「グリーン車乗ってたら、こんな人らが座っててイヤホンなしで爆音で映画観てて音うるさいし話し声や笑い声もうるさい」――8月11日、元セクシー女優の霜月るな氏がXに投稿したポストには、新幹線のグリーン車内で、脚をテーブルに乗せ足の裏を前方の座席に付けながらスマホを操作している乗客の姿が映っていた。
霜月氏のポストは、「足!! どんな教育されてきたん?この人」「我慢できなくて注意してしまった!!」と続く。この投稿は1万件以上リポストされて拡散し、ネットニュースにも取り上げられた。
さらに翌12日、霜月氏は「本人?らしき人からDMが来ました」とポストし、「その投稿消してくれませんか?」「何がしたいの?インプ稼ぎ?笑」などと書かれたメッセージ画面を公開。
霜月氏が迷惑行為をしていた乗客に直接注意したことについては、ネット上で「よく注意した」「自分なら怖くて言えない」などと評価する声がある一方、「直接注意せず車掌に相談したほうがいい」といった意見もみられる。
新幹線の車内で迷惑行為に遭遇した場合、乗客はどのように対応するのが適切なのか。また、迷惑行為をしている相手であっても、撮影してSNSに投稿することに法的な問題はないのだろうか――。
刑事法や乗り物に関する法律に詳しい荒川香遥弁護士(弁護士法人ダーウィン法律事務所)に聞いた。
迷惑行為は器物損壊・威力業務妨害の可能性
そもそも、霜月氏のポストに映っていたような、新幹線の車内で大音量で動画を流したり、テーブルに足を乗せたりする行為は、犯罪にあたらないのだろうか。
荒川弁護士によると、テーブルに足を乗せる行為については、器物損壊罪(刑法261条)が成立する可能性があるという。
器物損壊罪における「損壊」には、物を物理的に壊す場合だけでなく、「その物を本来の用途に使えなくする行為」も含まれている。そのため、足を乗せたことでテーブルや座席が汚れ、そのままでは使用できなくなった場合には、同罪が成立する可能性があるということだ。
また、もし乗務員が繰り返し制止したにもかかわらず騒ぎ続け、その対応によって乗務に支障が生じた場合には、威力業務妨害罪(刑法234条)が成立する可能性もあるという。
なお、公共の場における騒音については、民法709条の「不法行為」が問題となり、被害を受けた人が損害賠償を請求できるケースもある。しかし、騒音問題に関する不法行為は、受忍限度(社会生活上、我慢すべき程度)を超えるか否かという枠組みで判断される。
「新幹線での乗車は長くても数時間であり、その程度の時間で『受忍限度を超えた』と評価される可能性は低いため、現実的には慰謝料は認められないと考えられます」(荒川弁護士)
撮影した側が損害賠償を請求されるリスクも
前述したように、霜月氏は迷惑行為を撮影してXに投稿した翌日、本人と名乗る人物から「投稿を消してほしい」とのメッセージを送られたという。
そもそも、この人物が本当に霜月氏が撮影した相手と同一人物であるか否かも定かではなく、ネット上では「愉快犯なのでは」と疑問視する声もある。
もっとも、本件に限らない一般論として「相手が迷惑行為をしていた事実があっても、それを理由に晒してよい、ということにはなりません」「行為を記録して通報することと、その人物をネット上で特定して私的制裁を加えることは、まったく別の問題です」と荒川弁護士は語る。
迷惑行為をしている相手であっても、その様子を撮影してSNSに投稿することは、肖像権侵害などにより損害賠償が請求されるリスクがあるほか、名誉毀損罪などの犯罪が成立する可能性もあるためだ。
「肖像権について、最高裁は『撮影の目的や場所、態様、必要性などを総合的に考慮して、受忍限度を超えるか否かで判断する』としています。
そして、車掌に見せるために相手を撮影する行為と、撮影した写真をSNSに顔が分かる形で投稿する行為とでは、必要性の説明のつきやすさが大きく異なります。
