35年働き年金“手取り月10万円”…83歳女性の受給額が「生活保護未満」のワケ “国際機関”に告発

35年働き年金“手取り月10万円”…83歳女性の受給額が「生活保護未満」のワケ “国際機関”に告発

「35年も働いたのに、手取りは月10万円ほど」——。千葉県に暮らす高橋芙蓉子さん(83)は、高所恐怖症で足が震えても、高所でのペンキ塗りをこなしてきた。「厚生年金のある仕事」にこだわって働き続けた35年。それでも受け取る年金は月10万円ほどにとどまる。

「残業したって偉くなんかなれない」職場でそう言われたこともあったと、高橋さんは振り返る。全日本年金者組合は8月19日、都内で会見し、こうした女性の低年金について、是正を求める情報提供を国際労働機関(ILO)に対し行ったと明らかにした。

金遣いの荒い夫と60歳で離婚

高橋さんが3歳のとき、父親を事故で亡くした。母親は女手一つで5人の子を育て、子どもが独立した後も働き続けたが、姉に孫の世話を頼まれて仕事を辞めた。

「あの時辞めなければ、もっと年金をもらえたのに」母がそう後悔を口にしていたのを、高橋さんはずっと覚えているという。

高橋さん自身は29歳で見合い結婚した。理由の一つは「女性は一人では生活ができないから」だったと振り返る。だが夫は金遣いが荒く、言葉の暴力もあった。「いつどうなっても自立できるように」と、パートの多い事務職ではなく、厚生年金のある肉体労働を選んだ。

老人ホームの厨房では18年間働いたが、家事の手伝いを頼むと、夫からは「俺より給料を取るようになってから物を言え」という言葉が返ってきたという。

5歳年上の夫が先に仕事を離れ、その5年後に高橋さんも職場を去った。「小遣いを1万円減らして」と頼むと夫は家を出て、60歳で離婚に至った。慰謝料はなく、頼れるのは自分の年金だけだった。家賃や社会保険料、公共料金を払うと食費はぎりぎりで、離婚時の蓄えを少しずつ取り崩して暮らしていると訴えた。

生活保護以下の年金も

全日本年金者組合側は、高橋さんの月10万円は決して極端な例ではないとしている。

厚労省の資料によると、老齢年金の月額が10万円未満の受給権者は、男性の31.73%に対し、女性は81.31%(1652万5147人)に上る。月5万円未満に限っても、男性の6.42%に対し女性は20.4%(414万7466人)を占める。

高齢単身世帯の生活保護費は月13万1680円(2025年6月時点)。掛け金を納めてきたはずの年金が、この水準を下回る人が女性に偏っている。組合は、全国39地裁・5000人超の年金引き下げ違憲訴訟を通じて女性の低年金が浮かび上がったとして、国際機関への働きかけを続けてきた。

ILOに「3つの条約違反」 情報提供

高橋さんのような低年金を、組合は3つの条約違反として国際機関に持ち込んだ。国際労働機関(ILO)の条約勧告適用専門家委員会に追加情報を提出したもので、廣岡元穂副中央執行委員長が中身を説明した。

一つ目は、社会保障の最低基準を定めた102号条約。日本政府は年金水準の目安となる所得代替率(現役世代の手取りに対する年金額の割合)を算定する際、ボーナスを含めていないが、ボーナスを含めて計算すれば40%を下回り条約に違反する、と組合は訴える。

2024年12月の審査を経て、ILOは政府に「直接請求」(説明を求める手続き)を出した。事務局はボーナス除外に疑問を示し、給付の切り下げには十分な根拠と代替手段の検討が必要だと求めたという。

二つ目は、同じ価値の労働には男女で同じ賃金を、と定めた100号条約(1951年)。組合によれば、女性の賃金は男性の約7割にとどまり、それが年金額の算定基礎となる標準報酬月額に反映され、女性の低年金を生む。「雇用形態の差異を装った間接差別だ」と主張する。

三つ目は、家族的責任を有する労働者条約(156号、1981年)。介護や看護を理由とした離職者は1年間で約10万6000人に上り、その約75%を女性が占める。出産・育児・介護の負担が女性に偏り、就労の中断がそのまま低年金につながっていると指摘した。

ILOは3月13日、組合の情報提供を受領した。日本政府の回答とあわせ、今年11〜12月の専門家委員会で審査される見通し。

また、組合ではこの日、高橋さんの国連ビジネスと人権ワーキンググループ(企業活動に伴う人権侵害を調べ、政府に是正を促す専門家グループ)にも、高橋さんの事例を人権侵害として告発した。

高橋さんは会見で「みんなが安心して生活できる年金制度を、1日も早くつくってほしい」と述べた。

配信元: 弁護士JP

あなたにおすすめ