「迷彩服の人が徘徊」被災地で“ニセ自衛官”目撃情報、その目的は? 元幹部が語る「偽物」の見分け方

「迷彩服の人が徘徊」被災地で“ニセ自衛官”目撃情報、その目的は? 元幹部が語る「偽物」の見分け方

熊本県で7月28日に発生した最大震度7の大地震。その被災地で、迷彩服を着用した“偽物の自衛官”が目撃されているようだ。報道によれば、被災者から「自衛隊の格好をしてる人が、ズカズカ家に入ってこようとした」「家をのぞかれた」といった声も聞かれているという。

現状、目的は不明だが、混乱に乗じて被災者を狙った犯罪を企図している可能性も危惧される。

そもそも、自衛官になりすますことは可能なのか。違法性はないのか。“ニセ自衛官”を見破るポイントとあわせて、元幹部自衛官と弁護士に取材した。(ライター・榎園哲哉)

被災地に“ニセ自衛官”…過去の地震でも目撃

国防、国際平和協力とともに、災害派遣を本来任務とする自衛隊は、熊本市で発災直後から現在も、約5100人態勢で救助・支援活動を継続している(防衛省発表、8月17日現在)。

商業施設「イオンモール熊本」(熊本県嘉島町)をはじめ破壊・倒壊したビルや家屋等での人命救助、救援物資の輸送、さらに現在は、被災者への給水や入浴など、生活支援を行っている。

こうした活動の裏で、冒頭のような“ニセ自衛官”の目撃情報が出ているという。

2年前の能登半島地震の際にも、避難者のニーズ調査を装った迷彩服姿の“偽物の自衛官”が目撃され、吉田圭秀統合幕僚長(当時)が会見で「(自衛隊は)組織で動いているので、一人でたとえば孤立地域の家屋を訪ねていくことはない」と述べていた。

迷彩服のレプリカ「外見からは官品との区別はつきません」

そもそも、自衛官になりすますことは可能なのか。

災害派遣の際、第一線で活動する陸上自衛隊普通科連隊(歩兵部隊)の連隊長を務めた経歴を持つ元幹部自衛官A氏(元1等陸佐)は、「官品は迷彩服をはじめ全て退官時に返納します」と説明。原則として、“本物”の自衛官用衣服・備品が出回ることはないという。

一方、迷彩服をはじめとする衣服類、鉄帽(ヘルメット)など備品の類似品(レプリカ)は、ミリタリーショップやインターネット通販で入手できる。

それらレプリカについて、元幹部自衛官は「駐屯地の売店でも売っており、外見からは官品との区別はつきません」と明かす。

こうしたレプリカを身に着け、自衛官になりすます行為に違法性はないのだろうか。

偽物の自衛官「軽犯罪法」に抵触

刑事事件に多く対応する雨宮知希弁護士は、「公務員になりすますこと自体を直接処罰する規定はない」としつつ、「自衛官ではないのに『自衛隊の者です』と名乗る行為や、自衛官の制服や階級章(※自衛官の階級を示す標章)などを無資格で身に付ける行為は、軽犯罪法違反にあたり得る」と指摘する。

「軽犯罪法1条15号は、(ア)官公職などを詐称した者、または(イ)資格がないのに法令で定められた制服・記章を用いた者を、拘留または科料に処すると定めています」

さらに、自衛官になりすまして被害状況を聞き回る行為についても、別の犯罪が成立する可能性があるという。

「ニセ自衛官が現れて住民を混乱させ、自衛隊の正規の活動や自治体・避難所の運営を妨げた、と評価される場合には、偽計業務妨害罪(刑法233条)や威力業務妨害罪(同234条)が問題となり得ます」

また、避難して不在にしている家屋等に、承諾を得ずに立ち入れば、住居侵入罪(刑法130条)が成立し得ると説明する。

偽物の自衛官を“見破る”ポイント

本物の自衛官と“ニセ自衛官”を区別するには、何を確認すればいいのか。

前出の元幹部自衛官は、まず「階級章や部隊章、名札」を確認することを挙げる。ただし、これらも精巧なレプリカがインターネット通販などで販売されており、「見た目だけで本物かどうかを見分けるのは難しい」という。

そのうえで、元幹部自衛官が着目するのが「自衛隊車両」だ。

「周囲に自衛隊車両が止まっているかどうかは見極める大きなポイントになり得ると思います。自衛隊車両は、OD色と呼ばれる、くすんだオリーブ色をしています」

また、自衛隊の災害派遣は、救助活動だけでなく、その後の復旧・生活支援も基本的に「部隊」で行われる。

一方で、災害の状況によっては、自衛官が避難所や被災者宅を個別に訪問して、状況やニーズを確認することもあるという。元幹部自衛官は、2011年3月に起きた東日本大震災の際の例を挙げる。

「自治体や民間企業が壊滅的な被害を受けていたため、自衛官が避難所や在宅避難者宅を個別に訪問し、状況やニーズを確認していました。個別に配達業務まで行っていました」

ただ、「今回の熊本地震でそのような活動を行っているとは聞いていません。公式報告にもありません」と話す。

怪しい人物が来たら…「その場で家に入れない」

迷彩服姿の怪しい人物に声をかけられた場合について、雨宮弁護士は、次のような対応を勧める。

  • 所属・氏名、どこで活動しているかを尋ねる
  • その場で自宅に入れず、避難所の運営者や自治体、警察などに確認する
  • 金銭や個人情報を求められても応じない

災害時には、被災者を支援するため多くの人が地域に入る。その混乱に乗じて被災者を狙う犯罪が起きる可能性もあり、注意が必要だ。

雨宮弁護士は「被害状況、在宅状況、家族構成などを聞き出す行為は、それ自体がただちに重い罪になるとは限りませんが、その後の窃盗、強盗、特殊詐欺などの下見として行われる危険があります」と指摘。

「怪しい人物がいた場合や、少しでも身の危険を感じた場合は、ためらわずに110番通報をしてください」と助言している。

■榎園哲哉
1965年鹿児島県鹿児島市生まれ。私立大学を中退後、中央大学法学部通信教育課程を6年かけ卒業。東京タイムズ社、鹿児島新報社東京支社などでの勤務を経てフリーランスの編集記者・ライターとして独立。防衛ホーム新聞社(自衛隊専門紙発行)などで執筆、武道経験を生かし士道をテーマにした著書刊行も進めている。

配信元: 弁護士JP

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