育休を取得したら、降格させられた――。
通信機器の販売などを行うX社で、入社からわずか3年で店長に昇格したAさん。将来を期待されていたはずが、2度目の育児休業から復帰した直後、副店長への降格を命じられた。
さらに、数か月後には給与も引き下げられ、X社でのキャリアに絶望したAさんは退職。育休取得を理由とする降格は「不利益な取扱い」にあたり違法だとして、X社を訴えた。
裁判所はAさんの訴えを認め、「降格は育児介護休業法に反しており違法」として、X社に対し慰謝料100万円などの支払いを命じた。
以下、実際の裁判例をもとに事件を解説する。(弁護士・林 孝匡)
事件の経緯
X社は、通信機器の販売などを行う会社である(グループ従業員が2000名以上、店舗数は70店舗以上)。
Aさんが入社から2度の育休を経て、降格に至るまでの経緯は、以下のとおりだ。
■ 約3年で店長まで昇格
Aさんは下記のとおりスピード出世しており、判決文でも「X社はAさんの将来に期待してきたことがうかがわれる」と指摘されている。
入社(新人スタッフ)
↓ 1年5か月後
副店長代行
↓ 5か月後
副店長
↓ 1年後
店長代行
↓ 6か月後
店長(その後も複数店舗で店長を務めた)
■ 1回目の育児休業
Aさんは、第1子が誕生したため、店長昇格から約5年後に1回目の育休を取得した。このとき、復帰後のX社の対応に特に問題はなかった。いったんは肩書のないスタッフとなったものの、翌月には店長職に復帰したからである。
■ 2回目の育児休業
翌年、Aさんは第2子が誕生したため、2回目の育休を取得した。
■ 降格
ここからが問題である。Aさんが育休から復帰した際、X社はAさんを副店長に降格させたのだ。ただし、この段階では、基本給は2万2500円引き下げられはしたものの、調整手当が2万2500円支給されることになったので、受け取る金額は変わらなかった。
■ 調整手当の打ち切り
しかし、約3か月後、X社は、Aさんに支給していた2万2500円の調整手当を打ち切った。
そこで、Aさんは、調整手当と慰謝料を求めて提訴した。Aさんの主張の骨子は、「私が育休を取得したことを理由に、X社は『降格処分という不利益な取扱い』をしており、この対応は育児介護休業法10条(以下「法10条」)に反しており違法である」というものだ。
裁判所の判断
Aさんの勝訴である。裁判所は、「副店長への降格は、育休取得を契機とした『不利益な取扱い』にあたり、法10条に反している」「X社は調整手当と慰謝料100万円を支払え」と判断した。
■ 育児介護休業法が禁じる「不利益な取扱い」
法10条は、下記のとおり、育児休業申出等を理由とした「不利益な取扱い」を禁止している。
【育児介護休業法10条】
事業主は、労働者が育児休業申出等(育児休業申出および出生時育児休業申出をいう。以下同じ。)をし、もしくは育児休業をしたこと(中略)を理由として、当該労働者に対して解雇その他不利益な取扱いをしてはならない。
裁判所は、「副店長への降格処分は、育休取得を契機としてなされており、降格処分は、労働者に不利な影響をもたらす処分なので、原則として『不利益な取扱い』にあたる」と判断した。
■ 「不利益な取扱い」に例外はあるのか?
裁判所は、特段の事情があれば「不利益な取扱い」にあたらないとしている。具体的な判示は以下のとおりだ。
「もっとも、育休からの復帰後の配置等が、円滑な業務運営や人員の適正配置の確保などの業務上の必要性に基づく場合であって、その必要性の内容や程度が、法10条の趣旨および目的に実質的に反しないものと認められる特段の事情が存在するときは、同条の禁止する不利益な取扱いにあたらないものと解する余地がある」
■ 本件に「特段の事情」はあるのか?
結論として、裁判所は「特段の事情なし」と判断した。すなわち、原則どおり、副店長への降格処分は「不利益な取扱い」にあたると認定したのだ。理由は以下のとおり。
- たしかに、Aさんが育休から復帰した直後に店長とすることが事実上困難な場合があることは認められるが、復帰後3か月を経てもなお、Aさんを店長相当職に戻せないほどの事情が存在していたかは疑問である
- 仮に、そういった事情が継続していたのであれば、3か月で調整手当(2万2500円)を打ち切ったことの合理性に疑問がある
- X社は「Aさんには店長として不適格な事情が複数みられた」と主張するが、直近の評価も(比較的高評価である)B評価が続いており、X社が作成したAさんの評価シートのコメントを踏まえても、そのような不適格な事情は認められない
- X社は、Aさんの職場復帰の時期をあらかじめ把握していながら、復帰後の配置ないし労働条件について事前に検討した様子はなく、Aさんへの周知もしていない
以上のような事情を総合考慮した結果、裁判所は「特段の事情なし。すなわち、原則どおり、副店長への降格処分は『不利益な取扱い』にあたり違法」と結論づけた。
■ 慰謝料の算定
調整手当に加え、裁判所はX社に対して、慰謝料100万円の支払いを命じた。算定理由として裁判所は、「裁判に至ってもX社は、Aさんに対する違法な措置をやめることなく、Aさんは、不公正な評価・不当な処遇を受け続けたものであり、その結果、Aさんは、X社における職業生活に絶望して退職するに至った」こと等を挙げている。
最後に
育児休業から復帰した労働者について、会社が直ちに元の役職へ戻せない事情はあり得る。しかし、たとえば「ポストに空きがない」という理由だけで降格を続け、賃金まで引き下げることは許されない。
会社には、育休取得者の不利益とならないよう、復帰後の配置を事前に検討し、原職または原職相当職へ戻す道筋を示すことが求められる。本判決は、育休取得者のキャリアと賃金を不当に失わせてはならないことを改めて示したといえるだろう。参考になれば幸いだ。

