タンクローリーは「ガソリン満タン」より「ほぼ空」のほうが危険? 現役ドライバーが語る“大爆発”リスクと隣り合わせの苦労とは

タンクローリーは「ガソリン満タン」より「ほぼ空」のほうが危険? 現役ドライバーが語る“大爆発”リスクと隣り合わせの苦労とは

お盆休みで高速道路などを利用した人は、大型トラックを目にする機会も多かったのではないだろうか。 

ひと口に「トラック」と言っても、運ぶモノによって車両の形も危険度もまったく異なる。

なかでも特徴的なフォルムをしているのが「タンクローリー(以下「ローリー」)」だ。

丸みがあることから優しげな印象を抱く人もいるかもしれないが、実際にはローリーが運んでいるものとドライバーの置かれている環境には「危険」が満載である。

ローリーの形状や運ぶものによる危険性、ドライバーが直面するさまざまな苦労について12名のローリードライバーに話を聞いた。(本文:橋本愛喜)

真円形と楕円(だえん)形がある理由

楕円形のタンクローリー(ドライバー提供)
 真円形のタンクローリー(’90Bantam/PIXTA)

道路上で見かけるローリーをよく見ると、タンクを前後から見た断面が「真円形」のものと「楕円形」のものがあることに気づく。

これは、企業がデザイン性で選んでいるわけではない。

真円形のローリーは「高圧ガスなどの気体」、楕円形は「液体」を運んでいることが多いのだ。

その理由について、あるドライバーは「高圧ガスを運んでいるローリーが真円形をしているのは、均等に内圧をかける必要があるためです。一方、液体を運ぶローリーに楕円形が多いのは、なるべく重心を低くして安定した運転ができるようにするためだといわれています」と説明する。

なかでも運転に危険が伴うのが、「液体」を運ぶローリーだという。

あるドライバーは「液体はクルマが動くとタンクのなかで波打つんです。発進しようとアクセルを踏むと後ろに引っ張られ、ブレーキを踏むと押しつぶされるような感覚になる」と話す。

また別のドライバーも「特にブレーキには気を使いますね。急ブレーキを踏んでも、タンク前方に移動した液体にクルマが押されてブレーキが効かない。コーナーを曲がる際もなかの液体のせいで大きな遠心力がかかり気を使います」と語る。

こうした液体の動きによって車両の挙動が不安定になる主な原因が「スロッシング現象」だ。

スロッシング現象とは、タンクや容器の動きに伴って、内部の液体が揺れ、液面が移動する現象のこと。

「ローリーは荷重がいろんな方向へ絶えず移動するので怖い。満タンに積んでいればいいのですが、途中で少しずつ降ろしながら回り、8割以下になってくると、スロッシングが顕著(けんちょ)に表れる。

例えばタンクの内径は2メートルくらいあるので、積載13トンくらいになるとタンク内で1.5メートルくらいの波が発生している感じですかね」

そんな波を発生させないよう、波を打ち消す「防波板」が設置されている車両もあるが、清掃に手間がかかることや構造上の問題などが原因で、防波板を設置していない車両も少なくない。

液体を運ぶローリーのドライバーたちは、こうした揺れによって「車酔い」のような感覚に襲われることもある。

「大きなポリタンクで液体を長距離輸送することがあるんですが、スロッシングで酔いそうになる。クルマが動くたびに『タップンタップン』『どんぶらこ』状態。車の挙動が一歩遅れて出る感じ。停まっていても小さくユッサユッサ揺れている感覚」

こうした揺れにさらされながら運転を続けるため、液体を運ぶドライバーには、腰を悪くする人も多い。そのため、なかにはシートを特注品に替えている運送会社もあるという。

燃料タンクローリーに必要な資格

ローリーといったら真っ先に思い浮かぶのが、ガソリンスタンドを出入りする「燃料ローリー」だろう。

外からは分からないが、大型の燃料ローリーのタンク内部は、いくつもの区画に仕切られている。

※消防法上の「移動タンク貯蔵所」には構造基準があり、危険物を入れるタンクは、原則として4000リットル以下ごとに間仕切りを設けることとされている(危険物の規制に関する政令第15条)

長年燃料を運んでいるローリーのドライバーはこう話す。

「内部が仕切られているため、種類の違う燃料(ハイオク・レギュラーガソリン・灯油など)を一度に運搬することができるんです。

防波板も付いていますが、そもそも部屋が分かれていることで波が分散されます。そのため、スロッシング現象も、仕切りのないタイプのタンクローリーよりは小さいと思います」

