有印私文書偽造・同行使などの罪で起訴されている静岡県伊東市の前市長・田久保真紀氏の代理人を務める福島正洋弁護士(東京弁護士会所属)について、市民グループが8月19日、「卒業証書」とされる文書を弁護士事務所の金庫で保管し続けた行為が証拠隠滅罪に当たるとして、東京地方検察庁に告発状を提出した。
なお、同日付で、福島弁護士が所属する東京弁護士会に対しても懲戒請求を申し立てている。
記者会見に臨んだ告発人の関川永子氏と告発代理人の浦川祐輔弁護士は、「押収拒絶権の行使」という法的権利が、実質的な証拠隠匿の手段として機能しているのではないかと訴えた。
学歴詐称疑惑から「文書偽造」の問題へ発展
事の起こりは2025年5月、田久保氏が伊東市長選挙で当選したことに遡る。
選挙時に提出した経歴調査表に「東洋大学法学部科卒業」と記載していたが、実際には除籍処分を受けていた。
5月下旬、市議会議員全員に匿名の投書が寄せられ、「卒業証書の偽造には注意を」との警告が書かれていた。これを受け、同月4日、中島弘道議長と青木敬博副議長が田久保氏に説明を求めたところ、田久保氏は「卒業証書」と題する文書を数秒程度見せたが、その後の原本・写しの提出要請はすべて断った。
同年7月2日、田久保氏は福島弁護士の同席のもと会見を開き、「卒業は確認ができず、除籍であることが判明した」と公表した。しかし「一度卒業という扱いになって、今どうして除籍になっているのかは確認ができ次第示していく」とも述べ、説明は二転三転した。
市議会の百条委員会が設置され、調査が進む中で、田久保氏は同年8月13日の証人尋問において「6月28日に東洋大学を訪問した際に初めて除籍と知った」と証言したが、百条委員会はこれを虚偽と判定した。同年9月1日、市議会は全会一致で不信任決議案を可決した。
今年3月30日、田久保氏は有印私文書偽造・同行使罪および地方自治法違反の罪で在宅起訴された。
起訴状によれば、田久保氏はインターネットを通じて印鑑製造販売業者に学長・法学部長名義の印鑑の作成を依頼し、それを押印して「卒業証書」とされる文書を偽造、上述したように2025年6月4日に伊東市役所で議長らに示したとされている。
「卒業証書」は金庫内で保管
今年2月14日、静岡県警が田久保氏の自宅を家宅捜索したが、「卒業証書」は発見されなかった。福島弁護士が自身の法律事務所内の金庫で保管しており、刑事訴訟法で認められている「弁護士の押収拒絶権」を行使して差押えを拒んでいるとされる。
弁護士の押収拒絶権とは何か。
刑事訴訟法は、弁護士が業務上委託を受けて保管している物で他人の秘密に関するものについては、押収を拒むことができると定めている(同法105条)。ただし、「被告人のためのみにする権利の濫用」と認められる場合(被告人が本人である場合を除く)は例外となる。なお、「被告人」とあるが、この規定は「被疑者」にも準用される(222条1項)。
この条文によれば、田久保氏(被疑者・被告人)が「本人」であるため、福島弁護士が押収拒絶権を行使して卒業証書の引き渡しを拒むことが認められるということになる。
なお、弁護士が依頼者の意思に反して証拠物を捜査機関に引き渡せば、守秘義務違反として弁護士会の懲戒の対象になり得るとの指摘も考えられる。
これに対し、市民グループはどのような論理を用いて告発に踏み切ったのか。
告発の対象とされた「2つの行為」とは
告発代理人の浦川祐輔弁護士は記者会見で、上述した押収拒絶権との関係についてこう述べた。
浦川弁護士:「押収拒絶権の行使自体は認められると考えられるが、それによって、証拠隠滅罪の違法性が阻却されるものではない」
つまり、「捜査機関が強制捜索に来た際に拒む権利があること」と、「証拠を隠し続けることが犯罪を構成するかどうか」は、別個の法的問題だという主張である。
証拠隠滅罪は、「他人の刑事事件の証拠を隠滅、偽造、変造」した場合に成立する(刑法104条)。そこで、どのような行為がこれにあたるかが問題となる。
告発状によれば、対象となっている福島弁護士の行為は以下の2つである。
第一に、今年2月14日の家宅捜索当日に、「卒業証書」が捜索差押許可状による差押えの対象物件となっており、田久保氏の刑事事件の重要な証拠であることなどを認識したにもかかわらず、押収拒絶権の行使と主張して、自身が所属する法律事務所の金庫内に「卒業証書」を保管したことが、証拠隠滅罪を構成するという。
第二に、今年3月30日に、田久保氏の在宅起訴が報じられ、インターネットを通じて印鑑業者に偽造印鑑を発注していたという犯行態様が公知の事実となった。この時点以降、福島弁護士が「卒業証書」が偽造されたものである可能性があることを認識したのであるから、それでも保管し続けた行為は「未必の故意」による証拠隠滅罪を構成するという。
ただし、証拠隠滅罪については、従来、学説・実務では、証拠を隠滅する行為と同時に犯罪が成立すると解されている(「状態犯」とよばれる)。
これを本件にあてはめると、「金庫に収納し保管を始める行為」が「証拠隠滅行為」にあたりうることになる。
しかし、告発側の論理に従えば、「金庫に収納し保管を始める行為」が行われた段階では「故意」が認定されないことになる。
本件のようなケースについて明確に判断した裁判例は見当たらないため、この点が、起訴・不起訴の判断においてどのように考慮されるか、注目される。

