いつまでも輝く女性に ranune
「そろそろ結婚した方がいいのかな」毎年、誕生日のたびに頭をよぎる30代女性の切実な思い

「そろそろ結婚した方がいいのかな」毎年、誕生日のたびに頭をよぎる30代女性の切実な思い

◆前回までのあらすじ
セレブ専業主婦の愛梨(37)、バリキャリ共働き夫婦の由里子(38)は、子どもの習い事が一緒で友人関係に。まりか(38)は、起業家兼ピラティスインストラクターで、由里子とは昔の飲み友達。愛梨は夫の不倫疑惑、由里子は夫とのレス、まりかは恋人未満の颯斗との関係を終わらせたばかり。それぞれが悩みを抱えるなか、久しぶりに3人で集まることになり…。

▶前回:「離婚できない…経済力がないから」麻布十番在住、37歳セレブ妻の苦悩



専業主婦なのに、高級ジュエリー買える人が羨ましい:
由里子(38歳)大手生命保険会社勤務


水曜の昼間。

私は、愛梨とまりかに会うため麻布台にあるホテルのラウンジを訪れた。ふたりに会うのは六本木のパーティー以来。

「有給休暇を取るから、3人で集まらない?」とグループLINEに提案をしたら、愛梨がここを予約してくれたのだ。

「昼間に集まれるのって、なんかいいよね。土日に比べて街も空いてるしさ」とまりか。

「そうだね…すごく新鮮」

私は答えながら、ソファ席に腰掛ける。

窓からは東京タワーが見え、天井の高い店内には、午後の陽射しが差し込んでいた。

有休を取ったのは、会社の先輩の成瀬に「子どもの急病だけじゃなく、たまには自分のために休めば?」と言われたからなのだが、私には、こういう時間も必要なのだろうとしみじみ思う。

しかし、愛梨にとってこれはただの日常なのだろう。表情を変えずにメニューを眺めている。

「せっかくだから、ボトルでシャンパン頼んじゃうね。ふたりには心配かけちゃったし、今日は私にご馳走させて」

ずっとメニューを見ていた愛梨が微笑み、私とまりかの返事を待たずに、彼女はスタッフに声を掛けて注文した。

愛梨がセレクトしてくれたシャンパーニュが席に運ばれ、私たちは乾杯をする。

「愛梨ちゃん、この前のこと結局どうなった?前に旦那さんがマッチングアプリを使ってるかもって相談してくれたよね。それとも関係あるのかなって、昨日思い出したんだけど」

私がそう切り出すと、愛梨は一瞬、目を伏せた。


「うん……その通り。最初は知り合いの社長が“お店で働いていない女の子”を飲みの場に呼んでくれって頼まれて、アプリを登録したみたいなんだけど。夫のことを気に入ったメイって子に、食事に誘われたんだって。あの日私が十番の商店街で見たのもたぶんその子」