また、『顔が写っていなければ問題ない』というわけでもありません。後ろ姿や服装、『何時発のどの列車か』といった情報が加われば、本人は容易に特定されることから、肖像権の侵害という問題が生じるのです」(荒川弁護士)
そして相手の肖像権を侵害したと認定された場合には、不法行為として損害賠償責任が生じる可能性がある。
また、もし相手の氏名や勤務先、乗車駅などの情報が組み合わさって個人が特定されてしまい、その情報がネット上で広く拡散するところまで進めば、「人格的利益の侵害」と認定され、やはり撮影した側に損害賠償責任が生じるリスクがある。
なお、肖像権侵害や名誉毀損などによって相手の権利を侵害したことが明らかで、「発信者情報を開示する正当な理由がある」と認められた場合には、開示請求を通じて投稿した側の氏名や住所などが相手に特定される可能性がある点にも、注意が必要だ。
名誉毀損罪や侮辱罪が成立する可能性
名誉毀損罪(刑法230条)の成立要件は「公然と事実を摘示し、人の名誉を毀損すること」であり、内容が真実であっても成立する犯罪だ。法定刑は3年以下の拘禁刑または50万円以下の罰金。
ただし、例外として、もし摘示された事実が公共の利害に関する事実であること、目的が専ら公益を図るものであること、内容が真実であることの証明がそろった場合には、その行為は処罰の対象とならない(230条の2)。
しかし、単なる私人が車内マナーに違反して迷惑行為をしている様子を撮影して投稿することについては、上記の条件が満たされて免責されることは期待しにくい。
また、もし相手をあざける表現を投稿していれば、侮辱罪(231条)が成立する可能性もある。法定刑は2022年の法改正で引き上げられ、1年以下の拘禁刑もしくは30万円以下の罰金または拘留もしくは科料だ。
「犯罪が成立するリスクの度合いは、投稿の仕方によって大きく変わります。
証拠として撮影して車掌や警察に見せるだけであれば、問題は生じにくいです。また、本件のように、相手の顔は映さずに事実だけを書く投稿も、犯罪のリスクは比較的低いといえます。
他方、相手の顔が分かる形での投稿、氏名や勤務先まで添えた投稿、罵倒を伴う投稿は、順にリスクが高まっていきます。また、人物を取り違えた場合、責任は最も重くなります」(荒川弁護士)
まずは車掌や乗務員に知らせよう
それでは、新幹線の車内で周囲に多大な迷惑をかける行為をしている乗客に遭遇した場合、周囲の乗客はどのように対応すればいいのだろうか。
弁護士JPニュース編集部の取材に、JR東海の広報は「弊社ではお客様に安心して快適に鉄道をご利用頂けますよう、お客様のご協力を得ながらマナーの定着に取り組んでいるところでございます」としつつ、以下のように回答した。
「車内にて他のお客様のご迷惑となるような行為を認めた際は、乗務員からお声掛けさせていただいております。
車内にてお気付きの点やお困りのことがございましたら、大変お手数をおかけいたしますが乗務員へお申し出ください」
荒川弁護士も「まず、車掌または乗務員に申告してください」と語る。
「鉄道営業法42条1項4号は『車内の秩序を乱す行為があったときには鉄道係員が旅客を車外に退去させることができる』と定めています。対応する権限が法律上与えられているのは、鉄道の係員です。なお、退去させられた客に運賃は返還されません(同条2項)。
また、乗客が直接注意することは、避けるのが無難でしょう。相手が逆上して暴行に及べば、注意した側が危険にさらされるためです。車内に空席があれば、移動を申し出るのも現実的な選択肢となります。
もし相手の迷惑行為によって身の危険が迫っている場合は、車内の非常通報装置を使うことや、必要に応じて110番通報することを検討してください。
そして、撮影する場合は、車掌・乗務員や警察に提出する目的にとどめ、SNSへの投稿は控えるべきです。SNSへの投稿は問題の解決につながらないばかりか、投稿した側が民事・刑事上の責任を負う立場になりかねないからです」(荒川弁護士)

