本屋が“1万店割れ”で4割が赤字…原因は「デジタル化」だけではない、元店長が明かす“業界の歪み”

本屋が“1万店割れ”で4割が赤字…原因は「デジタル化」だけではない、元店長が明かす“業界の歪み”

全国の書店数が9993店となり、調査開始以来初めて1万店を下回った。帝国データバンクの調査によれば、その約4割が「赤字」に陥っており、2016年度以降に倒産や休廃業で市場から退出した書店は累計610社に上る。「本屋が消えている」という言葉はもはや比喩ではない。

数字で見る書店の現在地

書店市場の縮小が叫ばれて久しいが、その原因は長期にわたる構造的な問題の蓄積にある。

帝国データバンクの調査によると、2025年度の書店市場(事業者売上高ベース)は1兆400〜700億円と1兆円台をかろうじて維持する見通しだが、2015年度の約1兆4000億円と比べると約2割の縮小。このペースが続けば、数年以内に1兆円を下回る可能性もある。

業績の内訳を見ると、状況はさらに厳しい。2025年度に「増収」となった書店の割合は13.8%と、2年ぶりに10%台に落ち込み、新型コロナウイルス禍以降で最も低い水準となった。「前年度並み」が58.9%と過去20年で最高を記録した一方、「減収」は27.3%と5年ぶりに上昇するなど、売上の頭打ち感は強まるばかりだ。

また、一般社団法人日本出版インフラセンターの調査では、2025年度末時点で新刊を取り扱う書店がひとつもない「無書店自治体」が全国の区市町村の4分の1以上に及んでいる。すでに3割以上の市区町村に書店がない状態ともいわれており、地方と都市部の間で本に触れる機会の格差が広がっている。

衰退の背景にある、構造的な問題

書店減少の原因としてよく挙がるのが「出版不況」「デジタル化」「人口減少」「活字離れ」というキーワード。もちろんこれらの影響は無視できないが、問題の核心はより深いところにある。

書店が「構造的に儲かりにくい」業態であることは、業界内部では以前から知られてきた。書店の書籍販売の粗利率は約22〜23%程度と低く、そこにテナント賃料の重い負担と最低賃金引き上げによる人件費増が重なり、経営を圧迫。さらに書籍の返品率は約3割にも上り、その返送コストも小さくない。

こうした収益構造に加え、日本の出版流通の仕組み自体も大きな制約となっている。出版社が定価を指定し、書店はそれを変更できない「再販売価格維持制度(再販制度)」(現在は出版社の意志により、再販指定ができる「部分再販」、一定期間後はその指定を外すことができる「時限再販」もある)。これは、本来は独占禁止法違反となる再販売価格維持行為が、著作物は例外として認められているもので、ある意味で書店を守ってきた側面もある。

売れなかった本を返品できる「委託制度」も販売上のリスクを抑え、長年にわたって業界を支えてきた。

しかし、これらの仕組みはネット書店の台頭や物流コストの変化に対応できておらず、書店の経営を硬直化させる一因ともなっている。

一方で、海外に目を向けると異なる流通モデルや政策が機能している例もある。

フランスには書店の送料無料を制限する「反アマゾン法」があり、街の書店を守る仕組みが整っている。ドイツでは、書籍の注文が翌日には書店に届くような流通体制が確立されており、リアル書店の利便性を高める工夫が施されている。

日本のネット書店が注文翌日には届けられるのに対し、リアル書店での注文は数日から数週間かかることも珍しくない現状とは対照的だ。

政府・自治体が動き始めた

こうした状況を受け、国も行政も動き始めている。

経済産業省は書店振興のプロジェクトチーム(PT)を設置し、出版産業における返品削減研究会で、出版社や書店がICタグ関連機器を導入する際の補助を創設。取り次ぎの実態や適正な原価設定、物流の効率化を踏まえたサプライチェーン全体での価格転嫁のあり方を検討しているほか、小規模書店の経営の重荷となっているキャッシュレス決済の手数料問題などにも取り組む姿勢を示している。

自治体レベルでの取り組みも始まっている。鳥取県では、県立図書館に置く本を原則として県内の書店から購入する「鳥取方式」を導入し、地元書店を下支え。

島根県大田市では、一時「無書店自治体」となった危機感から、10年間で最大5500万円の補助を出して書店を誘致し、6月にショッピングセンター内に県内の今井書店がオープン、街に書店が戻った。