それだけ言うと、愛梨はグラスを手に取りゆっくりと口に含む。

「それで?その子とは、その…男女の関係だったの?」

私が重ねて聞くと、愛梨は静かに首を振った。

「わからない。夫も本当のことは言わないだろうしね。もう、終わったことだからいいの。ふたりとも相談に乗ってくれてありがとね。ほら、飲もうよ!」

“それ以上は聞かないで”と彼女の顔には書いてあった。

「あ、トリニティ。それ、使いやすくていいよね」

ふいに愛梨が私の右手を見て言う。

「うん、夏のボーナスで買ったの」

6月末に出た賞与の半分は、娘の将来のために学資保険とNISAにまわして、夫のボーナスは住宅ローンに消えた。

残った半分を「たまにはいいよね?」と、何度も自分に言い聞かせてカルティエに足を運んだのだ。

「そうなんだ!私も何年か前に買ったよ。その後すぐ値上がりしたの。最近どのブランドも値上がり激しくて、ホント嫌になるよね〜」

「うん…そうだね」

何げない会話のはずなのに、愛梨の言葉が心にひっかかってしまう。

私のは、正真正銘、働いた証としての“ご褒美リング”で、愛梨のは旦那さんに買ってもらったもの。だからなのだろうか。

褒めてもらったのに素直に喜べないまま、愛梨の指先に目を落とすと、前回にはなかった左手の薬指に、リボンモチーフのダイヤリングが光っていた。



シャネル… ?いや、そのデザインはグラフだった気がする。すると、値段は数百万円。

「……」

彼女と自分を、比べてはいけない。

愛梨は年上の経営者との結婚を選び、私は共働きする未来を覚悟で今の夫を選んだのだから。

けれど、無意識のうちに悔しさと嫉妬が私の中でじわじわと膨らんでいくのが自分でもわかった。

そんな自分が嫌で、とっさに話題を変える。

「そういえばこの前会社の先輩とふたりで飲みに行ったんだけど、代々木上原のワインバー。おしゃれでワインのセレクトもよかったから今度行こうよ」

夫とケンカして成瀬と飲みに行った日の話だ。店の提案をしたつもりだったのに、話が思わぬ方向にいってしまう。

「その先輩って…女?男?どっち」とまりかがニヤニヤしながら聞いてきたのだ。嘘をつく必要もないので正直に答える。

「男の先輩。同じマーケ部署なんだけど、頭の回転が速くて私が考えもしないようなアイディアをポンポン出すの」

“男”と言った瞬間、愛梨の眉がピクリと動いたのを、私は見逃さなかった。

「あ、もちろん何もないよ?ただ、久々にひとりの女性として扱ってもらえた感じがして、嬉しかったっていうか…純粋に楽しかったんだよね」

「へぇ……。由里子ちゃん、旦那さんに何て言って家を出てきたの?会社の先輩とふたりで飲んでくるねって?」

愛梨の声に、小さなトゲが見えた気がした。

「いや、仕事のトラブルだって嘘ついちゃったけど。それは余計な心配をかけないためであって…」

私が言い訳をすると、愛梨は口をつぐむ。

― ヤバい。他の女性と会っていたという愛梨の夫の話の直後に、この話はまずかったよね。

私は反省したが、時すでに遅し。変な沈黙が訪れる…。

外で働いていない愛梨には、異性と関わることはほとんどないはずだし、ふたりで食事することなど真面目な愛梨はしないだろう。

その時だった。

「ねえ、ちょっと話変えていい?……私さ、卵子凍結しようと思ってるんだよね」

まりかが、フレンチフライにたっぷりとわさびクリームをつけながら、明るい声を出した。


「え?」

思わず、私と愛梨はふたりしてまりかを見た。

「今すぐに、子どもが欲しいってわけじゃないんだけど、私、もう38歳になっちゃったしさ。金額もね、年1の海外旅行を1回減らすくらいの感覚なのよ。しかも都の助成もあるし、今なんて分割払いやサブスク型保管まであるから、そんなに身構えることでもないのかなぁって」



子どもがいる私がなんて声をかけていいのかわからず、一瞬、沈黙が流れた。それは愛梨も同じだったみたいだ。

けれど、まりかの言葉に私は救われたような気がした。

誰もが見えない不安や心の奥にある本音を抱えながら、表面を取り繕って必死に生きている。

「あのね。私も卵子凍結…あ、受精卵凍結か。考えたことあるよ。夫は今すぐにでも二人目が欲しいらしいんだけど、私はまだいいかな…って。もちろん“まだ”って言える年齢ではないのもわかってるんだけど、圭太が幼稚園に行ってくれてやっと自分の時間ができたから。って、内緒ね。ふたりにだから言っちゃう」

愛梨が言った後で、私も続いた。

「実はね、私…もう二人目は無理かなぁって。実はさ、レスなんだよね」

「そうなの!?それは旦那さん、もったいないことしてるなぁ。こんなにイイ女なのにっ」

「本当だよ〜。でもさ、今はお互い忙しいから…っていうのもあるかもよ」

まりかが明るく言い放ち、愛梨も言葉を選びながら、慰めてくれた。



私が「ありがとう。もう一回乾杯しよう」とグラスを持ち上げると、愛梨とまりかもグラスを持った。

「私、ふたりとはずっと友達でいられる気がする…」

「うん。だからパーティーの時言ったんだよ。私たち、ずっと友達でいようねって」

「ちょっと、こっちが恥ずかしくなるんですけど!君たち、何歳よ。女子高生なの?」

とまりかが笑ったと思ったら、急に真顔になった。

「あ。忘れてた。私、颯斗とさよならしたんだよ。その話していい?」

「え!!」
「そうなの?」

まりかの卵子凍結発言で、これまでの空気が変わり3人の気持ちがカチッとハマったような気がした。



▶前回:「離婚できない…経済力がないから」麻布十番在住、37歳セレブ妻の苦悩

▶1話目はこちら:「男の人ってズルい…」結婚して子どもができても、生活が全然変わらない

▶Next:10月8日 水曜更新予定
卵子凍結を検討していると言ったまりかだが、恋愛関係で急展開が…!?


配信元: 東京カレンダー

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