「家族葬で95万円」思わぬ高額請求に驚がく 互助会“特典控除”めぐり業者の「説明不足」主張も…法的措置は“遺族側”に高いハードル

「家族葬で95万円」思わぬ高額請求に驚がく 互助会“特典控除”めぐり業者の「説明不足」主張も…法的措置は“遺族側”に高いハードル

「互助会に積み立てていたのに、家族葬で約95万円……」

国民生活センターが公表した「令和8年度第1回 国民生活センターADRの実施状況と結果概要」に、現実に起きた葬儀費用トラブルとして、このような実例が掲載されている。

父親を亡くした遺族Aさんは、掛金を完納済みの互助会(※)を利用すれば、大きな追加費用は出ないはずと考えていた。ところが、打ち合わせの場で次々と選択を求められ、必要性を感じていなかった湯灌(ゆかん)も「普通はされますよ」という業者の一言によって、やむなく受け入れた。

※冠婚葬祭の費用に備えて会員が少額ずつ掛金を前払いし、必要時に契約に基づく役務の提供を受ける相互扶助の仕組み

そして、「会館への移動があり時間がない」と急かされ、親族と相談する間もなく、互助会の補償額約53万円を差し引いてもなお100万円近い内容で、葬儀を実施することになってしまった。

葬儀後、Aさんが業者に問い合わせると、「予算を事前に伝えてもらえれば、別の会場で対応できた」と、打ち合わせ時には一度も言われなかった言葉が返ってきた。

遺族と葬儀業者、食い違う主張

本事例においてAさんは、葬儀契約をなかったこととして、支払った約95万円の全額返金を業者に求めてADR(※)を申請した。しかし業者は当初、「適正な契約で役務提供済みのため返金には応じられない」として手続きへの協力を拒否した。

※裁判外紛争解決手続。消費者と事業者の紛争を、裁判によらず中立的な仲介委員のもとで解決する手続きで、国民生活センターは特に重要性の高い消費者紛争についてこれを担っている

これを受けてAさんは請求内容を変更。料理・会葬品などの補助費用や生花舟形を除いた部分についての返金協議へと歩み寄り、業者も和解の仲介手続に協力する意思を示した。

しかし、双方の主張は大きく食い違った。Aさんは「互助会の特典充当についての説明がないまま、次々と写真を見せられて選択を求められた。湯灌も『普通はする』と言われやむなく受け入れた。事後に『予算を告げてもらえれば別会場で対応できた』と言われたが、打ち合わせでそうした説明は一切なかった」と主張。

一方、業者は「プランの価格や互助会の特典控除の金額は説明済み。申請人(遺族)の希望する会館では祭壇の最低価格が45万円となること、実際に葬儀を行った会館には家族葬用の式場がなく、宗旨の関係から小規模対応も難しかったこと、家族葬向けの別会館は遠方のため紹介しなかったことなどは事実だが、手続きは適正だった」と反論した。

仲介委員は双方から事実関係を聴取した上で、「申請人(遺族)の希望に沿う会館があるという選択肢を示さなかった点において、契約時に重要な事項を告げず、説明義務に反する点があると見受けられる」と指摘。業者に対し約40万円の返金を検討するよう和解案を提示した。しかし業者はこれを拒否。和解成立の見込みがないと判断され、手続きは終了した。

次なる手段は「訴訟」も…待ち受ける高いハードル

ADRに強制力はなく、相手方が和解案を拒否すれば手続きは終了する。では、遺族が次なる手段として法的措置に進んだ場合、どのような結論が待ち受けるのか。

葬儀トラブルに詳しい荒川香遥弁護士(弁護士法人ダーウィン法律事務所)は、「あくまで今回のADR結果概要のみを前提としており、契約書や約款の内容次第で評価は変わり得る」と断りつつも、「葬儀終了後に契約全体を取り消し、支払額の全額返還を受けることは、実務上かなり困難」と言う。

