夫して(部活の)片付けに参加したらどうか、早く掃除するとかなんかできないか」「掃除の時間に帰ると、他のみんなが嫌な気分になる」「早く帰るなら事前に言っておいて」などと、強い口調で声をかけた。

裁判所は、こちらも2日前の叱責と同様に否定的な発言を繰り返したことから、Xさんが強い恐怖を感じ、理不尽な叱責を受けたと捉えたことには合理的な理由があると認定。この発言についても、「合理的な範囲を超え、社会的相当性を欠く」として過失が認められた。

一方で判決は、Xさんが後に適応障害や起立性調節障害を発症したことについて、一連の叱責との因果関係までは認めなかった。Xさんは今もこうした後遺症に苦しんでいる。

不登校の自宅へ「事前連絡なしの家庭訪問」

実は、A教諭による感情的な指導は、この叱責事件の前から始まっていたという。

Xさんの母親は、A教諭の指導についてこう話す。

「娘は入学してすぐに家庭科部に入部しましたが、A教諭はこの頃から、ご自身のお子さんの成績や生活態度などプライベートな不満からか、穏やかな生徒に八つ当たり的な叱責を繰り返していました」

Xさんもこう振り返る。

「A先生は私だけでなく、優しそうで反論しなさそうな友達にも八つ当たりしていました。とても見ていられませんでした。12月になって担任に相談しましたが、改善はされませんでした」

Xさんの相談は、学年主任や教頭にも共有されたが、様子見の状態が続くだけだった。

そうした状況のなかで起きたのが、先述した2022年1月の連続した叱責だった。これによってXさんの体調は悪化していく。学校を休むことや遅刻することも増えたため、2月3日、父親が学年主任に「メンタルの面なのでそっとしておいてほしい」と電話で要請した。しかし翌4日、Xさんが欠席すると、事前の連絡なく、担任と学年主任が突然自宅を訪問してきたという。

当時は、文科省から新型コロナウイルスのオミクロン株に対応した感染症対策徹底の通知が出されるなど、世間が新型コロナ感染症に神経質になっていた時期でもある。家の中から様子を見ていたXさんに対し、学年主任は両手を振りながら近づき、母親との会話の中で「この3年間を見ていてください」と話したという。

「突然訪問しておいて説明も謝罪もなく、明るく振る舞っていた。いくらなんでも、それはないでしょうと思いました。A教諭に叱責された後、娘は明らかに急に動けなくなりました。メンタルが弱っている子は休ませるのが当然で、いきなりの家庭訪問も娘にとってきつかったと思います。親としては、A教諭や学年主任の指導や態度が体調不良の原因だと思いますが、判決は学年主任の過失を認めませんでした」(母親)

判決は、家庭訪問について「害意を持って接していたことを窺わせる事情は全く認められない」とし、違法性を認めなかった。

母親は悔しさをにじませ、こう語った。

「判決は『善意の形で(家に)来ているから違法ではない』と言いますが、先生たちにはメンタルヘルスの正しい知識と対応を学んでほしいと思います」

Xさん「大人がしていることが全部正しいわけではない」

地裁では一部勝訴という形になったものの、学校側の控訴により裁判は続く。Xさんと両親は納得しきれていない。

「先生たちがする『いじめ』や『虐待』を直接規定する法律はありません。先生たちはやけに守られていると感じます。『善意だから』『指導のつもりだった』という理由で、子どもを傷つけたことが許されるべきではないと思います」(母親)

Xさんは最後に、同じような不適切指導に苦しむ子どもたちに向けてこう語った。

「教員たちのハラスメントを裁判で証明するのは本当に難しいです。控訴をされてストレス要因が増えるのも大変でした。でも、気持ちに踏ん切りをつけるためにも裁判をやってよかったと思っています。

大人がしていることがみんな正しいわけではないし、間違っていることもあります。今、不適切指導にあっている子がいたら、親でも友達でも、信頼できる人に話してほしいと思います」

■渋井哲也
栃木県生まれ。長野日報の記者を経て、フリーに。主な取材分野は、子ども・若者の生きづらさ。依存症、少年事件。教育問題など。

配信元: 弁護士JP

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