「10時間」では足りない
──「こども誰でも通園制度」を2年間実施してみて、制度に課題は感じましたか?
月10時間では保育士の専門性を発揮しきれないと感じます。上限が月10時間だと、1回2.5時間の場合は月4回、5時間なら月2回しか預かれませんよね。保育士の仕事は子どもとの継続的な関係性のなかで、より効果を発揮できるものなので、子どもの育ちの観点からはせめて月20時間くらいまでは広げてほしいというのが正直なところです。
また、保護者のレスパイトの観点でも、家と園の往復にも時間がかかる場合、1日数時間の利用だと効果を感じにくくなってしまいます。
──2026年度から全国で実施が始まります。運営面での懸念事項はありましたか?
事務的負担の増加です。保育計画の月案なども作成するので、負担は確実に増えています。保育士は常に子どもたちに対応していて忙しいので、事務的負担をなるべく軽減できるフォーマットづくりが必要だと感じています。
また、経済面での課題もあります。空き枠の利用は、認可定員が埋まった場合ほどの収入はありません。関わる子どもの延べ人数が増えて、やることは増えるのに収入面でのメリットは限定的というのが現状です。多くの保育園が前向きに取り組める環境整備が必要です。
保育士の“誇り”高めるきっかけに
──こども誰でも通園制度が実施されることで、保育士にはどんなメリットがありますか?
新制度は保育士が今以上に、誇りを持って仕事ができるきっかけになると考えています。これまで光が当たらなかった「無園児」家庭の子育てに、保育園や保育士が貢献できるということはすごく意義深いことです。
制度の主眼は子どもにあります。単なる保護者のレスパイトではなく、子どもにいろんな人と関わる機会を提供し、成長に貢献します。保育士として在園児だけでなく、地域社会の子どもたち全体のためにも貢献できる。そう考えれば、この制度の意義を理解できるのではないでしょうか。
──地域での役割が増す制度になりそうですね。最後に今後こども誰でも通園制度に取り組む人へのメッセージをお願いします。
開始前は漠然とした不安があるかもしれませんが、新制度も普段の保育の延長線上かなと思っています。子どもを育む、成長を促す、発達を考えるというのは、保育士がいつも頑張っていることなので、利用時間や頻度が変わっても、思っていたほど大変ではないというのが実感です。
むしろ、保育士の仕事がすごく大変で意義深いことなんだということを、改めて認識できる機会になると思います。制度に課題が出てくるかもしれませんが、地域全体で子育てを支える新たな保育のかたちとして、保育士の役割がより一層重要になっていくきっかけになればいいなと考えています。
取材協力:認定NPO法人フローレンス
参考
こども家庭庁|こども誰でも通園制度について

