「自社のドライバーが休憩を取らずに残業60時間…このままでは500万円の未払い賃金が発生してしまう」深刻な労災を防ぐために経営層が早期にチェックすべき〈5つの項目〉【社労士が解説】

「自社のドライバーが休憩を取らずに残業60時間…このままでは500万円の未払い賃金が発生してしまう」深刻な労災を防ぐために経営層が早期にチェックすべき〈5つの項目〉【社労士が解説】

労務問題の見えないリスクを根本から除去するためには、測定(M)で可視化し、統制(C)で構造を変え、報告(R)で経営判断につなげ、改善(I)で回す「MCRIサイクル」が重要です。そこで今回は、金山杏佑子氏の著書『対話でわかる「経営労務」』(中央経済社)より、このなかからMCRIサイクルの出発点である「M(Measure)」の実践方法について解説します。架空の会社「ヨルベロジスティクス社」の経営会議をもとに見ていきましょう。

〈登場人物〉

加藤社長:10年前に創業者の父から事業を承継した代表取締役。取引先の要請に応じた事業拡大により、組織運営に課題が生じている。組織的歪みに危機感を覚える一方で、ここを乗り越えれば会社が変わるという思いがある。経営労務に主体的に取り組みたいと考えている

林労務責任者:現場の実情に詳しく、労務の重要性を誰よりも理解している。しかし、それを経営層にわかりやすく伝えられず、さらに経営と労務の距離が開く悪循環に悩んでいる。現場出身で実務には精通しているが、経営視点で労務を扱える機会はこれまで少なかった

田中監査役:経営と現場の橋渡し役。加藤と林の対話が噛み合わない時に理解を促進する

山下顧問:豊富な経営経験を活かし、外部の視点から同社が社会の変化に対応できるよう助言する。MCRIサイクルによる体系的アプローチを導く

【EXECUTIVE SUMMARY】

労働時間リスクは、3つの本質すべてに関わる。過労死なら安全配慮義務違反で数千万円の賠償、未払残業なら簿外債務が顕在化、人員不足なら雇用の硬直性(採用にも解雇にも制約がある)で機動的な対応が困難になる。ここでは、36協定、過労死ライン、働き方改革を整理し、「何を測るべきか」という経営判断の重要性を示す。測定はMCRIサイクルの出発点だ。ヨルベロジスティクス社は、5つのコア指標(残業時間、月80時間超え、特別条項、休憩取得、有給取得率)を測ることから始めた。完璧なデータは必要ない。現状把握が第一歩だ。

従業員の労働時間管理を「労務の本質3つ」に照らして整理すると…?

ヨルベロジスティクス社 経営会議

加藤社長:労働時間管理前回、林さんに3つの観点※で報告をお願いしました。労働時間管理について、どう整理できましたか?

※ 労務の3つの本質である(1)日本型雇用の制約の特殊性を理解すること(2)安全配慮義務を履行すること(3)簿外債務リスクを制御すること

林労務責任者:はい。前回の方針に従って、3つの観点で整理しました。

安全配慮義務:ドライバーの平均残業時間が月48時間、ピーク時には月60時間を超える者が10名います。過労死ラインに近づいており、健康リスクが懸念されます。

簿外債務:休憩時間が実質的に確保できておらず、未払賃金が年間約500万円発生している可能性があります。

雇用制約:ドライバーをすぐに採用することは難しく、繁忙期と閑散期の業務量の変動への対応が課題です。

加藤社長:なるほど、3つの観点で整理すると、問題の重要度がよくわかります。ただ、この報告を聞いて、疑問が湧きました。ドライバーは配送の途中で休憩を取れるルールになっていますよね?

林労務責任者:それが、実態としては、休憩時間中に配送先から電話が来て対応していたり、荷物の積み下ろしで休憩が取れなかったりするケースがあります。タイムカードには「休憩1時間」と記録されていても、実際には…

加藤社長:つまり、タイムカードと実態が乖離している可能性がある。それでは、私たちは何を測っているんでしょうか? また、部署によっては「人手が足りないのにどうやって残業を減らせというんですか」という声も聞きます。数値では見えない現場の疲弊感も、気になります。何を測れば、本当の問題が見えるのでしょうか。

労働時間管理でチェックすべき「5つ」の項目

山下顧問:社長の疑問は2つありますね。「何を測るべきか」と「どう正確に測るか」です。

まず、労働時間管理には、最低限チェックすべき指標があります。例えば、この5つから始めてはどうでしょうか。

1.月の総残業時間(部署別、個人別)

2.残業時間が月80時間を超える社員の数

3.36協定の特別条項の発動回数

4.休憩時間の取得状況

5.有給休暇の取得率

田中監査役:完璧なデータは必要ありません。測定していくうちに、「どこに乖離があるか」が見えてきます。

加藤社長:わかりました。林さん、次回の経営会議で、この5つの指標を報告してください。どこに乖離がありそうか、気になる点も合わせてお願いします。

林労務責任者:承知しました。何を測るべきかが明確になりました。

山下顧問:測定(M)が始まれば、次は統制(C)です。結果を見て、どう対策するか。それを経営会議で決めていきましょう。

金山 杏佑子

社会保険労務士事務所ヨルベ

代表社会保険労務士

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