また、東京都狛江市では住民の働きかけがきっかけとなり、書店が再オープンした事例もある。

大日本印刷株式会社が提案する「Re文庫(リブンコ)」も注目を集めている。従来の委託制度ではなく、書店が主導して発注する「買い切り制度」を主体とし、出版社に眠る過去の名作を書店員自らが選んで小ロットで印刷・限定販売する仕組みだ。販売価格を書店側が設定できるため、人気の本を高く売ることも、売れ行きが鈍ればその後の値引き販売も可能となる。

元書店店長が語る「現場のリアル」

現場を知る人間の目には、こうした厳しい状況はどう映っているのか。総合書店での店長経験20年などがあり、現在ライターとしても活躍する鈴木毅氏は、書店経営の構造的な問題の予兆について、1996年をひとつの転換点として挙げる。

「2000年以降のインターネットの普及で日常の娯楽や必要な情報の取得が雑誌だけに頼ることが少なくなっていき、社会的に情報の取得先が多様化・変化した。

それまで売り上げ構成のうち約50%以上を雑誌・コミックが占めていた多くの町の書店にとって、毎週・毎月発売される雑誌を買いに来る読者が減ることは、雑誌以外の書籍などの商材の売り上げも下がることにもつながる」

さらに鈴木氏が問題の根源として指摘するのが、仕入れのコントロールの難しさだ。

「取次は新刊配本などの仕組みにより書店に商品を自動で送るため、書店は意図しない仕入れが多く、仕入れ金額の把握とコントロールがとても難しい。取次の請求書は複雑であり、初めて見た人はまったく読み取ることができないと思う。こうした書店の会計をもっとわかりやすくすることは、書店が手を打つための行動をする前提として現在でも最も必要なことだと思っている」

大手書店を中心に進む「粗利益率30%を目指す」改革の動きについては、一定の評価をしながらも懐疑的な見方を示す。

「すでにいくつかの書店では出版社との直接取引で粗利30%前後で仕入れる契約をしているところがあるが、条件としては主に『買い切り』となっている。仕入れが目的ではなく、販売して初めて利益になる。

売れなかった場合、現在の再販制度では書店が本の販売価格を変更することができないため、値引き販売して仕入れのリスクを最小化することができない。

再販制度の見直しと、書店が本の販売価格を自由に決められる仕組みがセットにならないと、直取引で粗利30%・買い切りは売れ残るリスクのない限定品や予約商材に限られる」

カフェやホビーへの転換という近年の潮流についてはどのように評価しているのか。

「ビジネスである以上『あるべき書店の姿』という曖昧なものに固執してしまうと、早晩書店は無くなるだろう。

あくまで書店は『商売』『小売業』なので、カフェやホビーに業態が変化することはそれぞれ小売業として生き残る手段だと考える」

そして、「本屋のない街」で私たちが失うものについて、鈴木氏はこう語る。

「本の存在を意識しなくなれば、本を買うことも、本屋に行くことすらも行動の選択肢でなくなってしまう。

私が書店から離れてもっともショックだったのは、『社会全体が本の存在をあたりまえに感じ、皆が意識している』という認識が、書店・出版業界の中だけの思い込みだったことだ」

書店の復権はあるのか、そしてどんな進化の道があるのか

消える書店がある一方で、生き残り、新たな形を切り拓こうとする書店もある。カフェの併設、特定ジャンルに特化した専門書店、著者とのトークイベントや読書会の開催——これらはいずれも、「本を売る場所」を超えた書店の新たな存在意義を模索する試みだ。

コンビニエンスストアや異業種との「MIX」という形で本に触れる接点を増やす動きも広がっている。

帝国データバンクの調査が指摘するように、中小書店を中心に1坪あたりの収益性が高いホビー領域への参入といった「非書籍ビジネス」への転換が進む。これは「紙の本を売るビジネスモデル」が岐路に立たされていることの現れだが、同時に、書店という場が持つ集客力や空間的な可能性を活かす試みでもある。

鈴木氏はその将来像をこう見通す。

「多くの読者の需要を受け持つ大手チェーンが広範囲の地域の読者の拠点になり、その中で地域と深く関わる小書店(個人・セレクト・独立系も含めて)が生き残るのではないか。大病院と診療所のようなイメージだ」

そのうえで「出版業界もまた、これからも人々が本という存在を意識し続けられるよう、社会的にアピールし続けてほしい」と力を込めた。

■鈴木毅(すずきたけし)
元書店員。書店員歴25年。総合書店で店長を20年。2017年に転職しコンセプト系書店の立ち上げと運営に携わる。本のほか、文具・CD・カフェ・ミニシアター運営などを経験。2020年から書評・インタビューなどのライター兼、版元ドットコムに籍を置く。

配信元: 弁護士JP

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