なぜなら、仮に契約取消が認められたとしても、すでに行われた葬儀に要した費用は清算上考慮される可能性があるためだ。「現実的には、全額返金ではなく、不要なオプション代や、適切な説明を受けていれば選択した内容との差額を求める形になりやすいと考えます」(同前)。

今回のADRで仲介委員が問題視したのは、業者の「説明義務」だ。荒川弁護士は、葬儀という取引の特殊性を指摘する。

「葬儀は、遺族が動揺した状態で、限られた時間内に、比較経験の少ないサービスを選ぶ取引です。そのため、互助会プランの対象、追加料金、予算に合う別会館の有無などについて、通常より丁寧な説明が求められやすいと考えます」

契約の判断を左右する重要な情報を事業者が説明しなかった場合、不法行為ないしは債務不履行に基づく損害賠償責任が生じることもあるという。

しかし、いざ訴訟となると遺族側には高いハードルが待ち受ける。

「説明がなかったことよりも、説明を受けていれば実際に別会館を選んだか、その場合に費用がいくら下がったかを立証する点が難しい」と荒川弁護士は言う。

互助会費が充当されると説明しながら高額なプランしか提示しなかった場合、消費者契約法4条2項に基づき「不利益事実の不告知」による契約取消を主張する余地はあるが、事業者の故意または重大な過失、遺族の誤認、誤認と契約締結との因果関係などを立証する必要がある。その場合、見積書や同席した親族の証言、メモなどが重要な証拠となる。

訴訟は“割に合う”か?

今回のADRで仲介委員が約40万円の返金を検討するよう求めたことは、業者側の説明義務履行に際して何らかの問題があった可能性を示唆している。しかし、荒川弁護士は「裁判所が同額の損害を認めることを意味するものではない」と明確に線引きする。

訴訟では、説明義務違反の事実だけでなく、それによって生じた具体的な損害額(より安いプランを選んでいた場合の差額など)を厳密に立証する必要があるからだ。

この立証の難しさに加え、弁護士費用を考慮すると、金銭回収だけを目的とする訴訟は「経済的に割に合いにくい」のが現実だという。荒川弁護士は、より現実的な手段として「本人で民事調停を利用する方法」を挙げる。

打ち合わせの場でできる「自衛策」とは

互助会に入っていてもトラブルは起こり得る。後悔しないために、遺族ができる自衛策はあるのだろうか。荒川弁護士はまず、制度上の盲点を指摘する。

「葬儀サービスは、訪問販売等のクーリングオフの適用除外です。自宅で契約しても、8日以内に無条件で解除できるわけではないため、署名前の確認が特に重要です」

その上で、打ち合わせの場で実践できる具体的な対応策として、次の点を挙げる。

  • 搬送だけを依頼し、葬儀を任せるかは見積もり後に決めると伝える
  • 打ち合わせには2人以上で参加し、説明内容と金額を記録する
  • 支払総額の上限を税込みの数字で伝える
  • もっとも安いプラン、別会館、互助会の対象範囲、追加料金を質問する
  • 単価と数量が記載された見積書を受け取り、変更のたびに総額を確認する
  • 「普通は付けます」と言われても、不要なオプションは断る
  • 互助会が費用全額を賄うものか、特定の物品・役務だけを提供するものかを生前に確認する

本事例では、「普通はされますよ」という業者の一言が湯灌の受け入れにつながった。「不要なオプションは断る」という言葉は、簡単そうでいて、遺族が動揺と時間的制約の中に置かれた現場では実践が難しい。だからこそ、打ち合わせに複数人で臨み、その場の言葉をメモとして残すことが、後の交渉や立証において重要な意味を持つ。

今回のADR事例は、互助会に加入していても、高額請求や説明不足をめぐるトラブルが起きる可能性があることを示している。葬儀という取引の特性——動揺、時間的切迫、比較経験の乏しさ——を理解した上で、事前に互助会の適用範囲を確認し、打ち合わせの場では冷静に選択肢を問い続けることが、実効性の高い自衛策となるだろう。

配信元: 弁護士JP

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