さらに、燃料ローリーは、労働負荷においても一般のトラックドライバーと違いがあるという。

「一般のトラックドライバーのように手荷役(手で荷物をひとつひとつ積み降ろしする作業)がありません。給油においてもホースをつなげばいいだけなので、体力的には楽な方だと思います」

一方、燃料ローリーのドライバーたちに課されるのは「危険物の扱い」だ。

燃料ローリーを運転するドライバーのほとんどは、大型一種免許のほかに、ある資格を持っている。

それが「危険物取扱者乙種第4類」。通称「乙4(おつよん)」だ。

そもそも消防法上の「危険物」は6種類に分かれており、これらを業務で扱うには、それぞれ扱う危険物の種類ごとに資格を取得する必要がある(※)。

※資格者の立会いの下で、無資格者が取り扱える場合もある

そしてガソリンや灯油などは第4類の「引火性液体」に当たる、ということだ。

危険物の種類(著者作成)

なお、ガソリンという消費者に身近な危険物を扱う際に必要になる「乙4」は燃料ローリーのドライバーだけでなく、ガソリンスタンドで働く従業員などにも取得されている。

燃料ローリー特有の苦労

宵積み(よいづみ)とは、前日のうちに荷物を積んでおき、当日は出発するだけの状態にしておくこと。

そして危険物を扱う燃料ローリーにおいては、宵積みができないという。

以前、燃料ローリーを運転していたドライバーはこう話す。

「危険物は、積んだまま人が離れることが許されません。積んだらすぐ運ばないといけない。なので朝4時に出勤し、製油所などで油を積みに行くことから1日を始める必要があります」

さらに、クルマの故障が起きた場合も、他のトラック以上に大変だという。

「積んでいるものが危険物なので運転も最大限の安全を心がけますが、道のど真ん中で車両が故障なんかすると、大ごとに。危険物が乗っているのでレッカーで運べず、応援のローリーと万一のための消防車を呼んで、積んでいる燃料をその場で詰め替えるしか方法がないんです」

喫煙すると「ドーン」の危険も…

そんな危険物を運ぶ車両ではあるものの、意外なことに燃料ローリーのキャビン(運転席)での喫煙が、法律によって禁止されているわけではない。

「ただ、ローリーの場合、タバコを吸っていると目撃者から苦情がきます。『危険物を運んでるやつがタバコ吸ってる』と。もっとも、今はローリーに限らず、社内規則でキャビンの中を禁煙にしている運送会社さんは増えてはいますけどね」

余談だが、ローリーのドライバーとして、ガソリンスタンドの利用者による危険な行動を目撃することがあるという。

「ガソリンスタンドで窓を開けっぱなしにしている人ですね。あれは危ない。ガソリンで一番怖いのは、油そのものじゃなくて、そこから揮発した気体なんです。

給油していると、横からモワモワしているのが見えますが、アレです。そんな気体が入り込んだ車内で喫煙すると『ドーン』といく」

なかには喫煙しながら給油し、その吸い殻を側溝にポイ捨てする人もいると、同ドライバーは続ける。

「ガソリンの蒸気は空気より約3倍〜4倍重いため、下に溜まります。吸い殻に引火すれば、こちらも『ドーン』です」

「油そのものより揮発した気体のほうが怖い」という点に関して、もう一つ、誤解されがちなことがある。

「ローリーは燃料が満タンに入っているほうが危険だと思われがちですが、それも違う。むしろ『ほぼ空の状態』の方が大爆発のリスクが高いんです。ガソリンは、空気と混ざるから燃える。

なので、ガソリンがタンクに満タンに入っているより、ガソリンスタンドでほとんどすべての燃料を降ろして帰る途中のほうが危ない。

タンクの底に残った少量のガソリンが走行中に揺られ、空気とよく混ざり合って、燃えやすい濃度になったところに火が付くと、止まらなくなるんです」

そのため、危険物を運ぶローリーには、走行が規制されている場所がある。

「5km以上のトンネルです。トンネル内でローリーが事故を起こすと大惨事になりますから。ただ、通れなくなることを避けるためか、ギリギリ通れる4990メートルくらいのトンネルが日本中にはたくさんあるんですけどね」

