夏休みの帰省や旅行で利用した人も多いだろう。「レンタカー」や「カーシェア」をめぐって、SNSでは「禁煙車での喫煙行為」を指摘する投稿がたびたび物議をかもしている。
一部喫煙可能な車両を貸し出している会社もあるが、大手レンタカー会社ではほとんどの車両が禁煙車として運用されている。しかし、「レンタカーでタバコを吸っている人がいる」「禁煙車を借りたのにタバコ臭い」といった目撃談や利用者の不満が後を絶たない。
あるX(旧Twitter)ユーザーは、前を走るレンタカーが窓を開けてタバコを吸っている様子を写真付きで投稿。「後ろに灰飛ばすのやめてくれないか」と不快感をあらわにした。
喫煙に及ぶ利用者には「禁煙車でも窓を開ければ大丈夫」「電子タバコ・加熱式タバコなら匂わない」といった認識があるかもしれない。禁煙車でタバコを吸うと、どのような責任が生じるのか。レンタカー会社と弁護士に取材した。
レンタカー会社「窓を開けてもNG」
レンタカー会社は禁煙車での喫煙をどのように規定しているか。
「タイムズカー」を展開するパーク24と、大手レンタカー会社(B社)が弁護士JPニュース編集部の取材に応じた。
まずタイムズカーでは、全車を禁煙としており、貸渡約款で車内での喫煙を明確な禁止行為と定めている。担当者は「電子タバコ、加熱式タバコも紙タバコと同様に禁止としています。また、窓を開けての喫煙も禁止行為に含まれます」と話す。
一方のB社も「利用規約において、禁煙車内での喫煙は全面的に禁止しております。紙巻タバコだけではなく、加熱式タバコや電子タバコ等、あらゆる喫煙行為が含まれます。また、窓を開けての喫煙につきましても、車内に匂いや成分が付着・残留する原因となりますため、一律で禁止しております」と回答。
では、禁煙車内での喫煙が発覚した場合、どのような対応が取られるのか。
喫煙は主に、返却時のスタッフによる車内確認(匂いや吸い殻、灰の有無)で発覚するという。それ以外にも、後から利用した客の「タバコ臭い」という申し出や、第三者からの通報がきっかけになることもあると両社の担当者は説明する。
「タバコの臭いや成分の定着状況により異なりますが、専門業者によるオゾン脱臭作業やシート・天井等の特殊洗浄を行う場合、数日から1週間以上を要するケースがございます。その間、該当車両は営業運用から外す必要が生じるため、機会損失として影響がございます」(B社)
こうした事情から、両社ともに喫煙が確認された場合には、利用者に車両の原状回復費用や営業補償(NOC)を請求することがあると回答した。また、タイムズカーは「貸渡約款に基づき会員資格を取り消した事例がある」とも明かした。
「知らなかった」は通用せず 禁煙車で喫煙、法的責任は?
気になるのは、利用者が「禁煙車であることを知らなかった」など、禁煙車での喫煙に故意がなかった場合だ。原状回復費用やNOCの支払いを拒めるのだろうか。
刑事・民事事件に多く対応する荒川香遥弁護士(弁護士法人ダーウィン法律事務所代表)は、「拒めません」と一蹴する。
「レンタカーの借主には、契約で定めた方法に従って車を使用する義務があります(民法616条、594条1項)。禁煙車での喫煙は、この契約上の義務に違反する行為です。そのため、原状回復費用やNOCについて、債務不履行に基づく損害賠償として請求されることになります(民法415条1項)。
借主に責任のない事情によって契約上の義務が果たせなかった場合には免責されますが、禁煙車であることを確認せずに喫煙するなど、不注意(過失)があれば責任を負うことになります。『禁煙車だと知らなかった』という場合も同様で、約款を読んでいなかったことだけを理由に責任を免れることはできません」(荒川弁護士)
「窓を開けた」配慮は減額理由になるか?
では、「窓を開けて吸うなど、匂いがつかないよう配慮していた」という主張は、ペナルティの減免につながるだろうか。
荒川弁護士は、「各レンタカー会社の“禁煙条項”は臭いを付けるなという趣旨ではなく、喫煙という行為自体を禁じるもので、窓を開けていたかどうかにかかわらず、義務違反に変わりはありません」と話す。
一方で、支払わなければならない原状回復費用やNOCの額は、約款の作り次第で変化する可能性があるという。
「実費を請求する型の約款であれば、賠償の範囲は通常生ずべき損害に限られ(民法416条1項)、損害の発生と額は請求する側が立証しなければなりません。請求された側からすれば、実際に脱臭作業が必要だったのか、休業日数として計上された日数が実態に見合うのか、といった点を争う余地はあると思います。
これに対し、喫煙が判明した場合は一律いくら、と定める型の約款は、賠償額の予定にあたります(民法420条1項)。この場合は実損害の大小を問わず定額を請求できるのが原則で、窓を開けていたという事情は減額の理由になりません」(荒川弁護士)
保険加入でも…見逃しやすい「落とし穴」
ここまでの話は、借主本人が禁煙車で喫煙した場合だ。本人が吸っていないケースはどのように判断されるのか。
たとえば、同乗者が車内で喫煙したケースついて、荒川弁護士は「同乗者に禁煙ルールを伝えていなかったこと自体が、借主の落ち度と評価され、責任を借主が負うことになる」と説明する。
さらに借主が注意しておきたいのが、事故などに備えて加入する「免責補償制度」についてだ。補償に入っていれば、原状回復費用やNOCを請求されても安心と思いがちだが、喫煙による損害まで補償されるとは限らない。
「多くの約款は、約款に違反する使用があった場合を免責の対象外としています。保険に入っているから安心という感覚が最も危ないところで、違反が判明すれば全額が自己負担になり得ます」(荒川弁護士)
ひとときの満足感を得るための一本が思わぬ出費の火種にならないよう、タバコを我慢できない人は喫煙可能な車両を前もって予約しておくべきだろう。