※実際の通行可否は、トンネルごとの指定と積載物、例外措置などによって決まる

ローリーの繁忙期

燃料ローリーの繁忙期のひとつは連休だ。

「サービスエリアのガソリンスタンドがすごいことになるんですよ。普段は週に2便ぐらいローリーで行けばいいところ、大型連休になると2時間に1回とかの頻度でローリーがガソリンスタンドへ給油しに行っています。急がないと品切れが起きるんですが、渋滞でローリーがガソリンスタンドに着けないことも」

もうひとつの繁忙期は「冬」である。

燃料ローリーは「ライフライン」として何があっても稼働しないといけないのだ。

「以前、富士山の麓や富士五湖周辺のガソリンスタンドに給油していたことがある。雪が降るとみんな不要不急の外出をしなくなるので、給油する人も減るんですが、それでもローリーは走らないといけない。

灯油を歩いて買いに来る人がいるからです。そういう人は、車で来られなくても歩いてでも買いに来るので」

食用液体を運ぶローリーにも苦労が…

ミルクローリーの中の様子。向こうに見えるのは防波板(ドライバー提供)

道路を走るローリーのなかには、塗装されていない鏡面状の車両もある。

後続車両にとっては、自車のヘッドライトが反射したり、車体との距離感をつかみにくかったりして、走りにくく感じることもあるだろう。

だが、この無塗装には理由がある。

タンクローリーというと、これまで見てきたような「ガソリン」などの危険物を運んでいるイメージがあるかもしれない。だが、ローリーが運んでいるのは、それだけではない。

牛乳や酒、醤油など、食品用の液体を運ぶローリーもあるのだ。

そして鏡面仕上げのタンクローリーの多くは、食用の液体を輸送している。

燃料タンクローリーなどは鉄製が主だが、食用の場合、タンクには徹底した衛生管理が求められる。そのため、サビに強く、清掃もしやすいステンレス製の無塗装タンクがよく使用される。

食用ローリーのドライバーは、こう付け加える。

「清潔なイメージを付けるために、タンクをビカビカに磨き上げるドライバーもいますが、後続車両は余計に走りづらくなってしまうかもしれませんね」

食用の液体を運ぶローリーのドライバーたちにも、それぞれ苦労があるという。

ラードを運んでいるドライバーからは、こんな声が聞かれた。

「ラードは常温では固まりますので、60〜70℃に加熱した状態で運びます。なので、荷役で蓋を開けると、熱気が襲います。荷役作業に時間はかからず、身体的にも楽ですが、車両はステンレス。晴れた日は太陽の反射光で炙(あぶ)られます。

今夏、熱中症対策のために初めて空調服を揃えました。タンクの上で気を失って中に落下したら、洒落になりませんから」

ラードと同じく、冷めると固形化してしまうものに、チョコレートがある。

2018年、ポーランドでチョコレートを輸送中のタンクローリーが高速道路で事故を起こし、道路にチョコレートが漏れ出したことがあった。

外気にさらされたチョコレートは凝固。清掃員らはシャベルや掘削機、さらに温水を使用した高圧洗浄機などで、少しずつチョコレートの塊を取り除かねばならなかったという。

一方、低温での輸送が必要な「牛乳」の輸送にも、意外な話がある。

「実はミルクローリーには冷凍機などは付いていないんです。超高性能、超大容量の魔法瓶なんですよね。真夏に北海道から貨物列車で来た牛乳を運ぶんですが、北海道を出発したある日の生乳の温度は1.4℃。荷卸し前の検査で4.3℃でした」

また、あるドライバーは、食用液体でも「乙4」が必要になる場合があると話す。

「サラダ油もローリーで運搬する際は“危険物”です。チョコレートや牛乳を運ぶ際には、先ほど紹介した乙4などの資格は必要ありませんが、サラダ油を運ぶには資格が必要なんです(※)。食用油は燃えますから」

※油の種類や指定数量、運搬方法などによって、危険物取扱者の資格が必要となる場合がある

ローリーは、運ぶモノの特性によって、その形も運び方も大きく異なる。

こうした現場の事情を知れば、道を行き交うトラックの見え方も、食卓に並ぶ食品の見方も、少し変わるかもしれない。

■橋本愛喜(はしもと・あいき)

現ライター。元工場経営者・トラックドライバー。大型自動車免許取得後、トラックで200社以上のモノづくりの現場へ足を運ぶ。現在はブルーカラーの人権・労働に関する問題や、文化差異・差別・ジェンダーなどの社会問題などを軸に各媒体へ執筆・出演中。

配信元: 弁護士JP

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